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みるくてぃー

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騒乱

第33話 反逆のブラン

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「連絡はまだ来ないのか!」
「落ち着いてください父上、ウィスタリア家の者が匿われている別荘には、警護の騎士がいないと言う話ですから、襲撃して戻ってくるまでそう時間は掛からないはずです」

 二人の公爵を投獄し貴族連中を黙らすまでは問題なかった、だが一族全員を捕らえるために公爵家に乗り込んだ時には既にもぬけの殻、夫人はおろか使用人の連中まで奇麗さっぱりいなくなっていた。
 急ぎ国中に指名手配を出したが、グリューン家の方は西のアプリコット領での目撃情報を最後に行方が分からず、ウィスタリア家の方は四方八方に馬車を放たれたせいで全く足取りを掴めなかった。そんな折、兼ねてからブラン領を警戒させていた者から連絡が入り、リーゼ嬢が何やら怪しい連中を人目の付かない別荘へと招き入れたと報告が入った。

 私も父も最初は噂が絶えないレガリアと密会でもしているのかと考えたが、翌日に入った情報でウィスタリア家の者が匿われていると知り、急ぎ裏仕事専門の部隊をブラン領へと送り込んだ。
 結果的に一日ロスをしてしまったがブラン領の別荘に匿われてから今日で三日目、別の場所に逃げ込むにしてもそうすぐには行動出来ないだろう。何より常に見張りを付けているので、場所を移動されても後を追いかけることは出来る。
 後は昨日送り込んだ部隊が一行を暗殺し、例の血判状を奪い返せば証拠を知る存在はいなくなる。

 まぁ、ブラン家に情報が洩れている恐れはあるが今回の件で謀反に加担したとすれば、何処の貴族も巻き込まれないように遠ざかるのは目に見えている。元々二大公爵家と肩を並べられるほどの領地を持ち、隣国であるレガリアを背後に構えるブランはいずれ邪魔になる存在だと分かっていたのだ。
 今回の件で一緒に消えてくれるなら返って好都合というもの、何だったら国民感情を無意味に誘導した言えば少しは我らの役に立つかもしれない。何と言ってもミルフィオーレ王女の血は中々馬鹿に出来ないのだから。


「分かっているのかダグラス、あの血判状が見つかれば真っ先につるし上げられるのはお前なのだぞ。しかも見方を変えれば我らが公爵を罠に嵌めたという者まで出て来るかもしれない、そうなれば全ての計画水の泡となってしまうではないか」
「大丈夫です父上、血判状はウィスタリア家の方に保管されている事は分かっており、屋敷の方から見つからなかった事を考えれば誰かが持ち出した事は明らかです。恐らくもう間もなく吉報が入る頃ではないでしょうか」
 大丈夫だ、別荘には護衛はいないという話だから送り込んだ暗殺部隊で十分制圧が出来る。例えレガリアに亡命しようと考えても3日程度ですんなり受け入れてもらえるとは到底考えられない。これでチェックメイトだ。





「リーゼ様、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたんですかサツキさん?」
 アデリナ様達がレガリアに立たれたのが今朝早く、残念ながら私が何度も同じ場所に足を運ぶと何かと目立ってしまうために、お見送りは断念した。

「先ほど国境沿いまで見送りにいったミズキが戻ってまいりました」
「そう、ご苦労様。特に問題はなかったかしら?」
 今名前が出てきたサツキさんとミズキさんは、アリス様から一時お借りした姉妹の騎士様。
 元々はレガリア王国に仕えていた騎士だったそうだが、アリス様がハルジオン家に嫁がれてからは公爵家の専属騎士に転職されたという話。そんなお二人がなぜブランに止まってくれているかというと、私の護衛兼レガリアとの連絡役としてアリス様が私にお貸しくださった。

 ブランでも徐々に騎士は増やしてはいるが、古参の騎士も含め実践経験は皆無と言っても良い。そんな彼らも正攻法で迫ってくる敵に対抗できても、暗殺やイレギュラー対してはどうしても実践経験の差がものをいう。
 そんな私を以前より心配してくださっていたアリス様が、危険回避のためにワザワザ国から連れて来てくださったのだ。


「いいえ、アリス様とご一行を引きつれた馬車が何者かに襲撃されました」
 ブフッ
「ちょ、ちょっと! 何サラっととんでもない事を言ってるんですか!」
 私はてっきり『問題ありませんでした』『そう、それじゃミズキさんには休んでもらって』的な軽い流れで話が進むものだと思っていたのに、襲撃されたですって!?

