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始まり
第11話 未来を憂う憂心曲
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「アデリナ様!」
国が滅ぶかもしれない、それは私たちが軽はずみに言ってはならない言葉だ。
私だって薄々は感じている、今この国を支えているのは陛下の強大な支配があっての事。貴族達はそれに付き従い、お互いを支え合っているからこそこの国が成り立っている。
だけど、残念ながらウィリアム様には各諸侯を抑え込む力はないだろう。それでも政府の要人さえしっかりしていれば、国は成り立つ事も出来るかもしれないが、今のあの我儘王子では誰もが真剣に取り込む事は出来ないはずだ。
これが王国に何の問題もない時代なら、これ程心配する事もないのだろうが、今の国内事情では期待は薄いといっても良い。
実際、国の未来を憂いている一部の貴族達は、自身の領地だけは守ろうと動き回っていると聞いているし、我がブラン領に至っては、国が傾いたとしても強固に耐えられるだけの施設や蓄えを増やしていっている最中だ。
「軽はずみの言葉だったわね、忘れて頂戴」
そう言うと私に背中を向けて、夜空に溶け込むように風を感じておられる。
「どうして私にそのような話をなされたのですか?」
「彼をあんな風に育ててしまったのは、私にも原因があるのよ。リーゼは王妃様の事はどれほど知っている?」
この国の王妃、ベルニア・メルヴェール様はウィリアム様の母親であり、元侯爵家のご令嬢で、歳若くして王妃の座に着いた方だと聞いている。
以前私がまだウィリアム様の婚約者だった時に、何度かお話しをする機会があったのだけれど、一言で言えば余り好きにはなれない人だった。
「侯爵家のご出身で、前の陛下が早くに亡くなられた為に歳若くして王妃になられたと伺っております」
「そうね、世間ではそう伝えられているわ。確かにそれは間違いではないし、誰もが理解している事よ。だけど、ベルニア様は余りにも王妃として相応しくなかった。ねぇ知ってる? ベルニア様にはもう一人の王妃候補者がいた事を」
もう一人の王妃候補? そんなの聞いた事も考えた事もなかった。お父様達も何も言ってなかったし、世間でもそんな噂を聞いた事がない。
「いいえ、聞いた事もございませんが」
「そうでしょうね、実際公に発表される前にベルニア様がもう一人の候補者を蹴り落としたのだから」
ん? 何処かで聞いた話しに似ている。これって私とエレオノーラとの関係に似ていない?
「それは何らかの罠に嵌めたという事でしょうか」
もしそうならアデリナ様がエレオノーラを警戒する気持ちは分かる。
ベルニア様が王妃に向いていない事は薄々感じてはいたが、それ程付き合いがあるわけでもないし、会話をした事もほんの僅かだ。たったそれだけで判断するのもどうかと思っていたので、この事は誰かに話した事は一度もない。
「私は公爵家の人間でウィリアムとは年が近いと言う事もあって、昔はお城への出入りを許されていたのよ。だからそういった噂も自然と耳に入ってくる。ベルニア様の事を良く思っていない使用人は結構いるのよ」
アデリナ様の話しではメイド達が噂話をしているのを偶然聞いてしまったそうだ。その内容はベルニア様がもう一人の王妃候補者である実家に、有らぬ罪を着せてお家取り潰しまでに追い込んだのだとか。
その結果、自分は王妃となってお城では我儘に振る舞うようになり、もう一人の候補者は一家ごと住む場所を無くし、自分は一市民として格下のどこかの家に嫁ぐ事になったのだとか。
……あれ? ちょっと待って。身分を剥奪されて格下の家に嫁ぐ事になった?
