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しおりを挟むナディアとニコルソンが男爵領に来てふた月経った頃だった。
ようやく、日々の暮らしにニコルソンが文句を言わなくなってきて、少しずつここでの日常に慣れてきたのだとナディアはホッとしていた。
そんなある日、ナディアはニコルソンと別行動をとることになった。
体調の変化を感じ、もしかしたら?と思って医者に診てもらうことにした。
ニコルソンは買い物をしたいと言っていたので、初めて一人で街に向かったのだ。
ナディアは医者から妊娠を告げられ、喜んだ。
早く、ニコルソンにも伝えたい。
そう思っていたのに、ニコルソンは夕方になっても帰って来なかった。
日が暮れた頃、街の宿で働いているという者が手紙を持ってきた。
ニコルソンからだった。
ー * ー * ー * ー * ー * ー
ナディア、すまない。
君のことは愛しているが、やはり僕に相応しいのはここじゃない。
煌びやかなものに囲まれてこそ、僕は僕でいられる。
今日、たまたま会った女性が声をかけてきたんだ。
『一緒に美味しいワインを飲まない?』と。
彼女の装い、所作は貴族のものだったため、誘いを受けた。
美味しいワイン、豪華な食事、この男爵領の街でも味わうことができるのだと知り、王子の僕の扱いが男爵家でどんなに軽いものであったかを知った。
そして彼女と関係を持ち、尽くされる悦びを知り、愛を交わす本当の幸せを知った。
だから気づいた。
ナディア、君は僕を愛してくれてはいなかったのだ、と。
彼女は海の向こうにある国の貴族らしい。
僕を連れて帰りたい、贅沢をさせてあげると言ってくれて、僕も一緒に行きたいと思った。
だから、僕はもう君の元には帰らない。この国にも二度と戻らないだろう。
離婚の手続きは母に伝えればどうにかなるだろう。
君も愛する人を見つけて幸せになってくれ。
ニコルソン
ー * ー * ー * ー * ー * ー
「はぁ?浮気して、その相手について行ったってこと?」
海の向こうにある国って……一妻多夫じゃなかった?
何十年か前に流行った病に効く薬が男性の生殖能力に影響を及ぼすものだったとか。
しかも、子供が生まれても5対1の割合で男が多くなり、一妻多夫にならざるを得なかった。
今は他国の男を受け入れて、国の人口を増やそうとしていると聞いた気が……
ニコルソンは一応王族だったから、子種が狙われた?
……ううん。王位継承権もないのだから、意味ないわ。
つまり、顔の良さで選ばれただけ。
しかも、簡単に誘いに乗るような男なのだから、連れて帰りやすいと思われたのね。
誘拐と思われないように、これは自分の意思なのだと手紙まで書かせて。
馬鹿ねぇ。
ニコルソンみたいに顔だけよくてヒョロヒョロした男なんて、その女性を妊娠させる以外用なしなのに。
その後は、女性の他の夫の欲望を受け入れる側になるでしょうね。
それでも贅沢に暮らせるのであれば、ニコルソンは満足かもしれないわね。
尽くされたいみたいだし。
ナディアはお腹に手を当てた。
「この子がいれば、いいわ。ニコルソンがいない方が日々、平穏だし。」
学園の卒業パーティーの日から、ナディアはニコルソンに囚われていた気がした。
結婚したのだから、夫になったのだから、ニコルソンを愛さなければならない。
そう思うことで、幸せになれるのではないか、と。
ニコルソンを可愛いと思うこともあった。
でも、失望・落胆が積み重なると、元々好みのタイプではないので邪魔だと思うこともあった。
「私、自由になれたのね。」
ナディアは重しを下ろしたかのように心が軽くなるのを感じた。
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