誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる

しゃーりん

文字の大きさ
10 / 47

10.

しおりを挟む
 
 
お腹が大きくなり、いつ産まれてもおかしくなかった。

もうすぐこの子と離れ離れになる。

シーラに気づかれないように、ベッドに入ってからは毎晩のように泣いていた。
お腹の子供に、ひどい母親でごめんねと言いながら。
すると、いつも動いてくれて返事を返してくれているように思えた。
いつの間にか涙は止まり、お腹の子供が蹴ったところを撫でて微笑んでいる。
その繰り返しだった。


それが終わる日、つまり陣痛がきた。


どれくらいの時間、苦しんでいたのかはわからない。
産まれる直前、シーラに目隠しをされた。
わかっていたけれど、悲しかった。

やがて、元気な泣き声が聞こえた後、連れ出されたのか声は聞こえなくなった。
涙が止まらなかった。

本当に、一目見ることも叶わず、性別さえ知らされなかった。

後処置を終え、シーラ以外がいなくなった後に着替えを終えるとシーラはカイ様を呼んだ。


「カイ様、ジュリ様をソファに運んでください。ベッドを整えますので。」

「わかりました。」


呆然としたままの私を、カイ様がソファに連れて行った。


「お疲れ様でした。大きな泣き声でした。きっと元気に育ってくれます。」

「……そうよね。きっと、きっと幸せになれるわ。」


そう言ってまた泣いてしまった私を、カイ様は抱きしめてくれた。

きっと、泣いたまま意識を失ったのか、疲れて眠ってしまったのか、目が覚めたらベッドの上だった。



いなくなったお腹を無意識に触ってしまう。
また泣きそうになったけれど、いつまでもクヨクヨしていてはいけない。 

契約は終了した。

私はここから出て行かなければならないのだから。




私が起きているのを確認したシーラは着替えと朝食を準備してくれた。


「ねぇ、シーラ。私ってこのまま出て行っていいのかしら。
 それともセバスさんと契約終了の手続きか何かがあるのかしら。」


最初に契約書の破棄の確認がどうとか言ってたけど。


「セバスさんは来られるとは思いますが、ジュリ様はしばらくはまだここにいてもらいますよ。
 産後の女性の体は疎かにできません。
 次に妊娠できなくなる恐れもあるのですから。」

「……もう子供を産むことなんてないわ。あとどのくらいいればいいのかしら。」

「医師の許可が出てからになります。それに……母乳も搾る必要がありますから。」 


母乳は赤ちゃんに与えなければ、出なくなっていくらしい。
貴族には乳母がいて、母親が母乳を与えることは少ない。
私の場合、いつか出なくなるまで定期的に搾ることになる。


「そうね。そんな状態で家には帰れないのだったわ。」


母乳を搾っているところを見られれば、出産後だとバレてしまう。
口外禁止なのに、何をして借金返済をしたかが丸わかりになる。

そう言えば、実家まで馬車を乗り継いで帰るにもお金がかかると思ってここにいる間に刺繍した物は売っても構わないのだろうか。刺繍糸も布も私のお金で買った物ではない。
聞くのを忘れていた。


「もちろん、ジュリ様がお持ちください。
 よろしければ、私の方の伝手でお売りしましょうか?」

「お願いします。少しでも手元にお金があればマシな宿に泊まりながら帰れますので。」


実家の馬車を呼べないのだから、乗合馬車で着いた街の宿も女一人が安心して泊まれる宿を選ばなければならない。
天候によっては延泊も考えられることから、心許ないお金で出発したくなかった。

  




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥
恋愛
 ジュリエル=ディラウは、生まれながらに婚約者が決まっていた。  ハーベスト=ドルチャと正式に結婚する前に、一度彼の実家で同居をすることも決まっている。  同居生活が始まり、最初は順調かとジュリエルは思っていたが、ハーベストの義理の妹、シャロン=ドルチャは病弱だった。  ドルチャ家の人間はシャロンのことを溺愛しているため、折角のデートも病気を理由に断られてしまう。それが例え僅かな微熱でもだ。  あることがキッカケでシャロンの病気は実は仮病だとわかり、ジュリエルは真実を訴えようとする。  だが、シャロンを溺愛しているドルチャ家の人間は聞く耳持たず、更にジュリエルを苦しめるようになってしまった。  ハーベストは、ジュリエルが意図的に苦しめられていることを知らなかった。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

【完結】聖女は国を救わないと決めていた~「みんなで一緒に死にましょうよ!」と厄災の日、聖女は言った

ノエル
恋愛
「来たりくる厄災から、王国を救う娘が生まれる。娘の左手甲には星印が刻まれている」 ――女神の神託により、王国は「星印の聖女」を待ち望んでいた。 完璧な星印を持つ子爵令嬢アニエスと、不完全な星印しか持たない公爵令嬢レティーナ。 人々はこぞってアニエスを“救いの聖女”と讃え、レティーナを虐げた。 だが、本当に王国を救うのは、誰なのか。 そして、誰にも愛されずに生きてきたレティーナの心を誰が救うのか。

処理中です...