「ご安心ください、襲撃者は全員返り討ちにし、全員取り押さえたと報告を受けております。主にアリス様が……」ボソッ
 後半部分が小さかったので上手く聞き取れなかったが、今アリス様がどうのと言わなかった? いやいやまさかね、流石のあの人でも襲撃者を全員返り討ちなんて……あちゃー、できちゃうよー

「そ、それで怪我人とかは出ていないのよね?」
 自分でも少し同様しているが、サツキさんの態度からすると特に心配することもないだろう。
「はい、その点は問題ございません。ウィスタリア家の方々も襲撃が終わるまで気づかれなかったそうですので」
「……そ、そう。なら良かったわ」
 もう驚かないぞ、とは思っていたが襲撃が終わるまで気づかないってどれだけ馬車に強力な結界を張っておられたんだ? まさか一瞬で敵を返り討ちにしたとか言わないでしょうね。

「ただ気になることが」
「気になること?」
「はい、襲撃者は全員捕らえたそうなのですが、ミズキの話では敵はやけに統制がとれており、殺害を第一に動いていたようなのです」
「それは暗殺部隊、ということかしら?」
「恐らく……仮にもしそうだとしたら実行犯とは別に見張り役がおり、既に王都へと知らせが飛んでいる可能性があるのです」
「……」
 サツキさんの話を聞き始めた時から嫌な予感はしていた。
 国境沿いは国を跨ぐ関係でどうしても警護が緩んでしまう。下手に騎士団を動かせば隣国に不安を与え、警護を疎かにすると山賊や獣が蔓延ってしまう。だから今回も山賊の類かと一瞬頭を過ぎったが、余りにもタイミングが良すぎるのと、荷馬車ではなく人を運ぶ馬車を襲撃したところから、サツキさんの考えはまず間違いなく正解ではないだろうか。

「襲撃者は全員捕らえたのよね?」
「はい、王都に戻り次第すぐに拷問されるでしょうが、何処まで吐かせられるかまでは分かりませんし、時間もかかってしまいます」
「そう」
 あっさり拷問という言葉が出るところは、流石実践経験を積んで来られた真の騎士というところだろうか。レガリアは長年北のドゥーベ王国との戦争状態が続いているそうなので、常にぬるま湯に浸かっているメルヴェール王国とは騎士の心構えがまるで違う。
 それより今私が考えなければならないのが我が国の動き、もし襲撃者が想像通り国が送り込んだ者達だとすれば、十中八九私がアデリナ様達を匿っていた事は筒抜けだろう。

「ハンス、お母様達は王都を出られたのよね?」
 部屋の端で待機していたハンスに声をかける。先ほどから私たちの話を聞いていた筈なのに、表情一つ変えないところは流石熟練の執事といったところだろう。お父様が無条件にブラン領の管理を任せていたのも解るというもの。
「はい、一昨夜王都を立たれ、大きく迂回しながらこちらに向かわれているとの事なので、本日の午後には到着されるのではないでしょうか」
 お父様にアデリナ様の件を報告した後、王都の屋敷からお母様とお姉様、それと執事のルーベルト以外の使用人を全てブラン領に戻すと報告が入った。
 屋敷で雇っていた使用人は全員ブラン出身なので、こちらに戻しても特に問題はないが、私が雇ったパタンナーのディアナとイレーネは王都の人間なので、お母様から直接二人に話をしてもらい、彼女たちの同意の元、家族ごとブラン領へと来てもらうことになっている。

 この二人だけは店舗で働いてもらっているスタッフと違い、ブラン家に出入りをしてもらっていた為、このまま王都に残しておくと執拗な追及を国から受けてしまう恐れがあるので、理由を説明しブラン領での住居の提供と其れなりの費用を負担するのを条件に、家族ごと移り住んでもらう事に同意してもらった。
 一方店舗の方は陛下の死後、少なかった客足が徐々に戻りかけていたのだが、10日程前に起こった公爵家謀反事件で一気に振り出しに戻り、今後の状況を考えた結果希望する者はブラン領に来てもらい、王都に残る者は最後のお給料に色を添えて辞めて頂いたところだ。

「それにしてもお父様達は王都に残られて何をなさっておられるのかしら?」
 現在お父様は、レオンお義兄様と執事のルーベルト、それに屋敷に仕えていた数名の騎士と共に王都に残っておられる。
 一応連絡を取り合えるよう秘密のルートは確保しているが、ブランが独立するには当主であるお父様がこの地に戻らない事には選言もできない。

「そこまでは聞いておりませんが、先代様より王都お屋敷とは別に幾つか隠れ家的な場所を確保しております。恐らくはその内の何処かに身を潜めておられるのでしょう」
 ハンスが私を安心させようよ説明してくれる。
 何それ、私そんな場所なんて聞いた事がないわよ。しかもお爺様の時代からって今更ながらブラン家って何気に凄いわね。

「取りあえずお父様達も安全な場所に避難されているのね」
「その点は問題ないかと存じます。危なくなられたらすぐに脱出されると思いますので」
「そう、なら今はこちらの問題を解決させないとね」
 とにかく今はハンスの言葉を信じる事にしよう。
 むしろ一番問題となる事案はアデリナ様達を襲撃した者が国の人間で、私がウィスタリア家の方々を匿っていた事が国側に漏れているかどうかだが……今となっては淡い希望なのかもしれない。



 翌日、王都から王国軍がブラン領に向けて出陣したと連絡が入る事になる。
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