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Episode2・魔界の玉座のかたわらに
家族で初めての洞窟探検11
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「守ってくださってありがとうございました」
「俺の特権だ。守るのも、叶えるのも」
「……情けないほど些末なことでも、ですか?」
「どんな事でもだ」
迷いないハウストの言葉。
私には勿体ないくらいです。でも勿体ないからといって誰にも譲ったりできない愛おしい方。
私は視線を僅かに落とし、でもゆっくり顔をあげました。
「私が祈り石を欲しくなった理由は、嫉妬したからなんです」
「お前が? いったい誰に嫉妬して石を欲したんだ。その相手は、それほど魅力的な宝石を持っていたのか? お前が祈り石を欲しがるほどの」
ハウストが驚いた顔になりました。
どうやら勘違いしているようです。私は誰かの宝石に嫉妬したわけではないというのに。
「いいえ、そういうことではないんです」
私は荷物からハンマーとノミを取り出しました。
おもむろにハンマーとノミを握った私にハウストとイスラがぎょっとする。
「ブレイラ、それは……」
「これはドミニク様からお預かりした特別なハンマーとノミ。どんなに硬い原石も、かち割って取ることが出来るそうです」
「待て、話しが分からん。どうしてドミニクの道具をお前が持っているんだ」
「そんなの決まってるじゃないですか。私はドミニク様と取り引きしたのです。原石を持ち帰る替わりに、指輪を作ってほしいと」
「指輪だと? まさか、お前……」
「はい、あなたの指輪です。私、悔しかったんです、自分に指輪を作る力が無くて……。しかもあなたはとても魅力的で、あなたに惹かれる方も多くて、その方々は指輪を作れる魔力を持っている。そう思うと、とても嫉妬しました。……もう隠す必要を感じないので告白しますが、フェリシア様が怖いのです。彼女は、私が欲しいものをすべて持っていますから」
「ブレイラ……」
ハウストが驚きで目を丸めました。
当然の反応です。
私もこうして語りながら、とても怖い。呆れられてしまうのではないかと。
でも今、私の望みは一つです。
「だから、私が贈った指輪をあなたも嵌めてくれればいいと思いました。その為に」
そこで言葉を切ると、ひと際大きく、ひと際キラキラ輝く原石の前に立ちました。この場にある原石の中で最も美しいそれ。ハウストに相応しい石です。
私は祈り石の原石を見つめ、ハンマーとノミを構える。そして。
「今から石に力を宿らせる為に祈ります!」
カーン!!
洞窟に響いたのは原石をハンマーで叩く甲高い音。
使い方はドミニク様から教授されているので大丈夫。
自慢ではないですが、私は今まで神に祈ったことはありません。正しい祈り方も分かりません。これで良いのか疑問ですが、欲しいのです、指輪が。ハウストを繋ぎ止める為の指輪が。
「ハウストが浮気しませんように!」
カーン!!
「ハウストの心が私以外に移りませんように!」
カーン!!
「ハウストの前に、ハウストを誘惑する女性や男性が現れませんように!」
カーン!!
「ハウストと私の間が誰にも邪魔されませんように!」
カーン!!
原石を打つたびに洞窟内に甲高い音が響く。
反響音はどこまでもどこまでも響いて、側で見学しているハウストとイスラはごくりっと息を飲む。
「あれは祈り、なのか……?」
「ハ、ハウスト……、ブレイラが」
イスラが少し青褪めた顔でハウストの服の裾を握りしめています。
見れば抱っこされているゼロスもイスラの服を握りしめていて、なんですか三人とも、その顔は。
「――――ハウスト」
「な、なんだ」
カーン!! カーン!!
私は原石をハンマーで叩きながらハウストに語り掛けます。
今だからこそ伝えたいのです。
「以前もお話ししましたが、私は誰かとあなたを分かち合う気はありません。あなたに寄り添うのは、私だけでなければ嫌です」
「もちろん分かっている。俺もそのつもりだ」
カーン!! カーン!!
