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二章 襲いかかる光と闇
第52話 悪意の影
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「なんですって! 来月から街道使用料の徴収を始める!?」
突如カーネリンの街からアクア商会に届いた一通の書状。またいつもの無茶な取引でも言ってくるのかと思い、重い気持ちのまま手紙に目を通したのだが、そこに書かれていたのは来月から街道使用料の徴収を始めるという内容だった。
「一度の通行で金貨2枚、しかも引いている馬の数で費用が加算されるとか、あの街の領主は一体何を考えてるのかしら」
もともと小さな国が一つに纏まったようなもので、その地その地で独自の権限やら政策やらは認められている。認められているのは認められているのだが、流石にこれは……。
金貨1枚で大体10万円相当だと思ってもらえれば、その金額の多さを多少わかってもらえるだろうか。
しかもアクア商会が保有する馬車は、重量の関係ですべて二頭引き作りとなってしまっている。
つまり往復の通行費を考えると、一度の輸送に金貨8枚という通行税を払わないといけないのだ。
「アレク、悪いんだけれどちょっとカーネリンの街に探りを入れてもらえないかしら? もしカーネリン領の街道すべてに通行税を掛けられてしまえば、うちだけではなく多くの商会が行き詰まり、たちまちメルヴェール国への輸出も輸入も出来なくなってしまうわ」
現状トワイライトからメルヴェールへの行きの便は、すべてカーネリンの領地を通らなければならない。
しかもメルヴェール王国は現在物資不足で、他国からの輸入に頼っている部分もあるし、トワイライト側にしてみてもこの期を逃さず、多くの馬車がカーネリンの新街道を行き交っているとも聞いている。
もしカーネリンの街道全てに通行税を掛けられてしまえば、トライライト及びメルヴェール王国の輸送は大きな打撃を受けるだろう。
「わかりました。顔見知りの者があの街におりますので、少し調べてまいります」
「悪いわね、スパイみたいな真似をさせちゃって」
「いえ、調べるといっても話を聞いてくるだけですし、事はこの商会だけの問題でもありませんので」
「そう言ってもらえると助かるわ」
旅商人として各地回っていたアレクなら、カーネリンの街にも知り合いはいるだろう。
少々裏の仕事のようなお願いをして気が引けるが、何も疚しい事をするわけでもないし、危険な場所に行くわけでもない。
本人も知り合いに話を聞くだけと言っているのだからここはお願いし、私は私で今出来る対策方法を検討する。
カーネリンの街までなら馬でそう時間もかからないので、明日には何らかの情報を持ち帰ってくれる事だろう。
こうして旅立つアレクを見送り、私は対策を打つべく緊急の会議を開くのだたが……。
「なんですって! 街道の通行税を掛けるのはカーネリンとアクアを繋ぐ街道だけですって!?」
昨日に引き続きまった同じ反応から始まったわけだが、アレクが持ち帰った情報は私を怒らせるには十分な内容だった。
「本当なの? その話は」
「えぇ、何人か顔見知り合いの商会に確認しましたので間違いないはずです」
アレクの話を信用しないわけではないが、あまりにもひどい話なので再度同じ問いかけをしてしまう。
これがカーネリンの主要道路に当てはまるなら、百歩譲って納得もできる。街道とひとえに言っても自然災害で塞がれたり、橋が壊れれば修復もしなければならないので、収益の少ない地方ならば仕方がないのかもしれない。
だけどカーネリンのように大勢の馬車が行き来し、領地収入も多く見込める地域ならば、街道整備に当てる予算も当然計算されているはずだ。