「あのー、アデリナ様? そのもう一人のご令嬢って、今はどうされているかってご存知ですか?」
「変な事を聞くのね、当時は結構大きな事件になっていたそうだから、その方の事は緘口令が引かれてしまっていて何も分からなかったわ。表向きは公爵家に連なる不祥事って事になっているらしいから、何が起こってお家が取り壊しになったのかも記録に残っていないの。
私が知っているのは、複数の筋からあの事件はベルニア様が仕組んだ事だって話しているのを聞いたのと、その事件の告発に関わった貴族達がベルニア様が王妃になった途端、急に出世したって事ぐらいよ」
事件に関わった人たちが急に出世したって、めちゃめちゃ怪しすぎるでしょ。でも正当な王妃様が采配したのなら、誰一人として逆らう事は出来なかったのだろう。貴族には与えられていない爵位取り消しや、不敬罪を言い渡せることができる権限が王家の一族には与えられているのだ、下手に逆らえば自身の身を滅ぼしかねない。
それに元々陛下は権力で押さえ込む方だと聞いているし、昔から王妃様の事にも無関心だとお父様がおっしゃっていた。仮に一連の出来事に気付かれていたとしても、何も言わなかったのではないだろうか。
「それじゃその方の所在は結局分からないんですね」
格下の家となると男爵・子爵・伯爵辺りであろう、それに以外に本家以外の貴族達を加えるとなると、見つけ出すのはかなり難しいのではないだろうか。
「そんなにその方の事が気になるの?」
「そう言う訳ではないのですが、親近感みたいなのがありまして……」
言えない、もしかしてお母様の事かもしれないなんて。
「そうね、参考にはならないかもしれないけど、男性を惹きつける何かを持っていらっしゃったみたいよ。それが気にくわないからってベルニア様が嫌っていたって話だから。ただ、ご本人は邪魔者を実力主義で排除される方だったそうだから、直接対決には至らなかったらしいわ」
「実力主義?」
「えぇ、正確には物理的に殿方を投げ飛ばしていたとか。まぁ、ただの噂話だから、実際にそんなご令嬢が公爵家の血筋にいらっしゃるとはとても思えないけどね」
「あは、あははは、ですよねー」
お母様だ、絶対お母様の事だ。
昔の話しはほとんど聞いた事はなかったけど、以前にお父様から何処かのパーティーで不埒者を投げ飛ばした事があると聞いた事がある。
いろいろ詳しい話しを聞きたいところではあるが、迂闊にお母様の機嫌を損ねると命に関わってしまう。主に周りの人が。
ここは何も知らない、何も聞いていないで通すのが娘心というものだろう。私だってまだ命が惜しいもん。
「そんな母親の元で育ったウィリアムが、我儘に育つのはごく自然事だったのかもしれないわね。いくら乳母がお世話をしていたとはいえ、少し注意するだけで辞めさせられた使用人が大勢いたわ。ウィリアムもそれが当たり前になって、自分の気に食わない事は全て放り出した。
その結果同年代の親友達は離れていき、二大爵位のご令嬢達は誰も近づかなくなったわ、私以外ね。」
なるほど、そういう事か。
公爵家と侯爵家の方々は、当主としては自分の娘を王妃にしたいが、肝心の娘がその気にならないのなら親として無理強いが出来ない。二大爵位のご令嬢方なら私達下級貴族と違って、幼少の頃からウィリアム様と身近に接触する事が多かったから、初めからどのような人物なのかが分かっていたのだ。
私がウィリアム様と初めて出会ったのは学園に入学してからだから、多少なりと常識が身についていたのではないだろうか、見た目がイケメンのせいで物語に出てくる王子様像に照らし合せてしまい、ノックアウトされてしまったのだ。
ちっ、私の乙女心も夢の白馬の王子様には敵わなかったって事か。
「それじゃアデリナ様だけは、その後もずっとウィリアム様のお側におられたって事ですよね?」
公爵家の正当なご令嬢であるアデリナ様なら、ベルニア様もそうキツイ事言えないはずだ。それでウィリアム様の我儘が治るとは思わないが……
「それがそうでもないのよ、私はその後ウィリアム本人にお城の出入りを禁止されてしまって、こういった行事でないとお城へ来る事は出来ないの」
なっ、自分に唯一味方をしてくれるアデリナ様を自ら切り捨てたですって!
