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セスカ
二、
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その日も遅くまで鍵盤ハーモニカの特訓。
僕はセスカの事や、昔のバディの話を聞きたかったのだけれども、ロビンはハーモニカと鍵盤ハーモニカのハーモニーだと言って何度も何度も繰り返し練習した。
指が絡まるほど練習して、耳が拒否するほど同じ曲を繰り返し聞いて、唇にタコができるほど吹いたあと、やっと「もう寝ようか」と言ってくれた。
指も肩も脳みそもへとへとだったが、目を閉じるとセスカの冷たい目が浮かんで、「それでも君はあいつとやっていくのかい」と何度も問いかけてきた。
その言葉に「はい」と返事をすることもできず、夜は更けていくのに逆らって眠気は覚めていった。
眠れない僕は、ロビンの部屋をそっと覗いた。おもちゃ箱の中でぬいぐるみを抱いて指を吸いながら眠る少年に「信じているよ・・・」と呟いてベッドに戻り布団に沈んだ。
翌日は朝から、あの引きこもっている山野サクラの所へ行った。昨日、僕たちが帰ってから一歩も動いていないような感じだった。
ロビンが玄関の外でハーモニカを吹くと、山野サクラはむくりと立ち上がり、玄関へ向かいスニーカーを履いた。
出て行った男の人のスニーカーなのかブカブカだった。
髪もボサボサで、ダルダルに伸びたスェット。とても元モデルとは思えない格好だったが、その姿でフラフラとロビンについて行った。
もちろん僕も鍵盤ハーモニカを吹きながら後をついて行って、ロビン・山野サクラ・僕という並びで歩いた。
そして、それはもう一時間半くらい歩いてロビンは突然立ち止まり、ハーモニカを吹くのをやめた。
山野サクラはふと、我に返り、驚いてあたりを見回した。そこは、結構な人通りのある交差点のど真ん中だった。
片手で顔を隠すようにしてマンションの方向に全速力で走って行った。ロビンはその恰好をみて声を上げて笑った。
「良かったんですか?あれで。」
「いいんだよ。一時間以上もお日様に当たって気持ちが良かっただろう。いい運動になって帰ったらぐっすり眠れるんじゃないか。」
ロビンは僕を掴んでふわりと飛び上がった。
「次は山田のところだ。急ごう。」
ロビンは上空から山野サクラをみつけては指を指して笑った。
山野サクラは結構、足が早かった。
山田の家では山田康夫がひとりで転勤のための荷物を作っていた。家族は外出しているようだった。
「単身赴任ですかね。」
「それもいいんじゃないか。少し離れたらお互いのありがたみが分かるだろう。」
「でも、もしそのままこの家族がダメになったら・・・」
「そのときはその時だ。小さな障害も乗り越えられないような家族は初めからなかったのと一緒だ。」
そう言ってハーモニカを吹いた。山田は写真立てに入れた家族の写真を指で一度撫でてから荷物の中に入れた。
「あー!エーゴも鍵盤ハーモニカ吹けよ。明るくパーっとした気分でやろうぜ!」
僕が弾ける曲は1曲しかなかった。さっき弾いたあの曲だ。
二人で音を合わせてより楽しく、明るく奏でた。山田はその曲に合わせて早く荷物を作り、自分の部屋の片付けも始めた。山田の部屋はスッキリと綺麗に片付き、すっきりとした部屋にカーテンが爽やかにたなびいた。
廊下はゴミ袋の山になった。
「この曲面白いな、今日一日、この曲で行こう。」
山田の部屋の開け放たれた窓から飛び立った。それに続いて飛び立った。振り返ると、僕らを見送るように山田が窓から空を見上げていた。
金田の家でも、あの頑固なじいさんの所でも同じ曲を弾いて、どちらもとても楽しそうにしていた。
特にいつも頑固なじいさんはどうやら曲が楽しいだけで喜んでいるのではなさそうだった。
どうやらその理由は、二階に住み着いた疫病神もようだった。
二階の娘の部屋でカタカタとちいさい音がすることがとても嬉しいようだった。
もう一つは疫病神が住み着いたせいで体調を崩し医師や、看護士、訪問ヘルパーで一人ぼっちになる時間が短くなったことだった。
二階を覗くと、疫病神は本当に快適そうだった。ソファーにゴロンと横になりお菓子を食べていた。
「おいおまえ、いい暮らししているじゃないか。お菓子はどうしたんだ?」
「じいさんが持って来るのよ。夜は毎日お湯をもってきてくれるからお風呂にも入れるし。
超快適だよ。ほんと!最高!ここ、紹介してくれてありがとう。マーブル・マービー・ケルン。」
「おまえ、ちょっと太ったぞ。」
疫病神は怒って叫びながらお菓子を高速で投げた。けれど、当たっても全く痛くない。
今日は二階の部屋も窓が開いて気持ちのいい風が部屋を清めていた。
「疫病神、いい加減にして引っ越せよ。じいさんをこれ以上重い病気にするな。」
「する訳ないでしょう。私がお菓子を貰えなくなっちゃうじゃない。」
「また太るな・・・」
ロビンと僕はじいさんの屋敷の屋根に上がり、じいさんが庭に出ているのを見届けた後、高く飛んだ・・・。
「悪魔にとりつかれているにしては元気そうですね。疫病神付きなのに・・・」
「不幸の中に幸せを見つけるなんて、あのじいさんまだまだ長生きするな・・・」
幸せにしているのは、ロビンなんじゃないかと思ったけれど・・・言わなかった。
ロビンはとにかく自分が楽しければいいらしい。毎日笑っていられればそれでいいんだと。そうしていることで周囲が幸せになってしまって、本当に悪魔として成立しているのか少し不思議だった。
