ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー

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第12話 王妃候補の協奏曲

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「エレオノーラ、今日のドレス姿はいつもと違って一段と素敵だ」
「ありがとうございますウィリアム様」
 いつもと違ってって、普段の私は素敵じゃないのかと問い詰めたいが、今まで他人を褒める事を知らなかったのだから、本人は失礼な事を言っているとは思ってもいないのだろう。
 今日私が着ているドレスは王都で一番人気の店、ティアーズプリンセスのクチュールサラが自ら手がけた一品もの、その変に飾ってある量産型のセルドレスと一味も二味も違うのだ、これで素敵じゃなければわざわざウィリアムに強請ねだって用意した意味がない。

「こんなに綺麗な君の姿を見れたんだ、宰相達が無断で国の金を使うなと言っていたが、今のエレオノーラの姿を見れば、僕が正しかったという事が理解できるだろう」
「そうですわね、ベルニア様も私達の事を認めてくださっているんですもの、国のお金をウィリアム様が使って何の問題があるんでしょう」
 全くなんて扱いやすい親子なんでしょ、母親はちょっと息子の事を褒めてやればあっさり二人の事を認めるし、息子は息子で優しく甘えるだけでコロッと婚約者リーゼから私に乗り換えてしまった。
 後は私が王妃にさえなれれば両親達の株も上がるし、悠々自適にお城で暮らす事も出切るだろう。夢にまで見たプリンセス生活がもう目の前にまで来ているのだ。


 パーティーへはウィリアムのエスコートで会場入りをする。私達の仲の良さをアピールするのに絶好の機会といってもいい。
 きっと大人達はもちろんの事、同年代の男達も私のドレス姿に見惚れるに違いない。自慢じゃないが肌の手入れと自分の美しさには、その辺の女達と比べ物にならないほどに自信がある。現にこの王子様は私の美しさにベタ惚れ状態なのだから。

 二階から中央階段を使って、優雅に二人揃って降りてくる。この階段はパーティー時には王族しか利用出来な事になっているが、貴族達に私達二人の仲を見せつけてあげなさいと、ベルニア様が特別に許可してくださった。
 私の姿を見た貴族達が一斉にこちらを振り向き、各々で囁き合っている姿が見える。
 さぁ、じっくりこの姿を目に焼き付けなさい、そして誰が次期王妃が相応しいかを改めなさい。

 ざわざわざわ
 私達の登場は間違いなく貴族達から注目を浴びる事になった、だけど何? 会場内の様子がおかしい。私達が注目されている事は間違いないが、思っていた以上の効果がない、寧ろ私達以外を見ている? それも男女年齢問わず、各々ある方向が気になって仕方がない様子だ。
「なんだ? 誰か来ているのか?」
 ウィリアムも会場の様子がおかしい事に気付いたようだ。
「何でしょう? 一箇所だけが気になっている、っと言う訳ではない見たいですが」
 少なくとも2・3箇所、集中的に人が集まっている感じがする。
 一体誰よ、折角一番目立つように登場したって言うのに、私達よりそちらが気になっているみたいで、誰一人こちらに近寄ってくる様子がない。

「おい、誰か来ているのか」
 ウィリアムが近くにいた名前も知らない年配貴族を捕まえ、会場の様子を伺う。
「これはウィリアム殿下、ご無沙汰しております。」
「挨拶はいい、誰が来ているのかと聞いている」
「申し訳ございません、皆ブラン家の女性方が気になって仕方がないのですよ」
 ブラン家の女性?
 捕まえた年配貴族が放った言葉は、私の踏み台に成るべく存在が許されたリーゼがいる実家の名前。そう言えばあの女の母親と姉は社交界でも一目置かれる存在だったわね。
 聞いた話では社交界の二大桜花とか言われて調子に乗っているんだとか。全く娘と同じように踏み台になっていればいいものを、私より目立つってどういうつもりよ。