「私にとってウィリアムは弟のような存在だったから、何かと気遣っていたのだけれど、結局彼からすれば唯一注意をされる邪魔な存在だったってわけ。リーゼにも心辺りがあるんじゃない?」
そう言われれば確かに心当たりがあるが……
「まさか、それが原因で私は嫌われてしまったのですか?」
覚えている範囲で私が言った言葉は、挨拶の途中で急に何処かにいかれるから、もう少し出席者の方と会話をされてはどうかや。同年代の女性とダンスを踊っている最中に、つまらないと言って曲の途中で切り上げてしまわられたので、お相手の方が寂しそうにされていましたよと言った程度。
とても注意というレベルではないのだが、確かに私が言った後には不愉快そうな態度をされていた。
「多分それが一番の原因じゃない? 今ウィリアムが付き合っている女性、たしかエレオノーラだったかしら。彼女はそんなウィリアムを注意しようともせず、自らも同じように振る舞いをしている節があるから、もしかして親近感が恋心に発展したとかじゃないかしら」
流石アデリナ様、幼少の頃からウィリアム様の事を見てこられただけはある。
学園であの二人の様子を見ていた時、ウィリアム様がエレオノーラに嫌われないよう気を使っていた節があった。もしかしてあれは恋心ではなく、一人になりたくないといった愛情表現だったのではないだろうか? それが何時しか恋心に発展した。
アデリナ様の話では、エレオノーラはベルニア様の性格は似ているようだし、共にウィリアム様の事を甘やかしている点では共通している。だとすると彼女を母親に重ね合わせたとしてもなんら不思議ではないのではないだろうか。
「まぁ、国の未来の為にはウィリアムの恋心なんて気にする必要はないけど」
「だからアデリナ様は自ら名乗り出て、ウィリアム様を正しく導こうとされているのですか?」
「そんな事は考えていないわよ、今更ウィリアムの性格が直るとも思えないからね。ただ私はこのまま二人が結ばれるような事になれば、この国が無くなってしまうのでないかと考えているだけ」
アデリナ様はこう言われているが、たったそれだけでは国が立ち直る事は出来ないだろう。それに肝心のウィリアム様から嫌われているのであれば、王妃になれる可能性はゼロに近いだろう。
私はいくら周りが諫めようとも、最後には自分の感情を推し通し、エレオノーラと結婚するのではないかと考えている。
それが分からないアデリナ様ではないと思うが、これは幼馴染、いや姉の代わりとしてどうしても引けない一線ではないだろうか。
「それでアデリナ様は私に何を期待されているのでしょうか?」
わざわざ人目のつかないところに呼び出してこんな話をしたのだ、ただ私を試したかっただけと言う訳ではないだろう。
「本当はリーゼがまだウィリアムの事を好きでいるなら、全面的に協力するつもりでいたのよ、私よりあなたの方がまだ可能性があるからね。でも当の本人にその気がないのなら仕方がないわね」
「申し訳ございません、このような事は立場上言ってはならないですが、私はウィリアム様の事を許すことが出来ません。
あの方は私とお付き合いをしていた4年間を、たった一言『鬱陶しかった』と切り捨てたのです。アデリナ様のお気持ちも分からないではありませんが、ウィリアム様自身が間違いに気づかない限り、この国に明るい未来は存在しません」
アデリナ様がウィリアム様の事を守りたいという気持ちは、私がケヴィンを守りたかったという気持ちに似ているが、結局のところ、本人が自ら努力しない限り現実を変える事は難しいだろう。
「そう、せめて私に協力してもらえるのなら助かったのだけれど、どうもその気もないようね」
「申し訳ございません」
アデリナ様に協力したい気持ちはあるが、今の現状でどちらか片方に力を貸すのはブラン家としてリスクがありすぎる。この国の人達を見捨てると言う訳ではないが、私達が一番に守らなければならないのはブランの領民なのだ。
これは私とお父様との見解で、今回の王妃争奪戦には中立の立場を取る事に決めている。
「全く、ウィリアムもこんな王妃に向いている子をあっさり切り捨てるなんて、ホント勿体ない事をしたわね。でも仕方がないわ、残念だけど諦めるとするわ」
