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Episode2・魔界の玉座のかたわらに
家族で初めての洞窟探検10
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「お疲れ様でした。ご無事でなによりです」
「ブレイラ、オレつよかった?!」
「はい、とても強かったですよ」
答えるとイスラが満足そうに胸を張ります。
その可愛らしい姿に目を細め、ハウストに向き直りました。
「ハウスト、ありがとうございました。これ返しますね」
短剣を差し出すとハウストは黙って受け取ります。
彼は短剣と私を見て、長い息をつく。
「満足したか?」
「はい、ありがとうございました」
「嘘だな。何かあったのか? 話してくれ」
「何もありません。些末なことです」
「その些末なことが聞きたい」
ハウストは誤魔化されてくれず尋問のように聞いてきました。
答えられずにいましたが、その時。
「話しは後だっ。走れ!」
「えっ、うわあ!!」
突然腕を掴まれて走らされました。
いきなりの事に思考が追い付きません。
どうしたのか聞こうとして、――――ドドドドドドドドッ!!
地面を振動させるほどの猛烈な足音。しかもそれは一体ではありません。
「ま、まさかっ!」
「そのまさかだ。まだいたようだな」
ハウストが私を引っ張るようにして走ります。
私はゼロスをしっかりと抱き締めて付いていく。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……、もぐら、みっつ?」
「いや、五体だ。気配は小さいがあと二体いる」
イスラが背後から追ってくるモグラを数えながら走り、ハウストが訂正しています。
二人は余裕かもしれませんが私は気が気じゃありません。
「イスラ、来たぞ!」
「まかせろ!」
ガンッ!!
黒い影が飛びかかって来たのとイスラの剣が閃いたのは同時でした。
砲弾のように突っ込んできた小型モグラをイスラが剣で弾き返したのです。
「油断するな。次もきたぞ!」
「うん!」
イスラは瞬時に気配を読んで剣を翻す。
あっという間に小型モグラを退治してしまいました。
「よし、このまま走るぞ」
「わかった。ブレイラ、だいじょうぶ?」
「私は、大丈夫ですっ」
驚きと緊張で息が切れてしまっていますが、大丈夫。走れます。
背後からは猛烈な勢いで追いかけてくる巨大モグラが三体。ここで立ち止まれば私など簡単に餌になってしまうでしょう。
私はハウストに手を引かれたまま走り続け、細い道から広い空間へと出ました。
空間の中心で立ち止まり、ハウストは剣を構えて闇一色の空洞を見据えます。
「ここで仕留める。イスラはブレイラの側を離れるな」
「うん!」
「なにがあっても魔力は使うな。できるな?」
「できる!」
「よし」
ハウストが迫りくる巨大モグラに身構えました。
地下空洞の暗闇からいつ飛び出してくるか分かりません。
固唾を飲んで巨大モグラの気配を探す。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
巨大ななにかが地中を猛烈な勢いで進んでいる。そして。
「上だ!!」
巨大な黒い影が頭上から襲い掛かってきました。
「ゼロス!」私は咄嗟にゼロスを抱き締めてしゃがみ、ハウストが剣を閃かせて迎え撃つ。
ガンッ!!