「ブラン家? リーゼの事か?」
「ウィリアム様、ブラン家の伯爵婦人と長女のオリヴィエ様は、社交界では何かと目立つ存在でございますから、皆さん気になって仕方がないのですわ」
 あの女の訳がないでしょ。ただ髪の色が少し目立つだけでいつも暗い表情しかしていなかったのに、ちょっとウィリアムの婚約者になれたってだけで、ちやほされちゃって。
 何の取り柄もないバカ女の癖に、あれで自分が可愛いとでも思っていたのかしら、思い出しただけでも腹が立ってくるわ。

「あぁ、そう言えば昔リーゼがそんな事を言っていたな」
「いえいえ、もちろんお二人も素晴らしいのですが、今日注目されているのは次女リーゼ様のようですな。殿下との婚約が白紙に戻ったからと、若い男性達は必死に自分をアピールしようと様子を伺っているみたいですよ、全く若いと言うのは羨ましい限りですな」
 年配貴族はそれだけ言うと近くにいた貴族の元へと去っていった。

 何を言っているの? リーゼは男性の注目を浴びるような女ではなかったはずよ。何時も雰囲気が暗く、何処か疲れ切ったような顔をしているのに、学園では表面おもてづらだけでクラスの男性や先生達からの評判を勝ち取っている嫌な女だった。そんなリーゼに騙される者がいるとすれば学園にる身分の低い男達ぐらいだろう。
 まぁ、いいわ。どうせ後でこの夜会に来てしまった事を後悔する事になるのだ、精々今のうちにいい気分に浸っているといい。





 アデリナ様と長い時間テラスで話し込んでしまった。おかげで体が完全に冷え切ってしまったわ。

 体が寒いと言っても人前で両肩を摩るなんて行為は、あまり美しい姿とは言えないので気合を入れ直し会場へと戻る。室内に入るとフワッと暖かな空気が冷え切った体に染み渡ってくる。
 さて、この後私はどうするかだけど、お母様達と合流するかシンシア達と話しに花を咲かすかのどちらかぐらいか。あれから随分時間が経ってしまったようだから、恐らく両親は陛下達への挨拶は既に済ましてしまっているだろう。
 私も一応王妃候補の一人なので挨拶はしないとマズイだろうけど、今回体調が悪くなったのは本当の事なので、上手く両親が話しをしてくれていると信じる事にする。もっとも、私がウィリアム様に嫌われている事は陛下達にもご存知だし、向こうからすれば自分の息子の言動のせいで、顔を合わせずらい事も理解してくれるだろう。王妃様ともかく、陛下はその辺りの事を配慮してくれているはずだ。

 まずは両親に元気な姿を見せておいた方がいいかな。
 最近私事で心配ばかり掛けていた気がする、今もケヴィンの事で気を使って休むよう勧めてくれたのだ、もう大丈夫だという姿を見せておいた方が安心してもらえるだろう。
 目的が決まった事で、まずは大人達が集まっている方へと足を運んでいく。

 この会場にはテーブル席で休憩出来るエリアと、中央でダンスを踊るエリアがあり、その他の場所では大人達と年若としわかい男女に分かれて談笑する姿が見える。
 どこの世界でも話しのネタは年齢が近い者同士の方が会話が弾むといったところだろか。
 テラスからダンスエリアを迂回して大人の方達が大勢見える方へと進んで行く。その途中で最も見たくない二人が大人達に囲まれて話している姿が目の端に映ったので、気づかれないよう遠回りしとうとするが、運悪くこちらに振り向かれてしまった。

 うん、きっと気のせいだ。私は見てない。
 そう自分に言い聞かせ、そのまま遠回りに両親を捜しに行く。
「あら、ごきげんようリーゼさん」
 ちっ、わざわざ私の前に回り込むよう先回りをして、目の前で嫌味ったらしい顔で話しかけてくる。
「ごきげんよう、