「私は、あなたを繋ぎ止める為の努力を惜しみません」
「光栄だ」
カーン!! カーン!!
「あなたに相応しくあるように、常に学びます」
「真面目で勤勉なお前が誇らしい」
カーン!! カーン!!
「でも、こうして一番側にいたいと祈っても、あなたが戦場に立つ時、私は側にいられないでしょう」
「ブレイラ……」
カーン!! カーン!!
「あなたへの願い、あなたの為の祈りは数多くあります。でも、すべてを引き換えにしても祈りたいことは」
私は力を込めてハンマーを振り下ろす。
ガキーンッ!!
とうとう原石が折れて、私の手中に転がり落ちました。
手に入れた祈り石をそっと握りしめます。
「あなたの望みが叶いますように」
「あなたの未来が満たされますように」
「あなたがどんな困難にも打ち勝てますように」
「あなたが、あなたがっ……」
手中の祈り石にそっと唇を寄せる。
「あなたが、守られますように」
願いは叶い、祈りは届き、すべてが満たされますように。
あなたの為の祈りです。
これが私の願いであり、祈り。
「……ハウスト、これが私にできる精いっぱいです。環の指輪ではありませんが、どうか受け取ってください」
祈り石を差し出した私の手に、ハウストの手がそっと重ねられました。
両手で優しく包まれて視界がじわりと滲む。
「ブレイラ、ありがとう。これを俺がお前のものだという証として受け取ろう」
「ハウストっ」
堪らなくなってハウストの懐にそっと身を寄せました。
ハウストに贈る指輪は歴代王妃が魔王に贈ってきたものとは違うけれど、それでも婚礼の指輪として受け取ってくれる。
今も両腕で抱きしめて離さないでいてくれる。私は幸せな人間です。ほんとうに。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「ああ、俺も嬉しいぞ。だからこれは片付けような」
さり気なくハンマーとノミを取り上げられ、片付けられてしまいました。
ふと、くいくいっとローブの裾を引っ張られました。
見るとイスラがゼロスを抱っこしたまま大きな瞳で見上げています。ゼロスも、ちゅちゅちゅちゅちゅ、と指吸いをして私をじっと見上げている。
「ブレイラ、オレとゼロスは?」
オレたちを忘れるなといわんばかりの瞳に思わず笑んでしまいました。
私はハウストの腕の中から離れ、イスラとゼロスの前に膝をついて目線を合わせます。
「イスラ、あなたが守られますように」
イスラの頬に手を添えて、その額にそっと口付けました。
照れ臭そうなイスラに目を細め、次はゼロスです。
私はイスラからゼロスを抱きとりました。
「ゼロス、あなたもです。あなたが守られますように」
腕の中のゼロスのふっくらした頬に口付けます。
するとくすぐったそうに笑って、「あーうー」と小さな手を伸ばしてくれました。
私は二人の頭をいい子いい子と撫でて、ゆっくりと立ち上がります。
「私の我儘に付き合ってくれてありがとうございました」
「構わない、叶えるのは俺の役目だ。こうして指輪の原石を手に入れたことだし。だが」
ハウストが壁や天井を覆っている祈り石の原石を見回しました。ランタンに照らされた琥珀色の原石がキラキラと輝いています。研磨すれば更に輝きは増し、値打もかなり高くなることでしょう。
「どうしました、ハウスト」
「考えたんだが、祈り石のあるこの鍾乳洞を」
ハウストが何かを言いかけましたが、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
猛烈な勢いで地面を掘り進める音。
地中から響くそれに、まさかっ、と息を飲む。
「ハウスト、これはっ……」
「ああ、ここは巨大モグラの棲み処どころか、生息地になっていたようだな」
見てみろ、とハウストが視線を向けます。
視線を追って息を飲みました。
暗闇の空間に爛々と輝く無数の目。数えきれないほどのそれに全身の血の気が引いていく。
「あ、あんなにっ?!」