「ギャアアア!!」
ハウストが剣で巨大モグラを薙ぎ払い、巨体が壁に激突しました。
即座に剣筋を変えて別方向から突進してくる巨大モグラを迎え撃ちます。モグラの勢いを利用して巨体を両断し、今度は背後から襲い掛かって来た巨大モグラを振り向きざまに切り捨てました。
その間、僅か五秒。
息を飲む間もなく巨大モグラ討伐は終わりました。
「終わったぞ。怪我はないか?」
ハウストがしゃがんだままの私に手を差し出してくれます。
その手に手を重ね、ゆっくり立ち上がりました。
「ありがとうございます。ゼロスも私も大丈夫です。それにしても凄いですね、こんな怪物を剣だけで圧倒してしまうなんて」
「魔力だけに頼るような鍛え方はしていない。それに」
ハウストはそこで言葉を切ると、私の頬にそっと手を伸ばします。
くすぐるようにひと撫でし、「ようやくだぞ」とニヤリと笑う。
「祈り石はすぐそこだ。目の前だというのに魔力を使って外へ強制送還はさすがに面白くないだろう。ようやくお前の願いを叶えてやれるのに」
「……私の為、でしたか」
言葉が出てきません。
だって祈り石を欲したのは私の嫉妬と我儘で、ハウストにこんなふうに特別に思ってもらうに相応しいものではないのです。でも。
「それ以外に理由があるのか?」
ハウストは当たり前のように言いました。
甘やかな切なさに胸が痛い。
ハウストは広い地下空間をランタンで照らしながら進み、私も後に続きます。奥へ進むにつれて空間の壁や天井がランタンの灯りを反射してキラキラと輝きだしました。
「まさか、これはっ……」
「ああ、祈り石の原石だ」
魔界でも、この鍾乳洞にしか存在しない石・祈り石。
壁も天井も祈り石の原石に覆われていたのです。
何万年も閉ざされていた空間のなかで、ひっそりと輝いていたのですね。
そして最奥には一際輝く琥珀色の石がありました。まるで石自体が輝いているような、強い光を放っています。
「こんなに美しい石があるなんて」
「行ってみよう」
そう言ってハウストが奥へ促してくれましたが。
ドザアアァァァッ!!
「えっ?」
突如、足元の地面から飛び出してきた巨大な影。
鼻先ほどの距離に、ビュッと風圧に襲われて体が飛んでいきそうになる。
逃げなければ、そう思うのに突然の事に体が動いてくれない。
「キイイイイィィィィィ!!!!」
モグラは甲高い鳴き声をあげて巨大な腕を振りかざす。
鎌のような鋭い爪が私を襲う寸前。
ガキンッ!!
ハウストが割り込み、剣でモグラのかぎ爪を弾きました。
でも一緒にハウストの剣まで弾き飛ばされてしまう。
「ブレイラ、下がっていろ!」
「でも剣がっ!」
剣が放物線を描いて遠くへ突き刺さる。
剣を失い、そうしている間にも巨大モグラのかぎ爪がハウストに襲い掛かりました。
ダメです! 今ハウストは剣を持っていないのに!!
「ハウスト、魔力を使ってください!! もう、もういいですから!!」
心から叫びました。
祈り石などいりません。ハウストが危険な目に遭うくらいなら、そんなもの望みません。だから、だから早く魔力を!!
祈るように願う。でも、そんな私にハウストが口端をあげて笑います。
「馬鹿なことを言うな。これからだろう」
――――ドゴオオォッ!!!!!!
刹那、響いたのは凄まじい殴打音。
ハウストの拳が巨大モグラの鼻頭にめり込んだのです。
強烈な衝撃に巨大モグラが吹っ飛び、壁に激突して沈黙する。
呆然とする私に、「なんて顔をしている」とハウストが笑いながら振り返りました。
「俺は魔力よりこっちの方が得意だ。忘れたのか?」
その言葉に思い出すのは、彼が精霊界でジェノキスと戦った時の事。
覚えています。覚えているに決まっているじゃないですか。
「忘れていません。でも、私があなたの身を案じることも当たり前のことです。ましてや私の嫉妬が原因であなたが怪我なんてしたら、私は自分が許せなくなるっ……」
「嫉妬? なんのことだ」
「……情けない嫉妬です。聞けば、あなたは呆れてしまうかもしれない。……イスラ、ゼロスをお願いしてもいいですか?」
私は抱っこしていたゼロスを側にいたイスラに渡しました。
そしてハウストを見つめます。
もう本当の理由を隠しておくことはできません。
とても情けないので隠しておきたかったけれど、これだけの我儘に付き合わせておいて罪悪感でいっぱいです。
私はハウストの硬い拳に手を伸ばしました。
両手で掬うように持ち上げ、そっと唇を寄せる。
鋼鉄のように硬い拳です。この拳の破壊力はよく存じています。そして、これが私を守ってくれていることも。
「ブレイラ、オレつよかった?!」
「はい、とても強かったですよ」
答えるとイスラが満足そうに胸を張ります。
その可愛らしい姿に目を細め、ハウストに向き直りました。
「ハウスト、ありがとうございました。これ返しますね」
短剣を差し出すとハウストは黙って受け取ります。
彼は短剣と私を見て、長い息をつく。
「満足したか?」
「はい、ありがとうございました」
「嘘だな。何かあったのか? 話してくれ」
「何もありません。些末なことです」
「その些末なことが聞きたい」
ハウストは誤魔化されてくれず尋問のように聞いてきました。
答えられずにいましたが、その時。
「話しは後だっ。走れ!」
「えっ、うわあ!!」
突然腕を掴まれて走らされました。
いきなりの事に思考が追い付きません。
どうしたのか聞こうとして、――――ドドドドドドドドッ!!
