アクアリネアへようこそ

みるくてぃー

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二章 襲いかかる光と闇

第51話 とんでもない置き土産

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「お世話になりました、リネアさん」
「いえ、こちらこそ大したおもてなしも出来ず申し訳御座いません」
 お二人の公爵様が起こした謀反から約1ヶ月。
 最初はメルヴェール王国の内乱から始まり、リーゼ様がいらっしゃるブラン領への進軍だったが、突如ラグナス王国からの戦線布告で一時撤退。
 そのあと国はウィルアム王子を旗頭に防衛線を張るも、ラグナス王国軍の進軍を止められず、自ら街を焼く事によってその進行を止めようとした。
 だがその愚かな行為がキッカケとなり、多くの民や兵たちが離反。わずか一ヶ月という短い期間で、メルヴェール城はラグナス王国軍とメルヴェール騎士団によって陥落した。

「何をおっしゃるの、ここでの生活は安らぎ以外の思い出しか残っていないわ。私もエミリオもリネアさんやここにいる皆さんに対して、感謝の気持ちでいっぱいなのよ」
 メルヴェール王国内は未だ混乱が続いているようだが、何時までも国を空けておくわけにはイケないとの事で、アンネローザ様とご子息のエミリオ様は今日帰国される。

「それにしても公爵様方がご無事で何よりです。これからの国はお二人がおられなければ立ち直る事も出来ませんので」
 今回の件で唯一の王子であるウィルアム王子は行方不明。女王であるベルニア王妃と、その実家でもあるフェルナンド侯爵家は国王暗殺の容疑で拘束され、制圧したラグナス王国もメルヴェール王国を支配するつもりもなく、今回は難民達による救いの声から軍を進めただけとのことで、手続きが終わり次第新王国へと引き継がれるのだとか。
 どうやら北側にある幾つかの領地では民達が疲弊し、難民となって多くの人たちがラグナス王国へと流出していたのという。
 結果、ラグナス王国は国民を救うべく近隣諸侯の了解をえて軍を派遣。メルヴェール王国は当然対抗する姿勢をとったのだが、最後はバカ王子の作戦により終戦を迎えた。

 そして現在なのだが、ラグナス王国から復興で派遣された第二王子と、メルヴェール王国に仕えていた貴族達。そして裏方へと回ったお二人の公爵様によって、今も着々と新王国への道を歩み出しているらしい。

「この間あの人から手紙が届いたんだけれど、若者達には負けられないって張り切っちゃって。一人にしておくのは危なっかしいから、私たちも早くもどってあげないとね」
「ははは、それだけ今の国には活気づいているのでしょう。エミリオ様も公爵様のお力になれるよう、頑張ってくださいね」
「ありがとうございまますリネアさん。僕はこの地で受けた恩は決して忘れません」
「それじゃそろそろ行くわね、国が落ち着いたら遊びに来てちょうだい」
「ありがとうございます」
 公爵様がご無事だったとはいえ、謀反を起こそうとした事実は消える事はない。
 その事は当の本人も十分承知らしく、今後は一切表には出ず子供達に当主の座を譲り、ご本人様達は一線から退くことを決めておられるそうだ。
 つまりエミリオ様は国に戻るなり、わずか15歳という年齢で公爵の座に座る事になっている。

「リア、ちゃんとお別れをいいなさい」
 わずかな間だとはいえ、リアにとってエミリオ様はお兄さんのような存在だった。
 暇あるごとにここへ来て、よくエミリオ様が遊び相手をさせられていた事を知っている。
 本来なら気安く話す事すら出来なかった間柄なので、おそらく今後はお会いする事は難しくなるだろう。

「……」
「リア、これが最後になるかもしれないのだから、ちゃんとお礼とお別れをいいなさい」
 リアの気持ちは痛いほどわかるが、だけど貴族社会のこの世界ではこればかりはどうしようもないだろう。
 アンネローザ様はいつでも遊びに来てとはおっしゃったが、平民となった私たちと公爵家にもどったエミリオ様とでは、あまりにも大きな壁が立ちふさがってしまう。
 それは恐らくリアだって分かっているはずだ。

「……」
「リア、そう悲しい顔をしないで。僕は国へと帰るけれど、二度と会えなくなるわけじゃないんだ」
「でも……、だって!」
「それじゃ約束しよう、国が落ち着いたら僕がリアを招待するよ。お屋敷には綺麗な花壇がいっぱいあるから、きっとリアも喜んでくれるはずだ」
「ほんと?」
「うん、約束するよ」
「……約束だよ。絶対約束だよ」
「あぁ、約束だ」
 二人の年若い姿を見てなんだか微笑ましいが、私としては内心ドキドキ。
 リアの成長した姿を見れたのは嬉しいが、相手は公爵様になられる方なので将来『公爵家に嫁ぎます』とか言われれば、私は全力で泣き崩れるだろう。

 まぁ、そんな未来は有りえないわね。

「ふふふ、安心してねリアちゃん。リネアさんは公爵家にとって命の恩人。それにアクアの村を代表とす商会責任者ともなれば、パーティーの招待状はいろんな意味で無視はできないはずよ」
「うぐっ!」
 考えないようにとは思っていたが商会を運営するには、貴族とのつながりは切っても切り離せないもの。
 いずれアプリコット伯爵様や、ヘリオドールのカーネリン様からもパーティーの招待があるとは覚悟していたが、公爵家のパーティーは流石にレベルが違いすぎる。
 ここはリアには申し訳ないが、体調を崩したとかいって丁重にお断りする方向で考えよう。