 なっ、これがあのリーゼ?
 やたらと目立つ髪色が目に入り、私達から逃げ出す様子が見て取れたから、思わず先回りをして声を掛けたけど、学園で見かけていた頃とはまるで違う自信に溢れたこの姿。
 一瞬姉の方と間違えたかと思ったが、先ほど見かけたドレスの色は淡いブルーだったに対して、リーゼが着ているのは同じデザインの淡いピンク。ただでさえこの二人の髪色は人混みの中でも目立つと言うのに、その上見た事もない大胆なドレスが見事に本人を三割り増しに輝かせている。

「あのー、何かご用でしょうか?」
「あら、これは失礼。偶然にも昔の知り合いの姿を見かけたから声を掛けただけよ、それとも私に声を掛けられるのはご迷惑だったかしら」
 何が『何かご用でしょうか』よ、貴方はただの踏み台だったはずよ、それなのに何て口の聞き方をしているのよ。

「どうしたエレオノーラ」
「すみませんウィリアム様、偶然昔の知り合いに出会ったものでご挨拶をしていたのです」
 私が居なくなれば直ぐに追いかけてくるとは思っていたが、こんなにあっさりと理想の形でリーゼと対峙する事が出来た。
 男共がリーゼの姿を見ている事は気に入らないが、当初の予定通り注目されている中でウィリアムから断罪の言葉でも掛けて貰えば、リーゼを推している貴族達も自分たちが間違えていると気づく事だろう。

「知り合い? まさかリーゼか!?」
 えっ?
 ウィリアムが見せた反応は、私が考えていたのとは遠く離れたものだった。





「知り合い? まさかリーゼか!?」
 何を言っているのこのバカ王子は、まさか元婚約者の顔まで忘れたと言うのではないでしょうね。
「ご無沙汰しておりますウィリアム殿、もう私のお顔をお忘れですか?」
「いや、そうじゃないが以前とはまるで雰囲気が違うもんだから」
「そうでしょうか? 私は一方的に分かれを告げられた時のまま、何も変わっておりませんが」
 もし私が変わったと言うのなら、それは貴方と言う邪魔な荷物を降ろせたからですよ。以前の私は、ウィリアム様が無礼な態度を示してしまった貴族達の対応に振り回されていたから、何時も精神的に疲れきってしまっていた。
 お陰で最近では『お化粧の乗りがいいですね』ってティナから何時も褒められているのだ。

「まぁ、ウィリアム様に対して何て無礼な口の利き方なの!? こんな人間が私と同じ婚約者候補に名前が乗っているなんて信じられないわ」
「エレオノーラ様はご存知ないんですね、私はただ国民感情を柔けるためだけの当て馬ですよ? 元より婚約者候補のつもりなんて全くございませんので、ご安心ください」
「なっ」
「ちょっと待てリーゼ、そんな勝手な真似は許さんぞ。仮にもお前は元婚約者として、今も私の妃候補として名前が残っているのだ。正式に国が決めるまで勝手に辞退するなど出来るわけがないだろう」
 はぁ? 何を言っているのよこのバカ王子は、自分で私をフっておいて、目の前で別の女に走ったと言うのに、今更国が決めるまで勝手に辞退出来ないですって? 今まで散々自分勝手に振舞っておいて今更どの口が言えるっていうのよ。

「まっ、待ってください、何を言っておられるのですかウィリアム様? わざわざリーゼが婚約者候補から辞退すると言っているのですよ、ここは素直に受け取るのが賢明かと」
「いや、確かにそうだが、これは国が定めたものだからリーゼにも平等に……」
「何を今更、殿下はご自身の意思だけで私との婚約を破棄されましたよね、それを自ら政府に進言し私達の婚約は白紙に戻った、これは変わる事のない紛れもない事実。この上まだ私とのお付き合いが出来るとでも、本気でお思いなのでしょうか? 申し訳ございませんが、私には殿下の妃になるつもりもなければ、王妃になるつもりも全くございません」