地面を振動させるほどの猛烈な足音。しかもそれは一体ではありません。
「ま、まさかっ!」
「そのまさかだ。まだいたようだな」
ハウストが私を引っ張るようにして走ります。
私はゼロスをしっかりと抱き締めて付いていく。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……、もぐら、みっつ?」
「いや、五体だ。気配は小さいがあと二体いる」
イスラが背後から追ってくるモグラを数えながら走り、ハウストが訂正しています。
二人は余裕かもしれませんが私は気が気じゃありません。
「イスラ、来たぞ!」
「まかせろ!」
ガンッ!!
黒い影が飛びかかって来たのとイスラの剣が閃いたのは同時でした。
砲弾のように突っ込んできた小型モグラをイスラが剣で弾き返したのです。
「油断するな。次もきたぞ!」
「うん!」
イスラは瞬時に気配を読んで剣を翻す。
あっという間に小型モグラを退治してしまいました。
「よし、このまま走るぞ」
「わかった。ブレイラ、だいじょうぶ?」
「私は、大丈夫ですっ」
驚きと緊張で息が切れてしまっていますが、大丈夫。走れます。
背後からは猛烈な勢いで追いかけてくる巨大モグラが三体。ここで立ち止まれば私など簡単に餌になってしまうでしょう。
私はハウストに手を引かれたまま走り続け、細い道から広い空間へと出ました。
空間の中心で立ち止まり、ハウストは剣を構えて闇一色の空洞を見据えます。
「ここで仕留める。イスラはブレイラの側を離れるな」
「うん!」
「なにがあっても魔力は使うな。できるな?」
「できる!」
「よし」
ハウストが迫りくる巨大モグラに身構えました。
地下空洞の暗闇からいつ飛び出してくるか分かりません。
固唾を飲んで巨大モグラの気配を探す。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
巨大ななにかが地中を猛烈な勢いで進んでいる。そして。
「上だ!!」
巨大な黒い影が頭上から襲い掛かってきました。
「ゼロス!」私は咄嗟にゼロスを抱き締めてしゃがみ、ハウストが剣を閃かせて迎え撃つ。
ガンッ!!
