お気に入りの悪魔

富井

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出会う

三、

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それからまた、2日が過ぎた。



もうずいぶん前から電気も水も水道も止められ、家賃も払えず、アパートにいずらくなり、荷物の一つもなく公園のベンチで生活していた。

近くに高校があって、部活をしている学生たちを見ていたら、あのときはほんとうに幸せだったなと涙が出てきた。ほんの5年前のことだが、かなり前に感じる・・・・



朝は母親に起こしてもらって、勉強も3年間、何やったかあまり覚えていないけれど皆勤賞。部活は野球部。余り強くはなかったけれど、大好きで遅くまで練習してその後友達と話しをしたりカラオケ行ったり・・・ごはんも三食、親がちゃんと用意してくれていて、あたりまえのようだがお風呂も毎日入れた。

「帰りて~」

今さらこんな姿では恥ずかしくて帰れない。やっぱり・・・死ぬか・・・公園のベンチで横になり、そんなことを考えてはいたがお腹が空きすぎて、死ぬ元気も出なかった。

「だーれだ?」

「ロ・・・ビ・・・ン・・・」

今日のスーツは花柄?目が霞んでよく見えなかった。

「また見つかっちゃたね~。ま、ナポリタンでも食べながらゆっくり話そうか。」

ロビンはスタスタ歩いて行ったが、僕は起き上がる力も残ってなかった。

それでも、ついていけばナポリタンにつられて、ヨタヨタとついて行った。時には壁に捕まり、時には這いながら、ようやく辿りついたのは、またあの喫茶店だった。

「ナポリタンとミートソースどっちにする?ボンゴレもいけるんだー。」

「いちばん早くできるもので・・・」

「すいませ~ん。ナポリタン2つサラダつきで。」

僕はテーブルに置かれた水を一気に飲み干した。ただそれだけで少しだけ生き帰った気がした。

「それで、バディ組む?」

「組みます。」

もう、仕事の内容なんて何でもよかった。

とにかく屋根のあるところで寝むれて、ごはんが食べれて、欲を言えば毎日風呂に入れると嬉しい。断わる理由も見つからないくらい生活は逼迫していた。

「じゃあまず、握手。」

ロビンは右手をだした。指が異常に細長く、その指のほとんどに指輪をはめていた。

目の前にナポリタンが置かれると、それを流し込むように食べた。ついてきたサラダもスープも飲むようにして全部食べた。

その姿にロビンも店員もほかの客も唖然と見ていたが、お構いなしに食べ続けた。

「あー生き帰った。ご馳走様。」

呆気にとられ立ち止まっていた人たちも、食べ終わったと同時に動きだした。

「う、うん。よかったらコレも食べる。」

「え?いいんすか?」

「君の食べっぷりを見ているだけでお腹いっぱいだよ。」

「いただき~っす。」

「あの・・・いただきますね。言葉遣い気をつけようね。」

「ういーっす。」

「・・・くったらすぐいくぞ・・・。」

ようやくお腹の具合も落ち着き、血液も回りだし、目もはっきり見えるようになって、ロビンのスーツもよく見たら花柄じゃなくて、ペイズリーだった。

「今日のスーツもイイっすね~ペイズリーなんてメッチャオシャレっス。」

「そうだろ。いいだろう。なのにアメーバかっていう奴がいてさー。イヤになるよまったく。このセンスがわからないなんてどうかしてるよ。」

「さっきは目がかすんで花柄かと思ったけど、ペイズリーなんて最高っス。」

「だろう。でも花柄もいいなー。こんどは花柄にするか・・・。ところでさーおまえなにか楽器弾ける?」

「おまえはやめてくださいよ。英五っす。」

「そうだエイゴだった、楽器、なにができる?」

「何にもっす。」

「小学校とかで笛とか弾いただろ。そんなのでもいいぞ。鍵盤ハーモニカとか。」

「ソオっすね・・・カスタネットくらいは少し!」

僕は親指と人差し指を2センチくらい間を開けて見せたが、すぐ思い直して、その間を2ミリまで縮めた。

「カスタネットかよ・・・」

「タンバリンもできると思いますよ。たぶん・・・」

「できれば、バイオリンくらいは弾けてほしかったなー」