そうい言うと私に背を向けながら会場の方へと向かわれて行く。
「そうそう、もし何か困った事があればいつでも相談になるわよ、あなたも公爵家の私と繋がりがあった方が何かと便利でしょ?」
「それは確かにそうですが、私はアデリナ様に嫌われたのではなかったのですか?」
「何言ってるの、寧ろ私はリーゼの事を気に入っているのよ。気が向いたらいつでも公爵家に尋ねて来なさい、ウィリアムの事以外でも歓迎するわよ」
それだけ言うと、一人光輝く人混みの中へと姿を消していく。
色んな意味で、アデリナ様の話を聞けた事は私にとって有意義な時間となった。だけど一方、この国の行く末に未来がない事も同時に理解してしまった。
「心配だわ、このまま何事もなければいいのに……」
国が滅ぶかもしれない、それは私たちが軽はずみに言ってはならない言葉だ。
私だって薄々は感じている、今この国を支えているのは陛下の強大な支配があっての事。貴族達はそれに付き従い、お互いを支え合っているからこそこの国が成り立っている。
だけど、残念ながらウィリアム様には各諸侯を抑え込む力はないだろう。それでも政府の要人さえしっかりしていれば、国は成り立つ事も出来るかもしれないが、今のあの我儘王子では誰もが真剣に取り込む事は出来ないはずだ。
これが王国に何の問題もない時代なら、これ程心配する事もないのだろうが、今の国内事情では期待は薄いといっても良い。
実際、国の未来を憂いている一部の貴族達は、自身の領地だけは守ろうと動き回っていると聞いているし、我がブラン領に至っては、国が傾いたとしても強固に耐えられるだけの施設や蓄えを増やしていっている最中だ。
「軽はずみの言葉だったわね、忘れて頂戴」
そう言うと私に背中を向けて、夜空に溶け込むように風を感じておられる。
「どうして私にそのような話をなされたのですか?」
「彼をあんな風に育ててしまったのは、私にも原因があるのよ。リーゼは王妃様の事はどれほど知っている?」
この国の王妃、ベルニア・メルヴェール様はウィリアム様の母親であり、元侯爵家のご令嬢で、歳若くして王妃の座に着いた方だと聞いている。
以前私がまだウィリアム様の婚約者だった時に、何度かお話しをする機会があったのだけれど、一言で言えば余り好きにはなれない人だった。
「侯爵家のご出身で、前の陛下が早くに亡くなられた為に歳若くして王妃になられたと伺っております」
「そうね、世間ではそう伝えられているわ。確かにそれは間違いではないし、誰もが理解している事よ。だけど、ベルニア様は余りにも王妃として相応しくなかった。ねぇ知ってる? ベルニア様にはもう一人の王妃候補者がいた事を」
もう一人の王妃候補? そんなの聞いた事も考えた事もなかった。お父様達も何も言ってなかったし、世間でもそんな噂を聞いた事がない。
「いいえ、聞いた事もございませんが」
「そうでしょうね、実際公に発表される前にベルニア様がもう一人の候補者を蹴り落としたのだから」
ん? 何処かで聞いた話しに似ている。これって私とエレオノーラとの関係に似ていない?
「それは何らかの罠に嵌めたという事でしょうか」
もしそうならアデリナ様がエレオノーラを警戒する気持ちは分かる。
ベルニア様が王妃に向いていない事は薄々感じてはいたが、それ程付き合いがあるわけでもないし、会話をした事もほんの僅かだ。たったそれだけで判断するのもどうかと思っていたので、この事は誰かに話した事は一度もない。
「私は公爵家の人間でウィリアムとは年が近いと言う事もあって、昔はお城への出入りを許されていたのよ。だからそういった噂も自然と耳に入ってくる。ベルニア様の事を良く思っていない使用人は結構いるのよ」
アデリナ様の話しではメイド達が噂話をしているのを偶然聞いてしまったそうだ。その内容はベルニア様がもう一人の王妃候補者である実家に、有らぬ罪を着せてお家取り潰しまでに追い込んだのだとか。
その結果、自分は王妃となってお城では我儘に振る舞うようになり、もう一人の候補者は一家ごと住む場所を無くし、自分は一市民として格下のどこかの家に嫁ぐ事になったのだとか。
……あれ? ちょっと待って。身分を剥奪されて格下の家に嫁ぐ事になった?
