お気に入りの悪魔

富井

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セスカ

一、

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「エーゴ 顔洗ってこいよ。」

事務局に入る前にロビンに耳打ちされた。

「泣いたことを皆に知られる前に洗ってこい。俺は中で待ってる。」

僕は今日も太田のところでハデに泣いてしまった。

遠い昔のことだと思っていたのに、こんなにも鮮明に覚えているなんて、自分自身がいちばんビックリしている。

慌てて洗面所に行き顔を洗っていると、背中に気配を感じた。

洗面台に伏せたまま足元を見ると、赤の靴に赤のパンツ・・・・顔をあげると鏡越しにセスカが映った。

今日も赤のコート、赤のセーター、差し出してくれたタオルも赤だった。

「あ、ありがとう。」
「あのさ、マーブルといて楽しいかい?」
「はい、ちょー楽しいっす。」

「あのさ、マーブルが連れていた君の前のバディのこと、聞いた?」

「ちょっとだけ・・・魔女の谷に落ちたとか・・・」

「落ちたんじゃない。マーブルが落としたんだ。」

メガネのむこうから凍ったような冷たい視線が、刺すよに狭ってきた。

「マーブルは一見、面倒見もよさそうで、面白いし顔だってかわいい。だからみんなごまかされるんだ・・・」

ジリジリとせまってくるセスカから早く逃げたいのに、なぜか目線も外せず、体は凍り付き、その場から一歩後ろに下がることすらできなかった。

「エーゴ・・・エーゴ・・・」

遠くで呼ぶロビンの声で、氷が一瞬にして溶けたように体が自由になった。

「ごめんセスカ また・・・」

その場を後にして、ロビンの呼ぶ声の元へ向かった。

「ロビンなに?」

「エーゴ、あの喫茶店に行くのを忘れてた。今日は縄を外すだけだから、俺一人行ってくるよ。すぐ帰るから、ほしいスーツ考えとけよ。」

「ロビンまって・・・」

「すぐ戻るからな・・・」

ロビンは一人で飛びたってしまった。僕がいっしょに行きたい理由はセスカから逃げたかったからだ。

「騒々しい奴だな。いい奴にみえるだろ。もう何人もバディを殺しているってうわさだぜ。
あいつの元で本物の悪魔になった奴は一人も居ないんだぜ。それでも君はあいつとやって行くのか?」

「その話は聞いていないから・・・」

「そうか、じゃあこの話は?・・・海の向こうに、こで働けなくなった悪魔が住む島があるんだけど、そこの悪魔は若い悪魔を食って生きているんだ。マーブルはバディが一人前になったらそこへ連れて行って餌にしているってうわさだぜ・・・おまえも気を付けろよ。」

ごくんと唾を飲み込んだ。いや・・・でもまさか、そんなこと・・・あのロビンに限って・・・と思いながら、でもどこかでは驚怖を感じながら、セスカのそばを離れた。

「そうだ、エーゴ。よかったら僕と組むかい?君がよければ、いつでも歓迎するよ。」

僕の耳元でそう行って、僕を追越して行った。氷のような汗が背中を落ちた。寒気と緊張でガチガチと歩きながら事務局の中へ入り、さっきセスカが言ったことは嘘だと誰かに言って欲しかった。

「グリーン、ちょっと聞いていいっすか・・・」
「何?」
「ロビン・・・いや、マーブルって僕より前に何人くらいバディがいたの?」

「十二、三人・・・だったかしら・・・」
「いまひとりでやっている悪魔って誰?」
「そういえば・・・いないわね・・・」

「僕って、どのくらいで本物の悪魔になれますか?」

「だいたい1ヶ月くらいで査定が出るわ。それに受からなかったらまたマーブルと1ヶ月一緒に行動するのよ。頑張りなさいよ。あなたが頑張らないとあの子も困るんだからね。」

「うん・・・」
「僕の前のバディのことなんだけど・・・魔女の谷に突き落とした・・・って本当?」
「嘘に決まっているじゃない。冗談よ安心して。」

「本当?」

「本当よ。そんなことより、日報書いて待っていなさいよ。スーツ、面白い柄考えて。」
「うん・・・」

僕はセスカの言葉でとても心が沈んでいた。
そんな事、嘘に決まっていると思いながら、一人も悪魔になっていないのなら、一体今までのバディはどうしてしまったのだろう・・・。

ロビンの師匠だった悪魔、初代のロビンという悪魔はここから離れてその島にいて、そこに自分で育てた餌を運んでいるのか・・・そんなことを考えているとロビンの姿を見つけて、慌てて頭の中の馬鹿な空想をかき消した。



「ごめん。遅くなったな。」

「そんなでもないよ。」
「どんな柄のスーツにするか決めたか?」
「・・・アーガイルなんてどう?」
「・・・アーガイルか・・・地味じゃないか・・・」
「じゃあ、ガンクラブチェックは?白地にオレンジとライムで。」

「ん・・・いいよ。すごくいい。俺も色違いでそれにしようかな・・・星の柄にしようかと思っていたんだけど・・・。」

「じゃあ、星柄をシャツにしたら?」
「それいい!」

「君たちは楽しそうでいいな・・・」

バルビンバーが僕たちの間に割り込んできた。背が低いから近づいてきたことすらわからなかった。

「僕も今度はスーツをもらおうかな・・・君たちみたいな・・・」
「そのまえに身長を高くしてもらったらどうだい?」
「僕はこの体型が気に入っているんだ。」
「じゃあ、今のままでいけよ。」
「そうだな・・・」


楽しそうなロビンを見ていると、なぜかそれだけで幸せだった。

毎日楽しい。それだけで十分で、さっきのセスカの言ったことはやっぱりすべて嘘だ!今を信じよう!頭の中では理解できているのに、壁に持たれて僕を刺すように見つめるセスカの冷たい目が決心を鈍らせた。
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