実際このアクアの村でさえ、その辺りの予算は十分に計算されていると聞いているし、緊急時の蓄えも残しているとも聞いている。
しかも10年ほど前に出来た新しい街道ではなく、敢えてアクアの村とカーネリンの街とを繋げる旧街道のみを対象とされれば、これはもうアクア商会に対しての嫌がらせレベルとしか言わざるを得ないだろう。
「リネアちゃん、これってもしかして……」
「たぶん畜産物の取引を断った腹いせでしょうね」
実は商会を立ち上げた際、カーネリンの街と畜産物の取引で酷く揉めた事があったのだ。
もともとアクア産の生産物すべて関税を掛けられていたのだが、畜産物のみその対象ではなかった。
理由は恐らくカーネリンの食料生産量が極端に少ないから。
これは最近わかった事だが、カーネリンの街自体で食料の生産がほとんどされておらず、ほぼ全てと言って良いほど近隣の村や街からの輸入に頼っている。
なぜこの様な事態になっているのかは知らないが、輸入に頼らなければならない以上、市場に出るときは当然それなりのお値段で店頭に並ぶはずだが、不思議な事に地元のお手軽価格並みの料金で売られてしまっている。
例えばこのアクアの村で売られている野菜や魚は地元ならでは安さがある。そこに輸出先でもあるアプリコット領と比較すると、やはり輸送という手間や人件費がプラスされ、アクアの村で売られている価格より若干高い値段がつくのは当然の流れだろう。
これはアプリコット領で売られているのが本来の適正価格であって、アクアの村で売られている価格はあくまでも地元ならではの価格なので、この世界では別段珍しいものではないものだ。
それなのにカーネリンの街ではアクアの村で売られているような、地元ならではな価格で店頭に並んでいる。
もしそんな噂が広まればカーネリンの街は非常に住みやすい街として、多くの人たちが移住を希望するのではないだろうか。
「昔はカーネリンの街でも農業や畜産は盛んだったんですが、例の新しい街道を通す際に街へと変わってしまって……」
説明してくれるアレクの顔が、なんとも言いにくそうに歪んでしまう。
急激な街化は同時に人の人生を狂わせる。純粋に街化の波に乗れればいいが、知識や家庭の事情で取り残されてしまった人には決して優しくはない。
街が発展すれば土地の値が上がる。土地の値が上がれば税金が上がる。そして人とお金が集まれば悪事を企む者も多く呼び寄せ、恐喝まがいの地上げや高金利の金貸し、挙げ句の果てには人身売買すれすれの商売さえ生まれてしまっている。
その結果カーネリンの街では貧富の差が広がり、一歩裏道に入ると女性遊びができる遊郭が多く立ち並んでいるという話だ。
私もいまアクア村のリゾート化計画を進めているが、カーネリンの街の様にならないよう、注意しなければいけないだろう。
「つまりあの街は田畑を潰して街をつくったから、極端に食料生産量が少ないわけね」
「そういう事です」
急激な街化で人が集まったとなれば、当時の食料事情は相当苦労した事だろう。
物価が高くなれば人は集まらないわけだし、安く仕入れなければ安く売れない。おまけに一度田畑を潰した事で生産者さんたちは別の仕事についているわけだし、あらたに開墾するにも人員の確保するのが難しい状態とくれば、あとは近隣の村々から買い集めなければならない。
アクアの村は農産物こそアプリコット領と契約しているが、他の貧しい村々はそういうわけにもいかないだろうし、安く買いあされれたとしてもそれにすがるしか方法がない。
アクアの村だって取引先がない畜産物は、カーネリンの街との売買にすがるしかなかったのだ。
もしかしてアクアの農産物に関税を掛け、一切の取引をしてこなかったのは、農産物の売買には足元が見れないと踏んで避けてきたのではないだろうか?