三体や五体どころではありません。壁や天井にもびっしり見えて、きっとこれ千体以上いるのではっ。
「なんだか気持ち悪いですっ……」
ああもう眩暈がしそう。
青褪めた私を庇うようにハウストが立ち、イスラが剣を構えました。
「俺の特権だ。守るのも、叶えるのも」
「……情けないほど些末なことでも、ですか?」
「どんな事でもだ」
迷いないハウストの言葉。
私には勿体ないくらいです。でも勿体ないからといって誰にも譲ったりできない愛おしい方。
私は視線を僅かに落とし、でもゆっくり顔をあげました。
「私が祈り石を欲しくなった理由は、嫉妬したからなんです」
「お前が? いったい誰に嫉妬して石を欲したんだ。その相手は、それほど魅力的な宝石を持っていたのか? お前が祈り石を欲しがるほどの」
ハウストが驚いた顔になりました。
どうやら勘違いしているようです。私は誰かの宝石に嫉妬したわけではないというのに。
「いいえ、そういうことではないんです」
私は荷物からハンマーとノミを取り出しました。
おもむろにハンマーとノミを握った私にハウストとイスラがぎょっとする。
「ブレイラ、それは……」
「これはドミニク様からお預かりした特別なハンマーとノミ。どんなに硬い原石も、かち割って取ることが出来るそうです」
「待て、話しが分からん。どうしてドミニクの道具をお前が持っているんだ」
「そんなの決まってるじゃないですか。私はドミニク様と取り引きしたのです。原石を持ち帰る替わりに、指輪を作ってほしいと」
「指輪だと? まさか、お前……」
「はい、あなたの指輪です。私、悔しかったんです、自分に指輪を作る力が無くて……。しかもあなたはとても魅力的で、あなたに惹かれる方も多くて、その方々は指輪を作れる魔力を持っている。そう思うと、とても嫉妬しました。……もう隠す必要を感じないので告白しますが、フェリシア様が怖いのです。彼女は、私が欲しいものをすべて持っていますから」
「ブレイラ……」
ハウストが驚きで目を丸めました。
当然の反応です。
私もこうして語りながら、とても怖い。呆れられてしまうのではないかと。
でも今、私の望みは一つです。
「だから、私が贈った指輪をあなたも嵌めてくれればいいと思いました。その為に」
そこで言葉を切ると、ひと際大きく、ひと際キラキラ輝く原石の前に立ちました。この場にある原石の中で最も美しいそれ。ハウストに相応しい石です。
私は祈り石の原石を見つめ、ハンマーとノミを構える。そして。
「今から石に力を宿らせる為に祈ります!」
カーン!!
洞窟に響いたのは原石をハンマーで叩く甲高い音。
使い方はドミニク様から教授されているので大丈夫。
自慢ではないですが、私は今まで神に祈ったことはありません。正しい祈り方も分かりません。これで良いのか疑問ですが、欲しいのです、指輪が。ハウストを繋ぎ止める為の指輪が。
「ハウストが浮気しませんように!」
カーン!!
「ハウストの心が私以外に移りませんように!」
カーン!!
「ハウストの前に、ハウストを誘惑する女性や男性が現れませんように!」
カーン!!
「ハウストと私の間が誰にも邪魔されませんように!」
カーン!!
原石を打つたびに洞窟内に甲高い音が響く。
反響音はどこまでもどこまでも響いて、側で見学しているハウストとイスラはごくりっと息を飲む。
「あれは祈り、なのか……?」
「ハ、ハウスト……、ブレイラが」
イスラが少し青褪めた顔でハウストの服の裾を握りしめています。
見れば抱っこされているゼロスもイスラの服を握りしめていて、なんですか三人とも、その顔は。
「――――ハウスト」
「な、なんだ」
カーン!! カーン!!
私は原石をハンマーで叩きながらハウストに語り掛けます。
今だからこそ伝えたいのです。
「以前もお話ししましたが、私は誰かとあなたを分かち合う気はありません。あなたに寄り添うのは、私だけでなければ嫌です」
「もちろん分かっている。俺もそのつもりだ」
カーン!! カーン!!
