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しおりを挟む翌朝、朝食後にニコルソンが言った。
「ナディア、男爵夫妻に挨拶は済ませた。だから、なるべく早く帰ろう。」
「帰るってどこに?」
「どこにって王都に。」
「王都にって何のために?」
「何のためにって王都で暮らすために。」
「王都で暮らすって言っても男爵家のタウンハウスなんかないわよ?」
「……ない?!」
「ええ。だから私は学園の寮に入っていたんだから。」
貴族が王都で暮らすなんて、当たり前じゃないのよ。
「じゃあ買えばいい。」
「王都で何をするために家を買うの?」
「何って……社交だ!」
「必要ないわ。それはうちの仕事じゃないの。縁戚の伯爵家がすることだから。それに、不必要な家を買うくらいなら領地のために使いたいわ。」
ニコルソンは呆然としている。
「昨日言ったでしょう?これからここで暮らすって。」
「ぼ、僕には無理だ。王宮に戻るよ。ナディアが時々、王都に来てくれ。」
何を言ってるんだか。
「ニコルソンはもう王族じゃないわ。王宮には戻れない。それに、馬車もないのにどうやって戻るつもり?」
「馬車がないって、ここまで乗ってきただろう?」
「あの馬車はもう発ったわ。ここまでの馬車と御者、護衛は王妃様のご厚意よ。うちのじゃないわ。」
どうして気づかなかったの?
あなたと初夜を過ごした私が翌朝旅立つための手配できたわけがないでしょう?
「母上の……呼び戻せないのか?」
「私たちを送り届けて任務完了したのに、戻ってくるわけがないわ。」
昨日の今日で帰りたいと言い出すとは思わなかった。せめて数日後ならともかく。
「ニコルソン、あなたはこの男爵家の跡継ぎである私の夫になったの。そもそも私との結婚を望んだのはあなたなのよ?初夜も済んでいるわ。それなのに責任も果たさずに逃げるようなこと言わないで!」
「ご、ごめん。……僕はここで何をしたらいいんだ?」
そう言えばこの人、シャーロット様に執務をやらせていたようなことを王妃様が言っていたわね。
何ができるのかしら。何をさせようかしら。……何かさせて大丈夫なのかしら。
「まず、私と一緒に領地を見て回らない?」
「そ、そうだな。先ぶれを出してもてなしてもらおう。」
「…………そんなことしないわ。」
王族の訪問と一緒にしないで!
ひょっとして、先々でお茶やお菓子が出てくるとでも思っているの?
見回るだけよ?
はぁ、先が思いやられるわ。
周りが先回りして動いてくれるのが当たり前だと思っているのよね。
アレコレ不満を言うニコルソンに不満を言う領民が出てくることは間違いないわ。
王族のときとは違う。
それを理解した言動になってくれるまで、ニコルソンを一人にはできないとナディアは思った。
お父様がこっそり教えてくれた。
護衛の人が、王妃様から預かったという金を渡してくれたという。
一応、持参金ということらしいが、ニコルソンに使う必要はないらしく、言わば迷惑料といったところ。
万が一、ニコルソンが逃げ出したとしても返還の必要はないとのこと。
これは強引な結婚をさせた慰謝料ということらしい。
何が起こるかわからないため、有難く隠しておくことにしたとお父様が言った。
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