お気に入りの悪魔

富井

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秘密のステッキ

一、

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「ごめんエーゴ。俺ちょっと行くとこあるんだ。一人で帰れるか?」

結構な時間をスーパーで費やしたらしく、気づけばいつもロビンが出かける時間になっていた。
いつも決まってこの時間に出かける、よほど大切なことがあるに違いない。

「いいよ、大丈夫。ゆっくりだけど一人で飛んで帰るよ。」

「じゃあ、気を付けろよ。天使には絶対に近づくな!首のところにクロスのタトゥーがある。けど、もう見た目からそれってわかるから。
あいつら一匹では絶対行動しないんだ、必ず最低3匹はいる。囲まれたら逃げるのは難しいぞ、羽を鳴らしてすぐ仲間を呼ぶんだ。そしたら、見る見る集まって空が真っ黒になるくらい集まるからな。いいな、一匹見かけたらすぐ逃げろよ。」

スーパーから出ると、そう言い残してロビンは飛び立っていった。

僕もよろよろと不安定ではあるけど一人で飛べるようにもなったし、帰るくらい何とかなるはずだ。

それにしても荷物が重い・・・

「ムリだ、少し歩こう。」

地面に一度荷物をおき、持ち直して歩きはじめたところで

「おい、おまえ、エーゴ、とかいったか?」

背中で響く野太い声は、初めて聞く声だった。

その声の持ち主は、僕の影を覆うような大きな影の持ち主で、振り返ると黒いTシャツがパンパンになるくらいの胸板と袖から木が生えているのかと思うほどの太い腕。

大きな黒い羽に太い首にはクロスのタトゥー。


ぼくはゴクンとつばを飲み込んだ。

僕の知っている天使は、かわいくてひらひらしていて、小さくて、女の子で・・・とにかく子供のころに見た絵本に出てくる天使とか、テーマパークにいるそれとはかなりの差がある。

とにかくでかい。たてにも横にも僕の1・5倍はある。

2、3歩後ずさりするころには3匹になり、5匹になり、飛び上がろうと思ったころには数え切れないほどの天使に囲まれた。

まずい!逃げなければ!荷物を抱え不器用に羽をばたつかせ必死で逃げた。

けれど、天使は大きな羽を1回バタつかせるだけで僕に追いつき、追い越され、ふとい腕でつかまれては放り投げられ、地面に落ちては太い足で踏みつけられ、胸倉をつかまれては振り回されボールのように投げられる。

今まさに僕は、いわゆるぼこぼこにされている真っ最中だ。

どのくらい殴られたのか、どのくらい踏みつけられていたのか、薄れ行く意識の中に見えたのは飛び立っていく黒い羽の中に現れた白い影。

「エーゴ君?大丈夫?」

死神十八番だった。

「僕、死ぬんですか・・・?」

「ちがうよ。安心して、マーブル・マービー・ケルンを呼んであげるからね。しっかりするんだよ。」

ロビンが現れるまで十八番は僕の横に座っていてくれた。

「天使って、でっかくていかつい男ばかりなんだね。僕は天使ってふわふわした白い羽の子供たちかと思ったよ。」

「ふわふわした子供が人間に幸せを与えられると思う?
わがままな人間を幸せにしなければならないんだもの、あのくらいじゃないとむりでしょ。
僕がいる限り天使は近づいて来ないから大丈夫だよ。ゆっくりお休み。そろそろ迎えにくるよ。」


やさしい声をかけてくれた。

僕はたぶんまた泣いている。

怖かったからか、痛いからか、情けないからか、寒いのか、恥ずかしいのか・・・わからないけど涙を止めることができなかった。

気がつくとアパートの自分の部屋のベッドで寝ていた。

「ごめん。ロビン。野菜・・・持っていかれた・・・・」

「いいよそんなの。俺こそごめんよ。エーゴを一人にしたのは間違いだった。十八番から電話もらってびっくりした。生きていてよかったよ。本当に。」

「カレー・・・あんなに楽しみにしていたのに・・・本当にごめん。」

「いいって。怖かっただろう。」

ロビンは僕の額にタオルを乗せた。

「ロビン。普通は、こうするとき、タオルを水でぬらしてから額におくんだよ。」

「そうなの?」

「そうだよ。風呂に入っているんじゃないんだから・・・」

笑うと肋骨がいたかった。肋骨だけじゃない、あっちこちが痛くてたまらなかった。

「ちょっと痛いけど我慢しろよ。この薬はとっても良く効くんだ。今塗ってあげるからな。痛いの痛いの飛んで行け~。痛いの痛いの飛んで行け~。」

なんだかわからない緑色のゼリーのようなものを傷につけてロビンは唱えた。何度も何度も唱えた。

「俺も昔、天使に襲われたときこうやってもらって治ったんだ。俺はエーゴ程、ボロボロにはされなかったけどな。つかまれて2発くらい殴られた程度だったけど・・・」

「ロビンもやられたんだ。」

「ああ、その時も死神十八番がたまたま通りかかって・・・今日と全く同じだ。その時、この薬をこんなふうに付けてもらったんだよ。痛いの、痛いの飛んで行け~~」

「誰にですか・・・?」

「俺を拾ってくれた悪魔にだよ。俺はいまその人と同じことをしている。その人はあの時、こんな気持ちだったんだって今、気づかされたよ。」

ボロボロになった僕の頬をロビン優しくなでてくれた。
ロビンの言う「こんな気持ち」が伝わってくるようでとてもうれしかった。

「晩御飯、チョコレート1枚しかない。半分こするか?」

ぱキリと折って1カケラ僕の口に入れた。
ぱキリと折って1カケラ自分の口に入れた。

「おいしいね。」
「うん、おいしい。」
口の中が切れていて少しいたかったが、今日のチョコレートは格別だった。生きていると言う味がした。
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