アクアリネアへようこそ

みるくてぃー

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終章 未来への道筋

第83話 ミルフィオーレ王国の誕生

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「久しぶりリネアちゃん」
「ヴィスタも元気そうで良かったわ」
 生誕祭当日、この日のために用意したドレスに身を包み、参列のためにお城へとやってきたのだが、そこで出会ったのは私の数少ない友人であるヴィスタ。
 本来ならここに双子の弟であるヴィルもいる筈なのだが、残念なことに次期当主であるヴィルは現在伯爵様と一緒に挨拶回りをしているのだという。

「1年ぶりだね」
「もうそんなになるのね」
 二人がアクアに来ていたのはあくまで避難のためだったので、平和に戻った今では国に戻り、嘗ての生活を取り戻している。
「リネアちゃんの話は色々聞いているよ、あれから大変だったんでしょ?」
 ヴィスタのお父様であるアプリコット伯爵様には、常に私の現状の報告をしていたので、当たり障りのない範囲で話を聞いているのだろう。
 ヴィスタとヴィルには商会を手伝ってもらっていた経緯があるので、今がどんな状況なのかがやはり気になっていたのだとか。
 昨年はシトロンの件だとかアージェント領からの難民だとか、非常に濃い一年だったので、心配させてしまったと思えば少し申し訳のない気持ちになってしまう。

「それでリアちゃんやフィオちゃん達はどうしてるの?」
「リアとフィオは王都の街を見せてあげようと思って連れて来てるの。今頃はノヴィアが街を案内してるんじゃないかしら? アクアや他の精霊達はお留守番ね。連れて来ても良かったのだけれど、王都じゃ自由にさせてあげられないし、それなら何か美味しいお菓子でもおみや逃げって話になって、商会のお手伝いをしてもらっているわ」
 近年国民感情が不安定だったこの国では、精霊の姿は何十年も見られていないと言われているので、もし何かあればと思い今回は断念させていただいた。
 本人達も人が暮らす街なんて興味がないようだったし、自然が少なく人が多いところは息苦しとの事で、お土産のお菓子で手を打つくことでに落ち着いた。

「そういえばリーゼ様にはもう会った?」
「リーゼ様? まだだけど、今はお忙しいでしょ?」
「そうなんだけど、何か話したい事があるんだってお姉様が」
「シンシア様が?」
 何だろ?
 ヴィスタのお姉様であるシンシア様はリーゼ様と大の仲良し。今やリーゼ様は雲の上の存在となってしまったが、ご親友のシンシア様には何かと相談を持ちかけおられるのだとか。
 そんな他愛もない話をしていると、噂のシンシア様が私たちのところへやってこられた。

「ご無沙汰しておりますシンシア様」
「お久しぶり、リネアの活躍はお父様達から聞いているわ。随分いろんな事をやってるみたいね」
「恐れ入ります」
 今やアクア商会の取引はミルフィオーレ王国にまで広まっているので、その辺りの事をおっしゃっているのだろう。
 場所によっては食の革命だなんて騒がれているところもあると聞くので、王都の食事情に変化があったとしても不思議ではない。

「それで突然で悪いのだけれど、すこし時間を貰ってもいいかし?」
「別に構いませんが、もしかしてリーゼ様ですか?」
「えぇ、ヴィスタから聞いてくれていたのね。実は貴女の実家の件なのよ」
 実家というとやはり叔父がらみのことなのだろう。
 私の方にも色々話は入って来ているが、随分と周りから叩かれているらしく、中には当主のすげ替えやお家の取り壊し、酷いものでは国外追放なんてものまで含まれていた。
 さすがに国外追放までは無いとは思うが、領地復興のために国から出された支援金を、自身の借金に当てたともハーベストから聞いてるので、これがもし何処かにもれていたら当主のすげ替えぐらいは避けられないのではないだろうか。

「わかりました。でも大丈夫なのですか? 今日はリーゼ様にとっても大切な日ですので、お話ししている時間の方が」
「大丈夫よ。準備はもう終わっているし、むしろ部屋から出られなくて暇だって嘆いているわ。ふふふ」
 なんとも私の知るリーゼ様とは懸け離れたイメージだが、シンシア様にとってはそれが普通なのだという。
 周りから聞こえる美談ですっかりリーゼ様を美化しちゃってたけど、案外私たちと同じような普通の方なのかもしれないわね。
 私は一旦ヴィスタと別れ、シンシア様の案内でお城の中にある一つの部屋へと案内される。

「ご無沙汰しておりますリーゼ様」
 本日何度目かのご無沙汰挨拶。
 案内された部屋には一人のメイドさんにお世話をされているリーゼ様の姿。以前お会いした時もそうだったが、これぞご令嬢という出で立ちと、そこにおられるだけで溢れ出る気品、それがこの日の為に用意された純白のウェディングドレスに身を包み、なんとも優雅な姿を見せてくださる。