「それにしても不思議だよね、カーネリンの街って街道が出来る前は田畑が広がる村だったんだよね? それなのに街道を作る費用ってどこから持ってきたの?」
ヴィスタの言う通り、街道が出来る10年前はカーネリンの街……いや、当時の村は、ただメルヴェール王国へとつながる街道の通過点でしかなかった。
アクアの村とカーネリンの街との距離はそれほど離れてはいない。
昔はメルヴェール王国との玄関口だったアクアは多くの人が立ち寄っていたが、逆を返せば近くの村であるカーネリンには立ち寄る人は少なかったのだ。
「それは街の人からお金をかき集めたんじゃ? 街道が出来れば豊かになれるとか言って」
「それはないわね。当時のカーネリンがどれほどの規模だったかは知らないけれど、村中のお金をかき集めたとしても足りないわ。そもそも村を街に発展させたとしても、全員が裕福になれる保証なんてどこにもないのよ?」
「それじゃどうやって資金を集めるのさ、自分たちの力だけで街道なんて通せないだろ?」
ヴィルの言う通り自分たちの力だけで街道を通すなどまず不可能に近い。これがヘリオドールのような大きな都市ならいざ知らず、アクアの村や当時のカーネリンの村だけでは到底不可能な事業であろう。
その地で暮らす人たちにも生活はある。その全てを街道整備にそそげるわけもなく、そそげたとしても当然そこにはお給料というものが発生する。
つまりは『お金がない』イコール、『村人達だけで街道を作る』は繋がらないのだ。
「カーネリンの街って、これといった特産物はなかったわよね?」
「そのはずだけど?」
「売る物がないのに田畑を潰して街をつくるか……」
「どうしたのリネアちゃん? 難しそうな顔をしちゃって」
「いやね、なぜ田畑を潰して街をつくったのかなぁって思っちゃって。だって良く考えてもみてよ、カーネリンの食料事情を支える田畑を潰すより、新たに開墾したほうがいいじゃない。別に開墾する土地がないわけじゃないんだから、1から街をつくるならその方がよくない?」
私もいまアクアの村のリゾート計画を進めているが、田畑を潰そうとか一度たりとも考えたことがない。
それはまぁ、農業もアクアを支える立派な産業になっているわけなのだが……。
「そんなの簡単だろ? 何もないところに街を作ろうとすれば、伐採やら運搬やらで時間と費用がかかるけど、今ある田畑を潰せば土地をならすだけですむじゃない。しかも街道とセットなら簡単に人も集められるじゃないか」
「確かにヴィルの言うとおりね」
街道の側に街ができれば利便性で簡単に人が集まる。
しかもメルヴェール王国との玄関口にしようと考えていたのならば、トワイライト内陸部に本部を置く商会なら、カーネリンの街に出張店を構えようと動いても不思議ではない。
……ん? まてよ。
私の中で何かが引っかかった。
「もしかして例の街道の費用って、田畑を潰した土地を切り売りしたんじゃないの? 例えば一旦領主様が買い上げたうえ、街道が出来た後に余った土地を高値で売りつけた。そうすれば街道の費用も確保できるんじゃない?」
「「「あっ」」」
実際それだけですべてが補えるとは正直思えないが、街が出来れば人が集まり、人が集まればお金も集まる。
そうすれば領地に入るお金も当然ふえるだろう。
現にもともとアクアにあった店舗やら人やらは、新しく街道が出来たという事でカーネリンの街へと移っていったと聞いている。
おそらく当時のアクア村の状況をある程度見越しての、街道計画ではなかったのだろうか?
「はぁ……、カーネリンの街がどうやって発展したかなんて今は考えても仕方がないわね」
とにかく今私たちが考えなければいけないことは、どうやって通行税を回避するか。
たかが通行税と思うかもしれないが、ようやく軌道に乗りかけた状態で取引先に値上げ宣言をするわけにもいかず、現状ではアクア商会が100%負担するしか方法がない。
しかもうちの商品が売れれば売れるほど輸送の便は増えていくわけなので、当然通行税を支払う回数が増えていくという仕組みだ。