僕はセスカの事や、昔のバディの話を聞きたかったのだけれども、ロビンはハーモニカと鍵盤ハーモニカのハーモニーだと言って何度も何度も繰り返し練習した。
指が絡まるほど練習して、耳が拒否するほど同じ曲を繰り返し聞いて、唇にタコができるほど吹いたあと、やっと「もう寝ようか」と言ってくれた。
指も肩も脳みそもへとへとだったが、目を閉じるとセスカの冷たい目が浮かんで、「それでも君はあいつとやっていくのかい」と何度も問いかけてきた。
その言葉に「はい」と返事をすることもできず、夜は更けていくのに逆らって眠気は覚めていった。
眠れない僕は、ロビンの部屋をそっと覗いた。おもちゃ箱の中でぬいぐるみを抱いて指を吸いながら眠る少年に「信じているよ・・・」と呟いてベッドに戻り布団に沈んだ。
翌日は朝から、あの引きこもっている山野サクラの所へ行った。昨日、僕たちが帰ってから一歩も動いていないような感じだった。
ロビンが玄関の外でハーモニカを吹くと、山野サクラはむくりと立ち上がり、玄関へ向かいスニーカーを履いた。
出て行った男の人のスニーカーなのかブカブカだった。
髪もボサボサで、ダルダルに伸びたスェット。とても元モデルとは思えない格好だったが、その姿でフラフラとロビンについて行った。
もちろん僕も鍵盤ハーモニカを吹きながら後をついて行って、ロビン・山野サクラ・僕という並びで歩いた。
そして、それはもう一時間半くらい歩いてロビンは突然立ち止まり、ハーモニカを吹くのをやめた。
山野サクラはふと、我に返り、驚いてあたりを見回した。そこは、結構な人通りのある交差点のど真ん中だった。
片手で顔を隠すようにしてマンションの方向に全速力で走って行った。ロビンはその恰好をみて声を上げて笑った。
「良かったんですか?あれで。」
「いいんだよ。一時間以上もお日様に当たって気持ちが良かっただろう。いい運動になって帰ったらぐっすり眠れるんじゃないか。」
ロビンは僕を掴んでふわりと飛び上がった。
「次は山田のところだ。急ごう。」
ロビンは上空から山野サクラをみつけては指を指して笑った。
山野サクラは結構、足が早かった。
山田の家では山田康夫がひとりで転勤のための荷物を作っていた。家族は外出しているようだった。
「単身赴任ですかね。」
「それもいいんじゃないか。少し離れたらお互いのありがたみが分かるだろう。」
「でも、もしそのままこの家族がダメになったら・・・」
「そのときはその時だ。小さな障害も乗り越えられないような家族は初めからなかったのと一緒だ。」
そう言ってハーモニカを吹いた。山田は写真立てに入れた家族の写真を指で一度撫でてから荷物の中に入れた。
「あー!エーゴも鍵盤ハーモニカ吹けよ。明るくパーっとした気分でやろうぜ!」
僕が弾ける曲は1曲しかなかった。さっき弾いたあの曲だ。
二人で音を合わせてより楽しく、明るく奏でた。山田はその曲に合わせて早く荷物を作り、自分の部屋の片付けも始めた。山田の部屋はスッキリと綺麗に片付き、すっきりとした部屋にカーテンが爽やかにたなびいた。
廊下はゴミ袋の山になった。
「この曲面白いな、今日一日、この曲で行こう。」
山田の部屋の開け放たれた窓から飛び立った。それに続いて飛び立った。振り返ると、僕らを見送るように山田が窓から空を見上げていた。
金田の家でも、あの頑固なじいさんの所でも同じ曲を弾いて、どちらもとても楽しそうにしていた。
特にいつも頑固なじいさんはどうやら曲が楽しいだけで喜んでいるのではなさそうだった。
どうやらその理由は、二階に住み着いた疫病神もようだった。
二階の娘の部屋でカタカタとちいさい音がすることがとても嬉しいようだった。
もう一つは疫病神が住み着いたせいで体調を崩し医師や、看護士、訪問ヘルパーで一人ぼっちになる時間が短くなったことだった。
二階を覗くと、疫病神は本当に快適そうだった。ソファーにゴロンと横になりお菓子を食べていた。
「おいおまえ、いい暮らししているじゃないか。お菓子はどうしたんだ?」
「じいさんが持って来るのよ。夜は毎日お湯をもってきてくれるからお風呂にも入れるし。
超快適だよ。ほんと!最高!ここ、紹介してくれてありがとう。マーブル・マービー・ケルン。」
「おまえ、ちょっと太ったぞ。」
疫病神は怒って叫びながらお菓子を高速で投げた。けれど、当たっても全く痛くない。
今日は二階の部屋も窓が開いて気持ちのいい風が部屋を清めていた。
「疫病神、いい加減にして引っ越せよ。じいさんをこれ以上重い病気にするな。」
「する訳ないでしょう。私がお菓子を貰えなくなっちゃうじゃない。」
「また太るな・・・」
ロビンと僕はじいさんの屋敷の屋根に上がり、じいさんが庭に出ているのを見届けた後、高く飛んだ・・・。
「悪魔にとりつかれているにしては元気そうですね。疫病神付きなのに・・・」
「不幸の中に幸せを見つけるなんて、あのじいさんまだまだ長生きするな・・・」
幸せにしているのは、ロビンなんじゃないかと思ったけれど・・・言わなかった。
ロビンはとにかく自分が楽しければいいらしい。毎日笑っていられればそれでいいんだと。そうしていることで周囲が幸せになってしまって、本当に悪魔として成立しているのか少し不思議だった。
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