 ざわざわざわ
「あ、貴方ね! ウィリアム様に何て失礼な事を言っているのよ、今すぐこの場で膝をついて謝罪しなさい!」
「それは寧ろ貴方の方ではございませんか? 学園で私に対し嘘の証言で騒ぎ立て、国が定めた婚約を自らの感情で台無しにした。まさかその程度で王妃になれるとでも本気で思っていた訳ではありませんよね?」
「なっ、なんですって! ウィリアム様だけでは飽き足らず、この私まで愚弄するとはいい度胸ね。たかが伯爵家の娘の分際で私に逆らおうなんて、今すぐ断罪してあげるから、自分が犯した罪をその身をもって償いなさい!」
 バカな女だ、自分で自ら墓穴を掘ってしまっている。
 ついつい感情的になってしまったが、今のセリフは大勢の貴族達に聞こえているだろう。私が話していた声の大きさとは違い、エレオノーラは自身の感情を抑えきれず大声で叫んでしまった。
 この会場には私達二人の他にもう一人の王妃候補者がいる事を完全に忘れてしまっている。

「聞き捨てならないわね今のセリフは」
 ざわざわざ
「えっ!?」
 アデリナ様の登場で会場内の騒ぎが益々大きくなる。
「ど、どういう事でしょうアデリナ様」
「そんな事も分からず口走っているなんてね、貴方は今リーゼに対して断罪する言葉を放ったわよね、それは一体どの立場に立ったつもりで言っているのかしら?」
「そ、それは……」
 ようやくエレオノーラも自分が何を口走ったのかを理解したようだ、『断罪してあげるから』それはつまり、自分が罪に対して判決できる立場にあるという事を意味する。

 この国はピラミッド型の階級社会が全てを支配している。これは領地の広さや力の配分で覆すことが出来ない事実であり、伯爵以下の下級貴族が公爵家のような上級貴族に歯向かえなのは、ただ単に財力や力の配分で簡単に追い込む事が出来るという事である。
 だけど、例え上級貴族の公爵家であったとしても、他の貴族に法的な罰を与える事は許されていない。そんな事を認めれば下級貴族は上級貴族を恐れ、何の発言も出来なくなってしまうからで、国はそう言った事が起こらないよう、権力の行使は厳しい規律の元で管理されている。
 先ほどエレオノーラが口走った事は正にこの規律に反する事で、もし例外があるのだとしたら、それは王家の一族のみとされている。
 恐らくウィリアム様の恋人になった事で、自分が既に王妃になった気分でも味わっていたのだろう。

「アデリナ様、お騒がせをさせてしてしまい誠に申し訳ございません。国の誕生を祝う席を乱したのは私とエレオノーラ、二人の責任でございます」
「ちょっ、何を言って!」
 エレオノーラがいきなり私の口から自分の名前がでたので、慌てて止めに入ってくるが、アデリナ様が一睨みするだけで完全に萎縮してしまう。
「私は国が主催したパーティーを騒がせた罪を重く受け止め、殿下の妃候補から辞退を申し出たいと考えております」

「そう、正しい判断ね。それで貴方はどうするつもり? 国が定めた規則を破るような発言をしたんですもの、リーゼと同じと言う訳には行かなわね」
「そ、それは……違うんです、そんなつもりで発言した訳ではなく、リーゼがウィリアム様の事を愚弄するような発言をしたものですから」
 今更何を言ったところでアデリナ様が許すはずもないだろう、別に照らし合わした訳ではないが、このぐらい味方をしてもお父様は笑って許してくれるだろう。
 どうせこのパーティーで私に恥をかかせ、自分は影で笑っているつもりでもいたのだろうが、逆に自分が追い詰められるとは哀れだとしか言いようがない。
 さぁ、私を敵に回した事を後悔してもらうわよ。
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