せめて荷馬車1台に対してならなんとかなるが、引いている馬の数によって徴収料がかわるとか、完全にこちらの事情を把握しての対策であろう。
「とりあえず輸出に関しては現状のルートのままでいくしかないわね。帰りの便はカーネリンの街から一旦メルヴェール王国にはいって、アプリコット領から再び戻って来るって感じでどうかしら?」
「そうですね。今の商会事情を考えればそれしかないでしょう」
ヘリオドールとの街道が繋がれば一気に解消出来る問題ではあるが、それにはまだまだ時間がかかる。
かといってこのまま素直に払い続けていくのは予算的に厳しいし、言われるがままというのも気分的に納得がいかない。
「とにかく一度カーネリンの領主に話し合いに行ってくるわ。それまでなんとか我慢しましょ」
こうして私はカーネリンの領主の元へと行くことになるのだが、この時新たな訃報が私の元へと飛び込んで来ることになる。
私たちの恩人でもあるアクアの領主様が亡くなったのである。
突如カーネリンの街からアクア商会に届いた一通の書状。またいつもの無茶な取引でも言ってくるのかと思い、重い気持ちのまま手紙に目を通したのだが、そこに書かれていたのは来月から街道使用料の徴収を始めるという内容だった。
「一度の通行で金貨2枚、しかも引いている馬の数で費用が加算されるとか、あの街の領主は一体何を考えてるのかしら」
もともと小さな国が一つに纏まったようなもので、その地その地で独自の権限やら政策やらは認められている。認められているのは認められているのだが、流石にこれは……。
金貨1枚で大体10万円相当だと思ってもらえれば、その金額の多さを多少わかってもらえるだろうか。
しかもアクア商会が保有する馬車は、重量の関係ですべて二頭引き作りとなってしまっている。
つまり往復の通行費を考えると、一度の輸送に金貨8枚という通行税を払わないといけないのだ。
「アレク、悪いんだけれどちょっとカーネリンの街に探りを入れてもらえないかしら? もしカーネリン領の街道すべてに通行税を掛けられてしまえば、うちだけではなく多くの商会が行き詰まり、たちまちメルヴェール国への輸出も輸入も出来なくなってしまうわ」
現状トワイライトからメルヴェールへの行きの便は、すべてカーネリンの領地を通らなければならない。
しかもメルヴェール王国は現在物資不足で、他国からの輸入に頼っている部分もあるし、トワイライト側にしてみてもこの期を逃さず、多くの馬車がカーネリンの新街道を行き交っているとも聞いている。
もしカーネリンの街道全てに通行税を掛けられてしまえば、トライライト及びメルヴェール王国の輸送は大きな打撃を受けるだろう。
「わかりました。顔見知りの者があの街におりますので、少し調べてまいります」
「悪いわね、スパイみたいな真似をさせちゃって」
「いえ、調べるといっても話を聞いてくるだけですし、事はこの商会だけの問題でもありませんので」
「そう言ってもらえると助かるわ」
旅商人として各地回っていたアレクなら、カーネリンの街にも知り合いはいるだろう。
少々裏の仕事のようなお願いをして気が引けるが、何も疚しい事をするわけでもないし、危険な場所に行くわけでもない。
本人も知り合いに話を聞くだけと言っているのだからここはお願いし、私は私で今出来る対策方法を検討する。
カーネリンの街までなら馬でそう時間もかからないので、明日には何らかの情報を持ち帰ってくれる事だろう。
こうして旅立つアレクを見送り、私は対策を打つべく緊急の会議を開くのだたが……。
「なんですって! 街道の通行税を掛けるのはカーネリンとアクアを繋ぐ街道だけですって!?」
昨日に引き続きまった同じ反応から始まったわけだが、アレクが持ち帰った情報は私を怒らせるには十分な内容だった。
「本当なの? その話は」
「えぇ、何人か顔見知り合いの商会に確認しましたので間違いないはずです」
アレクの話を信用しないわけではないが、あまりにもひどい話なので再度同じ問いかけをしてしまう。