「そうそう、一つ言い忘れていたわ。今回のお礼として公爵家から置き土産を用意しておいたので、好きにつかってあげて」
「置き土産ですか?」
「えぇ、そのうち分かると思うから楽しみにしていてね。ふふふ」
 公爵家からという言葉が妙に引っかかるが、そう高価な品は用意も出来ないだろうし、今更驚く様な仕掛けがあったとしてもそれ程気にするものでもないだろう。

「それじゃリネアさん、今までありがとうございます。いずれまたお会いしましょう」
「はい、ローザ様もお元気で」
 こうして旅立たれるお二人を私たちは見送る事となる。
 やがて新王国にこの人有り、といわれる未来の公爵様の姿を重ねて。




 そしてアンネローザ様たちを見送ってから一週間……

「このお屋敷に引っ越ししてきたのはいいんだけれど、さすがにちょっと手狭になってきたわね」
 アンネローザ様が帰られたため、空き家となったこのお屋敷に引っ越ししてきたのはいいが、正直今の私たちにとっては少々手狭。
 商会の運営が順調で、尚且つアンネローザ様からお礼にとちょっと怖い金額のお金が送られても来たが、基本贅沢は敵の方針なので頂いたお金は素直に貯金へ。
 ならば何贅沢なセリフを言っているんだと思うかもしれないが、この人数を養うにはちょっとこの小さなお屋敷では窮屈なのだ。

「それにしても一気に増えましたね」
「そうね、ハーベストとマリアンヌ以外全員私を頼って来てくれたんだから、ある意味仕方がないわよね」
 アンネローザ様のお世話をするため、実家のお屋敷を解雇された人達を雇ったわけだが、度重なる叔母たちの出費と、今回伯爵家が管理する領地が丸焼けになり、ついにアージェンド家の財政は底を付いてしまったんだそうだ。
 現在叔父たちは僅かな収入を頼りに、領地の復興のために日々走り回っていることだろう。

「にしても、最後まであのバカ王子に振り回された感じよね。エレオノーラの婚約も結局意味をなさないもになった訳だし、ライバルとしていたリーゼ様に結局王妃の座を持っていかれるしで、止めは王子の作戦でアージェンド領が見事なまでに丸焼けでしょ? 例え国からの支援を受けて復興できたからといっても、肝心の領民はすでに各地に散らばっちゃったんだから、これから十数年はたいした収入も見込めないはずよ」
 幸い事前に戦場になる話が浮上していた為、大半の領民達は早めに各地へと避難していたのだが、結果的に戻る家が無くなってしまっては、避難先で新たな生活を始める者が大半であろう。
 現にこのアクアの地にも多くの人達が逃げて来ており、その大半が国へと戻らずここで新しい生活を始めだしてしまってる。

 こちらとしても若者が少ない村だったので、商会の運営やら大変助かっている訳なのだが、その全てを補うには正直雇用先がなくなりつつあるのが現状だ。
 そのためにアクアのリゾート化に手を出した訳ではあるのだが。

「いいザマですよ。今まで散々贅沢な生活をしておられたんですから、心を入れ替えて働かれればいいんですよ」
 もしもしノヴィアさん。少々性格が歪んできてはいませんか?

「どちらにせよ、今ごろ叔父達は最悪な状態でしょうね」
 お屋敷で雇っていた熟練の使用人を全員解雇し、新たに素人同然のメイドを安月給で数人雇い入れたと聞いている。
 伯爵家で働いてくれていた使用人達は全員熟練の者達ばかりなので、その分支払うお給料は当然高いものとなる。なので叔父はその支払う給金を節約するため一旦全員を解雇し、新たにバイト同然の素人を新たに雇い入れたのだという。
 今は執事のハーベストとメイド長のマリアンヌだけは残ってはいるが、仕事のレベルも人数も足りない状態では、さぞかしその疲労は相当なものとなっていることだろう。

「こちらとしては皆んなと再会出来たのは嬉しいし、私を頼ってくれて来た皆んなは全員雇い入れはするけど、ちょっとこの人数に対してこのお屋敷の大きさは少し厳しいわね」
「そうですね。もともと何方かの別荘だったらしいのでそんなに大きくありませんし、お掃除にしろお庭のお手入れにしろ、すぐに終わっちゃうんですよね」
 基本そのお屋敷にあった人数を雇い入れるのが通説だが、私の場合使用人ありきのお屋敷だ。
 それに商会の代表(仮)なんて席についている関係、多少見栄を張らないと交渉の際に足元を見られるだろうし、みんなを養っていけるだけのお金もある。
 だけど実際このアクアの地で、このお屋敷以外に大きなのって領主様のお家しかないのよね。

「これは早急に何か考えないといけないわね。」
 私が一人なんらかの対策を考えないとと思っていると、お茶を運んできたサラが横から不思議そうな顔で尋ねてくる。

「どうしたの? サラ」
「今のお話はリネア様達が暮らされるお屋敷の事ですよね?」
「えぇ、ここじゃちょっと皆んなと生活するのは少々手狭だという話をしていたんだけれども」
「でも今、新しいお屋敷を建てておられるんですよね? あそこの丘の上に」
 と言いながら、お屋敷から見える小高い丘の上を指出すサラ。

「………………はぁ??????」
 今この子なんつった?

「ちょっと何の話よ、私お屋敷なんて建ててないわよ!?」
「で、ですが、既に着工に入っておられますし、ノリノリでアンネローザ様がアレヤコレヤと指示をなさっておられましたよ?」
「……」
 やられた。
 アンネローザ様が別れ際の際におっしゃっていたあの言葉。
 私はてっきりその後に送られてきた多額の謝礼金だとばかり思っていたが、まさかこの様な規模の置き土産を置いて行かれたとは誰が想像できるだろうか。

 その半年後、私には勿体ないほどのお屋敷が完成したのは言うまでもあるまい。
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