「わざわざ足を運ばせてしまってごめんなさいね」
「いえ、私の方こそ実家の事でご迷惑をおかけしているようで」
「いいのよ、エレオノーラとウィリアムの事は私の責任でもあるのだし」
 リーゼ様はこうおっしゃっているが、元をたどればリーゼ様の婚約者であるウィリアム王子を奪ったのが義理姉エレオノーラ。リーゼ様はその後二人に散々振り回されたのだから、謝るべきはこちらの方だろう。

「それでお話しというのは?」
「単刀直入に言うけれど、アージェント家は非常に危うい状態に追い込まれているわ。このままじゃお家取り壊しは免れないでしょうね」
 リーゼ様のお話しでは、やはり国から出された支援金の流れが漏れてしまったのだという。
 元々先のウィリアム王子とエレオノーラとの一件で、良く思っていなかった貴族達は大勢いたと聞いている。そんな中で一向に復興が進まないアージェン領、王都にあるお屋敷は使用人こそ減れどその姿は以前のまま。領主である叔父は現地で指揮を取る為に領地に戻っていたというが、国全体で自粛ムードが広がる中で、エレオノーラと叔母は茶会や乱費に明け暮れる始末。
 挙げ句の果てが最近雇い入れたメイドの一人に、お給料の未払いを商業ギルドに申告されてしまい、アージェント家は一体何をやっているのだと結構な騒ぎになったのだという。

 結果国の調査が入った時には伯爵家の資産は底をついており、国から支援したお金の姿は見当たらず、領地から強制帰還させられた叔父は、現在騎士団による取り調べが行われているとの事だった。

「そんな状態になっていたんですね、そこまで悪いとは思ってもいませんでした」
「それはそうでしょ、事が発覚したのは数日前ですもの」
 もしかしてハーベストとマリアンヌがギリギリでしのいでいたと考えれば、ある程度辻褄が合ってくる。二人なら自分たちの給料を削ってでもメイド達の支払いを怠らないだろうし、屋敷に不利益になるような事は事前に把握して止めている筈。それが解雇された事により抑制する者がいなくなり、ついには今のような状態になったのではないだろうか。

「こんな時に悪いのだけれど、すこし覚悟をしておいた方がいいと思って。リネアにとってもアージェント家は実家になるのだしね」
「そうですね。王都のお屋敷にはあまりいい思い出はありませんが、私にとっては両親との思い出は詰まった大切な家ですので。教えて頂いてありがとうございます」
 今後叔父達がどうなろうとも私には関係ないが、実家が無くなってしまうというのは何処となく寂しいという気持ちも確かにある。
 それにしても叔父との再会を覚悟してきたというのに、どうやら今回の生誕祭には主席出来ないというのだから拍子抜けだ。

「そういえば最近王都にもお魚を使った料理が流行っていてね。あれってリネアのお陰おかげなんでしょ?」
「あ、たぶんそうです。鮮魚を大陸の内部に届ける事が出来るのはアクア商会だけですから」
 聞けば最近貴族を中心にお魚を使った料理が流行っているのだという。
「お魚を使った料理なんてホント久々だったから美味しくてね、ムニエルやポワレもいいのだけれど、一度お醤油を掛けただけの焼き魚が食べたいわ」
「あ、わかります! やっぱり醤油を掛けた焼き魚がいいですよね!」
「リネアもわかる!? そうなのよ。でも醤油って言っても誰も知らなくて」
 あー、醤油ってこの世界じゃないのよね。
「じゃ今度お醤油を送りましょうか? まだ数は少ないんですけれど、商会に試作で作ったものがありますので」
「ホント! ぜひお願いするわ」
「それじゃアクアに戻ったら手配しておきますね」
 おなじ魚料理好きとしてはやっぱり美味しさを共有したいもの。アクアに戻ったら早速手配しなくちゃね。

「ねぇ、リーゼちゃん、さっきから何の話をしているの? そもそも醤油ってなに?」
「「えっ?」」
 し、しまった! お醤油の話なんてこの世界じゃ通じないんだった!
 ………………あれ?

 コンコン
「リーゼ様、そろそろご準備を」
「お、おほほほほ、それじゃ行ってくるわ。リネアまた後でね」
「あ、はい」
 なぜか慌てたように出て行かれるリーゼ様。
 なんでリーゼ様が醤油の事を知っているの? やっぱりリーゼ様って……?

 その後国の誕生を祝う催しと、大勢の人々に祝福されたリーゼ様とクロード様の結婚式が行われる。
 この日ばかりは辛い日々を忘れ、国民達は新しい国と王の誕生を祝いあった。
 後に産業国家と呼ばれるようになる、ミルフィオーレ王国の誕生であった。
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