これがカーネリンの主要道路に当てはまるなら、百歩譲って納得もできる。街道とひとえに言っても自然災害で塞がれたり、橋が壊れれば修復もしなければならないので、収益の少ない地方ならば仕方がないのかもしれない。
だけどカーネリンのように大勢の馬車が行き来し、領地収入も多く見込める地域ならば、街道整備に当てる予算も当然計算されているはずだ。
実際このアクアの村でさえ、その辺りの予算は十分に計算されていると聞いているし、緊急時の蓄えも残しているとも聞いている。
しかも10年ほど前に出来た新しい街道ではなく、敢えてアクアの村とカーネリンの街とを繋げる旧街道のみを対象とされれば、これはもうアクア商会に対しての嫌がらせレベルとしか言わざるを得ないだろう。
「リネアちゃん、これってもしかして……」
「たぶん畜産物の取引を断った腹いせでしょうね」
実は商会を立ち上げた際、カーネリンの街と畜産物の取引で酷く揉めた事があったのだ。
もともとアクア産の生産物すべて関税を掛けられていたのだが、畜産物のみその対象ではなかった。
理由は恐らくカーネリンの食料生産量が極端に少ないから。
これは最近わかった事だが、カーネリンの街自体で食料の生産がほとんどされておらず、ほぼ全てと言って良いほど近隣の村や街からの輸入に頼っている。
なぜこの様な事態になっているのかは知らないが、輸入に頼らなければならない以上、市場に出るときは当然それなりのお値段で店頭に並ぶはずだが、不思議な事に地元のお手軽価格並みの料金で売られてしまっている。
例えばこのアクアの村で売られている野菜や魚は地元ならでは安さがある。そこに輸出先でもあるアプリコット領と比較すると、やはり輸送という手間や人件費がプラスされ、アクアの村で売られている価格より若干高い値段がつくのは当然の流れだろう。
これはアプリコット領で売られているのが本来の適正価格であって、アクアの村で売られている価格はあくまでも地元ならではの価格なので、この世界では別段珍しいものではないものだ。
それなのにカーネリンの街ではアクアの村で売られているような、地元ならではな価格で店頭に並んでいる。
もしそんな噂が広まればカーネリンの街は非常に住みやすい街として、多くの人たちが移住を希望するのではないだろうか。
「昔はカーネリンの街でも農業や畜産は盛んだったんですが、例の新しい街道を通す際に街へと変わってしまって……」
説明してくれるアレクの顔が、なんとも言いにくそうに歪んでしまう。
急激な街化は同時に人の人生を狂わせる。純粋に街化の波に乗れればいいが、知識や家庭の事情で取り残されてしまった人には決して優しくはない。
街が発展すれば土地の値が上がる。土地の値が上がれば税金が上がる。そして人とお金が集まれば悪事を企む者も多く呼び寄せ、恐喝まがいの地上げや高金利の金貸し、挙げ句の果てには人身売買すれすれの商売さえ生まれてしまっている。
その結果カーネリンの街では貧富の差が広がり、一歩裏道に入ると女性遊びができる遊郭が多く立ち並んでいるという話だ。
私もいまアクア村のリゾート化計画を進めているが、カーネリンの街の様にならないよう、注意しなければいけないだろう。
「つまりあの街は田畑を潰して街をつくったから、極端に食料生産量が少ないわけね」
「そういう事です」
急激な街化で人が集まったとなれば、当時の食料事情は相当苦労した事だろう。
物価が高くなれば人は集まらないわけだし、安く仕入れなければ安く売れない。おまけに一度田畑を潰した事で生産者さんたちは別の仕事についているわけだし、あらたに開墾するにも人員の確保するのが難しい状態とくれば、あとは近隣の村々から買い集めなければならない。
アクアの村は農産物こそアプリコット領と契約しているが、他の貧しい村々はそういうわけにもいかないだろうし、安く買いあされれたとしてもそれにすがるしか方法がない。
アクアの村だって取引先がない畜産物は、カーネリンの街との売買にすがるしかなかったのだ。
もしかしてアクアの農産物に関税を掛け、一切の取引をしてこなかったのは、農産物の売買には足元が見れないと踏んで避けてきたのではないだろうか?