「ムリっす。僕、音楽“1”でした。」

「そんなにイキイキと言うことか。」

「なんか楽譜って白黒で地味な感じでしょう。あれきらいなんすよー。もっとピンクとかブルーだったらできたかもっす。」

「おまえ、アレだな。」

「アレ?」

「チョット・・・アホだな。」

「ういー。」


否定はしない!だから親指を立てその言葉にYESを示した。

確かに賢くはなかったし運動だってソコソコ・・・野球は好きだが、上手いわけではない。
よく考えたら何の取り柄もない。

努力することもあまり得意ではないし、並よりちょっと下の人生・・・・。
毎日を少しづつ諦めて、自分を甘やかして、ダメな自分をおどけて誤魔化して生きて来た。

そんな今までを見透かしたのか、僕のお腹が膨れるのとは逆に、ロビンはドンドン機嫌が悪くなり、ペンで机をトントンとたたき、そのトントンはだんだん早くなっていった。

そしてその音にイラつき、ペンを机に投げつけ、床に転がったペンをすぐ拾いあげると店を出て行ってしまった。

僕は皿に残ったナポリタンを口に詰め込むと、ロビンの背中を追いかけた。



ついた先は、古いビルの古い壊れそうな、ゆっくりとしか動かない、明かりがついたり消えたりするエレベーターに乗って13階の6号室。

扉を開けると小さいキッチンが壁にへばりつくようにあるだけの、小汚くがらんとした部屋。

床も窓もホコリっぽくって、天井にはホコリのつららがクリスマスの飾りのように垂れ下がり、キッチンにもリビングにも道具も家電製品もわずがで、生活感が一ミリも感じられなかった。


家具らしいものはリビングのソファと机。机の上には山盛りの紙切れが崩れて床にも散らばっていた。



そして、奥にあった3つの扉のうちの一番端っこを開けて、

「ココが今日からおまえの部屋な。」と言った。

中を覗くと、その部屋にはベッドが一つとハンガーラック。

他にはなにもない殺風景な狭いホコリだらけの部屋だったけど、僕には天国に見えた。

「うれしいっス!!ありがとうございます。」

ロビンにハグして喜びを思い切り表現してみたが、あまり機嫌は戻らなかった。それどころか若干眉間にしわが増えた気がした。

「真ん中は俺の衣裳部屋、コッチは俺の部屋だから、絶対はいるなよ。特に寝室には何にがあっても入るな。わかったな。」

「了解っス。」

「じゃあチョットここ座って。」

ロビンはソファのホコリをモップでふき、机の上の紙切れの山を手で全部下に落とした。

「じゃあ、ココにサインして。」

「はい。」

僕は何も聞かずに、書いてある内容も読まずにサインした。

「汚い字だなあ・・・。次。指、出して。」

「はい。」

僕は右手を出した。ロビンは胸に刺した羽根の飾りの針を親指に刺した。

「げ、痛ったぁ・・・~。」

ちょっと爪先で押すと、すぐにぷっくりと血の玉ができて、さっきサインした紙に指先から血を一滴落とした。そして、ロビンも指先に針を刺してサインした紙に一滴、血を垂らした。

「コレで契約成立だな。」

ロビンは自分の指の傷をペロリと舐めた。

僕もロビンに習って同じように舐めた。

「で、なんのっすか?」

「悪魔だ 今日からおまえは悪魔の見習いだ。」

ロビンは左手を差し出した。僕がロビンの手を握ることを躊躇していたら、自分から僕の手をとり握手した。左手には、全部の指に指輪をはめていた。

「とりあえずしばらくは、スーツは1着ね。おまえ使えるな~と思ったら新調してやるよ。喜べ。」

「ういーっす。で、悪魔ってなにやるんスカ?」

「それはおいおい教えるけど、まず言葉遣い直せ。

これから俺はチョット出るけど、おまえはココから一歩も出るなよ。絶対!な!

それと、ドアをノックされても絶対開けるな。声もかけてはダメだぞ。

約束だからな。絶対だぞ!」

ロビンは人指し指を僕の鼻先に指してそう言い残すと、さっと消えるように出掛けていった。

何もすることがなくてとりあえず、ベッドで横になったがホコリがすごすぎてすごくむせた。

指で床をなぞると線が描けるくらいホコリが積もっていた。
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