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しおりを挟む仕事から帰ってきたマックスが微妙な顔をしていることにシャーロットは気づいた。
「マックス、顔が変だわ。何か隠していない?」
「……隠しているわけじゃなくて、話そうかどうしようか悩んでいただけだ。」
「だったら話してちょうだい?」
そこまで言ってしまったら、聞きたくなるでしょう?
「ニコルソンのことだが、離婚したらしい。」
「離婚?結婚してまだ、三か月にもならないわよね?」
シャーロットとマックス夫婦、ニコルソンとナディア夫婦は結婚した日が同じだから。
「あの男爵領って、海に接している領地の隣なんだ。一日もあれば海につく。」
「海。いつか見てみたいわ。」
「ああ。そのうち行こう。それでな、海の向こうにある国のこと、知っているか?」
海の向こう。
あまり近隣国との付き合いをしない国だったけれど、人口減少に伴い近頃は他国の者も受け入れる一妻多夫の国と聞いている。
「まさか……」
「ああ。その国の女性に誘われて、ニコルソンは海を渡ったらしい。」
「ナディアさんを愛していたんじゃなかったの?」
「その愛も、豪華な暮らしには負けたようだ。」
王族から男爵家の婿だものね。
それでも困らない暮らしだったはずなのに。
男性も男性の性的対象であるあの国に美形のニコルソンが行けば、戻りたくてももう戻ってこれないでしょうね。
「愛か贅沢か。どちらかを選べと言われたら人によるものね。ナディアさん、大丈夫かしら。」
「妊娠していたらしい。」
「まあっ!なんてこと。」
「それがな、ニコルソンの手紙を持って離婚手続きに来たカスピス男爵は嬉しそうだったらしい。」
「邪魔なニコルソンはいなくなって、孫を残してくれたから?」
「だろうな。ニコルソンの後の婿なんてなかなか決まらないだろうが、子供がいたら再婚に焦る必要もないしな。平穏な暮らしが戻ってきたと思っているだろう。」
いくら婿でも、元王族なのだからさぞかし気を遣っていたに違いない。
貴族社会でも長続きはしないだろうと思われていた夫婦だし、自分の意思で出て行ったのだから、男爵家に非はないし。
それでも、カスピス男爵家の婿になりたいと手を挙げる男性はなかなか見つからないでしょう。
だってナディアさんは、王太子だったニコルソンを誑し込んだと思われているから。
事実ではなくとも、ニコルソンが彼女に夢中だったことは事実だし、シャーロットから奪ったと思っている貴族も多くいる。
「父親がいなくても子は育つけれど、幸せになってほしいわね。」
祖父母と母親が大切に育ててくれば、生まれてくる子は自分が不幸だとは思わないだろう。
シャーロットは父親がいても放置されて育ったために、いないようなものだった。
自分のような子が生まれるのは悲しい。
シャーロットは自分のお腹に手を当てた。
「この子には望まれて生まれたのだと伝えてあげたい。」
シャーロット自身もきっとそうだったはずなのに。
出産は、時には母親の命を落とすことに繋がる。
生まれてきた子が悪いわけではない。
母になろうとしているシャーロットはそう思うことができた。
自分の出産時に何が起ころうと、生まれた子を愛してあげてほしい。
マックスに、そう願った。
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