「それにしても不思議だよね、カーネリンの街って街道が出来る前は田畑が広がる村だったんだよね? それなのに街道を作る費用ってどこから持ってきたの?」
ヴィスタの言う通り、街道が出来る10年前はカーネリンの街……いや、当時の村は、ただメルヴェール王国へとつながる街道の通過点でしかなかった。
アクアの村とカーネリンの街との距離はそれほど離れてはいない。
昔はメルヴェール王国との玄関口だったアクアは多くの人が立ち寄っていたが、逆を返せば近くの村であるカーネリンには立ち寄る人は少なかったのだ。
「それは街の人からお金をかき集めたんじゃ? 街道が出来れば豊かになれるとか言って」
「それはないわね。当時のカーネリンがどれほどの規模だったかは知らないけれど、村中のお金をかき集めたとしても足りないわ。そもそも村を街に発展させたとしても、全員が裕福になれる保証なんてどこにもないのよ?」
「それじゃどうやって資金を集めるのさ、自分たちの力だけで街道なんて通せないだろ?」
ヴィルの言う通り自分たちの力だけで街道を通すなどまず不可能に近い。これがヘリオドールのような大きな都市ならいざ知らず、アクアの村や当時のカーネリンの村だけでは到底不可能な事業であろう。
その地で暮らす人たちにも生活はある。その全てを街道整備にそそげるわけもなく、そそげたとしても当然そこにはお給料というものが発生する。
つまりは『お金がない』イコール、『村人達だけで街道を作る』は繋がらないのだ。
「カーネリンの街って、これといった特産物はなかったわよね?」
「そのはずだけど?」
「売る物がないのに田畑を潰して街をつくるか……」
「どうしたのリネアちゃん? 難しそうな顔をしちゃって」
「いやね、なぜ田畑を潰して街をつくったのかなぁって思っちゃって。だって良く考えてもみてよ、カーネリンの食料事情を支える田畑を潰すより、新たに開墾したほうがいいじゃない。別に開墾する土地がないわけじゃないんだから、1から街をつくるならその方がよくない?」
私もいまアクアの村のリゾート計画を進めているが、田畑を潰そうとか一度たりとも考えたことがない。
それはまぁ、農業もアクアを支える立派な産業になっているわけなのだが……。
「そんなの簡単だろ? 何もないところに街を作ろうとすれば、伐採やら運搬やらで時間と費用がかかるけど、今ある田畑を潰せば土地をならすだけですむじゃない。しかも街道とセットなら簡単に人も集められるじゃないか」
「確かにヴィルの言うとおりね」
街道の側に街ができれば利便性で簡単に人が集まる。
しかもメルヴェール王国との玄関口にしようと考えていたのならば、トワイライト内陸部に本部を置く商会なら、カーネリンの街に出張店を構えようと動いても不思議ではない。
……ん? まてよ。
私の中で何かが引っかかった。
「もしかして例の街道の費用って、田畑を潰した土地を切り売りしたんじゃないの? 例えば一旦領主様が買い上げたうえ、街道が出来た後に余った土地を高値で売りつけた。そうすれば街道の費用も確保できるんじゃない?」
「「「あっ」」」
実際それだけですべてが補えるとは正直思えないが、街が出来れば人が集まり、人が集まればお金も集まる。
そうすれば領地に入るお金も当然ふえるだろう。
現にもともとアクアにあった店舗やら人やらは、新しく街道が出来たという事でカーネリンの街へと移っていったと聞いている。
おそらく当時のアクア村の状況をある程度見越しての、街道計画ではなかったのだろうか?
「はぁ……、カーネリンの街がどうやって発展したかなんて今は考えても仕方がないわね」
とにかく今私たちが考えなければいけないことは、どうやって通行税を回避するか。
たかが通行税と思うかもしれないが、ようやく軌道に乗りかけた状態で取引先に値上げ宣言をするわけにもいかず、現状ではアクア商会が100%負担するしか方法がない。
しかもうちの商品が売れれば売れるほど輸送の便は増えていくわけなので、当然通行税を支払う回数が増えていくという仕組みだ。
せめて荷馬車1台に対してならなんとかなるが、引いている馬の数によって徴収料がかわるとか、完全にこちらの事情を把握しての対策であろう。
「とりあえず輸出に関しては現状のルートのままでいくしかないわね。帰りの便はカーネリンの街から一旦メルヴェール王国にはいって、アプリコット領から再び戻って来るって感じでどうかしら?」
「そうですね。今の商会事情を考えればそれしかないでしょう」
ヘリオドールとの街道が繋がれば一気に解消出来る問題ではあるが、それにはまだまだ時間がかかる。
かといってこのまま素直に払い続けていくのは予算的に厳しいし、言われるがままというのも気分的に納得がいかない。
「とにかく一度カーネリンの領主に話し合いに行ってくるわ。それまでなんとか我慢しましょ」
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※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
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MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!
笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。
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