「私は、あなたを繋ぎ止める為の努力を惜しみません」
「光栄だ」
カーン!! カーン!!
「あなたに相応しくあるように、常に学びます」
「真面目で勤勉なお前が誇らしい」
カーン!! カーン!!
「でも、こうして一番側にいたいと祈っても、あなたが戦場に立つ時、私は側にいられないでしょう」
「ブレイラ……」
カーン!! カーン!!
「あなたへの願い、あなたの為の祈りは数多くあります。でも、すべてを引き換えにしても祈りたいことは」
私は力を込めてハンマーを振り下ろす。
ガキーンッ!!
とうとう原石が折れて、私の手中に転がり落ちました。
手に入れた祈り石をそっと握りしめます。
「あなたの望みが叶いますように」
「あなたの未来が満たされますように」
「あなたがどんな困難にも打ち勝てますように」
「あなたが、あなたがっ……」
手中の祈り石にそっと唇を寄せる。
「あなたが、守られますように」
願いは叶い、祈りは届き、すべてが満たされますように。
あなたの為の祈りです。
これが私の願いであり、祈り。
「……ハウスト、これが私にできる精いっぱいです。環の指輪ではありませんが、どうか受け取ってください」
祈り石を差し出した私の手に、ハウストの手がそっと重ねられました。
両手で優しく包まれて視界がじわりと滲む。
「ブレイラ、ありがとう。これを俺がお前のものだという証として受け取ろう」
「ハウストっ」
堪らなくなってハウストの懐にそっと身を寄せました。
ハウストに贈る指輪は歴代王妃が魔王に贈ってきたものとは違うけれど、それでも婚礼の指輪として受け取ってくれる。
今も両腕で抱きしめて離さないでいてくれる。私は幸せな人間です。ほんとうに。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「ああ、俺も嬉しいぞ。だからこれは片付けような」
さり気なくハンマーとノミを取り上げられ、片付けられてしまいました。
ふと、くいくいっとローブの裾を引っ張られました。
見るとイスラがゼロスを抱っこしたまま大きな瞳で見上げています。ゼロスも、ちゅちゅちゅちゅちゅ、と指吸いをして私をじっと見上げている。
「ブレイラ、オレとゼロスは?」
オレたちを忘れるなといわんばかりの瞳に思わず笑んでしまいました。
私はハウストの腕の中から離れ、イスラとゼロスの前に膝をついて目線を合わせます。
「イスラ、あなたが守られますように」
イスラの頬に手を添えて、その額にそっと口付けました。
照れ臭そうなイスラに目を細め、次はゼロスです。
私はイスラからゼロスを抱きとりました。
「ゼロス、あなたもです。あなたが守られますように」
腕の中のゼロスのふっくらした頬に口付けます。
するとくすぐったそうに笑って、「あーうー」と小さな手を伸ばしてくれました。
私は二人の頭をいい子いい子と撫でて、ゆっくりと立ち上がります。
「私の我儘に付き合ってくれてありがとうございました」
「構わない、叶えるのは俺の役目だ。こうして指輪の原石を手に入れたことだし。だが」
ハウストが壁や天井を覆っている祈り石の原石を見回しました。ランタンに照らされた琥珀色の原石がキラキラと輝いています。研磨すれば更に輝きは増し、値打もかなり高くなることでしょう。
「どうしました、ハウスト」
「考えたんだが、祈り石のあるこの鍾乳洞を」
ハウストが何かを言いかけましたが、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
猛烈な勢いで地面を掘り進める音。
地中から響くそれに、まさかっ、と息を飲む。
「ハウスト、これはっ……」
「ああ、ここは巨大モグラの棲み処どころか、生息地になっていたようだな」
見てみろ、とハウストが視線を向けます。
視線を追って息を飲みました。
暗闇の空間に爛々と輝く無数の目。数えきれないほどのそれに全身の血の気が引いていく。
「あ、あんなにっ?!」
三体や五体どころではありません。壁や天井にもびっしり見えて、きっとこれ千体以上いるのではっ。
「なんだか気持ち悪いですっ……」
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