「ギャアアア!!」
ハウストが剣で巨大モグラを薙ぎ払い、巨体が壁に激突しました。
即座に剣筋を変えて別方向から突進してくる巨大モグラを迎え撃ちます。モグラの勢いを利用して巨体を両断し、今度は背後から襲い掛かって来た巨大モグラを振り向きざまに切り捨てました。
その間、僅か五秒。
息を飲む間もなく巨大モグラ討伐は終わりました。
「終わったぞ。怪我はないか?」
ハウストがしゃがんだままの私に手を差し出してくれます。
その手に手を重ね、ゆっくり立ち上がりました。
「ありがとうございます。ゼロスも私も大丈夫です。それにしても凄いですね、こんな怪物を剣だけで圧倒してしまうなんて」
「魔力だけに頼るような鍛え方はしていない。それに」
ハウストはそこで言葉を切ると、私の頬にそっと手を伸ばします。
くすぐるようにひと撫でし、「ようやくだぞ」とニヤリと笑う。
「祈り石はすぐそこだ。目の前だというのに魔力を使って外へ強制送還はさすがに面白くないだろう。ようやくお前の願いを叶えてやれるのに」
「……私の為、でしたか」
言葉が出てきません。
だって祈り石を欲したのは私の嫉妬と我儘で、ハウストにこんなふうに特別に思ってもらうに相応しいものではないのです。でも。
「それ以外に理由があるのか?」
ハウストは当たり前のように言いました。
甘やかな切なさに胸が痛い。
ハウストは広い地下空間をランタンで照らしながら進み、私も後に続きます。奥へ進むにつれて空間の壁や天井がランタンの灯りを反射してキラキラと輝きだしました。
「まさか、これはっ……」
「ああ、祈り石の原石だ」
魔界でも、この鍾乳洞にしか存在しない石・祈り石。
壁も天井も祈り石の原石に覆われていたのです。
何万年も閉ざされていた空間のなかで、ひっそりと輝いていたのですね。
そして最奥には一際輝く琥珀色の石がありました。まるで石自体が輝いているような、強い光を放っています。
「こんなに美しい石があるなんて」
「行ってみよう」
そう言ってハウストが奥へ促してくれましたが。
ドザアアァァァッ!!
「えっ?」
突如、足元の地面から飛び出してきた巨大な影。
鼻先ほどの距離に、ビュッと風圧に襲われて体が飛んでいきそうになる。
逃げなければ、そう思うのに突然の事に体が動いてくれない。
「キイイイイィィィィィ!!!!」
モグラは甲高い鳴き声をあげて巨大な腕を振りかざす。
鎌のような鋭い爪が私を襲う寸前。
ガキンッ!!
ハウストが割り込み、剣でモグラのかぎ爪を弾きました。
でも一緒にハウストの剣まで弾き飛ばされてしまう。
「ブレイラ、下がっていろ!」
「でも剣がっ!」
剣が放物線を描いて遠くへ突き刺さる。
剣を失い、そうしている間にも巨大モグラのかぎ爪がハウストに襲い掛かりました。
ダメです! 今ハウストは剣を持っていないのに!!
「ハウスト、魔力を使ってください!! もう、もういいですから!!」
心から叫びました。
祈り石などいりません。ハウストが危険な目に遭うくらいなら、そんなもの望みません。だから、だから早く魔力を!!
祈るように願う。でも、そんな私にハウストが口端をあげて笑います。
「馬鹿なことを言うな。これからだろう」
――――ドゴオオォッ!!!!!!
刹那、響いたのは凄まじい殴打音。
ハウストの拳が巨大モグラの鼻頭にめり込んだのです。
強烈な衝撃に巨大モグラが吹っ飛び、壁に激突して沈黙する。
呆然とする私に、「なんて顔をしている」とハウストが笑いながら振り返りました。
「俺は魔力よりこっちの方が得意だ。忘れたのか?」
その言葉に思い出すのは、彼が精霊界でジェノキスと戦った時の事。
覚えています。覚えているに決まっているじゃないですか。
「忘れていません。でも、私があなたの身を案じることも当たり前のことです。ましてや私の嫉妬が原因であなたが怪我なんてしたら、私は自分が許せなくなるっ……」
「嫉妬? なんのことだ」
「……情けない嫉妬です。聞けば、あなたは呆れてしまうかもしれない。……イスラ、ゼロスをお願いしてもいいですか?」
私は抱っこしていたゼロスを側にいたイスラに渡しました。
そしてハウストを見つめます。
もう本当の理由を隠しておくことはできません。
とても情けないので隠しておきたかったけれど、これだけの我儘に付き合わせておいて罪悪感でいっぱいです。
私はハウストの硬い拳に手を伸ばしました。
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