「あのー、アデリナ様? そのもう一人のご令嬢って、今はどうされているかってご存知ですか?」
「変な事を聞くのね、当時は結構大きな事件になっていたそうだから、その方の事は緘口令が引かれてしまっていて何も分からなかったわ。表向きは公爵家に連なる不祥事って事になっているらしいから、何が起こってお家が取り壊しになったのかも記録に残っていないの。
私が知っているのは、複数の筋からあの事件はベルニア様が仕組んだ事だって話しているのを聞いたのと、その事件の告発に関わった貴族達がベルニア様が王妃になった途端、急に出世したって事ぐらいよ」
事件に関わった人たちが急に出世したって、めちゃめちゃ怪しすぎるでしょ。でも正当な王妃様が采配したのなら、誰一人として逆らう事は出来なかったのだろう。貴族には与えられていない爵位取り消しや、不敬罪を言い渡せることができる権限が王家の一族には与えられているのだ、下手に逆らえば自身の身を滅ぼしかねない。
それに元々陛下は権力で押さえ込む方だと聞いているし、昔から王妃様の事にも無関心だとお父様がおっしゃっていた。仮に一連の出来事に気付かれていたとしても、何も言わなかったのではないだろうか。
「それじゃその方の所在は結局分からないんですね」
格下の家となると男爵・子爵・伯爵辺りであろう、それに以外に本家以外の貴族達を加えるとなると、見つけ出すのはかなり難しいのではないだろうか。
「そんなにその方の事が気になるの?」
「そう言う訳ではないのですが、親近感みたいなのがありまして……」
言えない、もしかしてお母様の事かもしれないなんて。
「そうね、参考にはならないかもしれないけど、男性を惹きつける何かを持っていらっしゃったみたいよ。それが気にくわないからってベルニア様が嫌っていたって話だから。ただ、ご本人は邪魔者を実力主義で排除される方だったそうだから、直接対決には至らなかったらしいわ」
「実力主義?」
「えぇ、正確には物理的に殿方を投げ飛ばしていたとか。まぁ、ただの噂話だから、実際にそんなご令嬢が公爵家の血筋にいらっしゃるとはとても思えないけどね」
「あは、あははは、ですよねー」
お母様だ、絶対お母様の事だ。
昔の話しはほとんど聞いた事はなかったけど、以前にお父様から何処かのパーティーで不埒者を投げ飛ばした事があると聞いた事がある。
いろいろ詳しい話しを聞きたいところではあるが、迂闊にお母様の機嫌を損ねると命に関わってしまう。主に周りの人が。
ここは何も知らない、何も聞いていないで通すのが娘心というものだろう。私だってまだ命が惜しいもん。
「そんな母親の元で育ったウィリアムが、我儘に育つのはごく自然事だったのかもしれないわね。いくら乳母がお世話をしていたとはいえ、少し注意するだけで辞めさせられた使用人が大勢いたわ。ウィリアムもそれが当たり前になって、自分の気に食わない事は全て放り出した。
その結果同年代の親友達は離れていき、二大爵位のご令嬢達は誰も近づかなくなったわ、私以外ね。」
なるほど、そういう事か。
公爵家と侯爵家の方々は、当主としては自分の娘を王妃にしたいが、肝心の娘がその気にならないのなら親として無理強いが出来ない。二大爵位のご令嬢方なら私達下級貴族と違って、幼少の頃からウィリアム様と身近に接触する事が多かったから、初めからどのような人物なのかが分かっていたのだ。
私がウィリアム様と初めて出会ったのは学園に入学してからだから、多少なりと常識が身についていたのではないだろうか、見た目がイケメンのせいで物語に出てくる王子様像に照らし合せてしまい、ノックアウトされてしまったのだ。
ちっ、私の乙女心も夢の白馬の王子様には敵わなかったって事か。
「それじゃアデリナ様だけは、その後もずっとウィリアム様のお側におられたって事ですよね?」
公爵家の正当なご令嬢であるアデリナ様なら、ベルニア様もそうキツイ事言えないはずだ。それでウィリアム様の我儘が治るとは思わないが……
「それがそうでもないのよ、私はその後ウィリアム本人にお城の出入りを禁止されてしまって、こういった行事でないとお城へ来る事は出来ないの」
なっ、自分に唯一味方をしてくれるアデリナ様を自ら切り捨てたですって!
「私にとってウィリアムは弟のような存在だったから、何かと気遣っていたのだけれど、結局彼からすれば唯一注意をされる邪魔な存在だったってわけ。リーゼにも心辺りがあるんじゃない?」
そう言われれば確かに心当たりがあるが……
「まさか、それが原因で私は嫌われてしまったのですか?」
覚えている範囲で私が言った言葉は、挨拶の途中で急に何処かにいかれるから、もう少し出席者の方と会話をされてはどうかや。同年代の女性とダンスを踊っている最中に、つまらないと言って曲の途中で切り上げてしまわられたので、お相手の方が寂しそうにされていましたよと言った程度。
とても注意というレベルではないのだが、確かに私が言った後には不愉快そうな態度をされていた。
「多分それが一番の原因じゃない? 今ウィリアムが付き合っている女性、たしかエレオノーラだったかしら。彼女はそんなウィリアムを注意しようともせず、自らも同じように振る舞いをしている節があるから、もしかして親近感が恋心に発展したとかじゃないかしら」
流石アデリナ様、幼少の頃からウィリアム様の事を見てこられただけはある。
学園であの二人の様子を見ていた時、ウィリアム様がエレオノーラに嫌われないよう気を使っていた節があった。もしかしてあれは恋心ではなく、一人になりたくないといった愛情表現だったのではないだろうか? それが何時しか恋心に発展した。
アデリナ様の話では、エレオノーラはベルニア様の性格は似ているようだし、共にウィリアム様の事を甘やかしている点では共通している。だとすると彼女を母親に重ね合わせたとしてもなんら不思議ではないのではないだろうか。
「まぁ、国の未来の為にはウィリアムの恋心なんて気にする必要はないけど」
「だからアデリナ様は自ら名乗り出て、ウィリアム様を正しく導こうとされているのですか?」
「そんな事は考えていないわよ、今更ウィリアムの性格が直るとも思えないからね。ただ私はこのまま二人が結ばれるような事になれば、この国が無くなってしまうのでないかと考えているだけ」
アデリナ様はこう言われているが、たったそれだけでは国が立ち直る事は出来ないだろう。それに肝心のウィリアム様から嫌われているのであれば、王妃になれる可能性はゼロに近いだろう。
私はいくら周りが諫めようとも、最後には自分の感情を推し通し、エレオノーラと結婚するのではないかと考えている。
それが分からないアデリナ様ではないと思うが、これは幼馴染、いや姉の代わりとしてどうしても引けない一線ではないだろうか。
「それでアデリナ様は私に何を期待されているのでしょうか?」
わざわざ人目のつかないところに呼び出してこんな話をしたのだ、ただ私を試したかっただけと言う訳ではないだろう。
「本当はリーゼがまだウィリアムの事を好きでいるなら、全面的に協力するつもりでいたのよ、私よりあなたの方がまだ可能性があるからね。でも当の本人にその気がないのなら仕方がないわね」
「申し訳ございません、このような事は立場上言ってはならないですが、私はウィリアム様の事を許すことが出来ません。
あの方は私とお付き合いをしていた4年間を、たった一言『鬱陶しかった』と切り捨てたのです。アデリナ様のお気持ちも分からないではありませんが、ウィリアム様自身が間違いに気づかない限り、この国に明るい未来は存在しません」
アデリナ様がウィリアム様の事を守りたいという気持ちは、私がケヴィンを守りたかったという気持ちに似ているが、結局のところ、本人が自ら努力しない限り現実を変える事は難しいだろう。
「そう、せめて私に協力してもらえるのなら助かったのだけれど、どうもその気もないようね」
「申し訳ございません」
アデリナ様に協力したい気持ちはあるが、今の現状でどちらか片方に力を貸すのはブラン家としてリスクがありすぎる。この国の人達を見捨てると言う訳ではないが、私達が一番に守らなければならないのはブランの領民なのだ。
これは私とお父様との見解で、今回の王妃争奪戦には中立の立場を取る事に決めている。
「全く、ウィリアムもこんな王妃に向いている子をあっさり切り捨てるなんて、ホント勿体ない事をしたわね。でも仕方がないわ、残念だけど諦めるとするわ」
そうい言うと私に背を向けながら会場の方へと向かわれて行く。
「そうそう、もし何か困った事があればいつでも相談になるわよ、あなたも公爵家の私と繋がりがあった方が何かと便利でしょ?」
「それは確かにそうですが、私はアデリナ様に嫌われたのではなかったのですか?」
「何言ってるの、寧ろ私はリーゼの事を気に入っているのよ。気が向いたらいつでも公爵家に尋ねて来なさい、ウィリアムの事以外でも歓迎するわよ」
それだけ言うと、一人光輝く人混みの中へと姿を消していく。
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