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11.
しおりを挟む感覚的にはひと月ほどが過ぎた時、医師によって旅に出てもよい許可が下りた。
実家に戻る準備を始め、翌日に出て行くと決まるとセバスさんがやってきた。
「契約が終了致しましたので、かの契約書は全てこのように処分致しました。
こちらは慰労金です。
領地まで体を休めながらゆっくりと、乗合馬車も宿も良いものをご利用ください。」
あの時の契約書は確かに破かれているのを確認した。
セバスさんは、私の記録を全てなかったことにしたいのだとわかった。
本当は貸切馬車に頼みたいところだが、御者ひとりと令嬢ひとりの旅は連れ去られては困るから、と言われてしまった。
お金は十分過ぎるほど入っており受け取るには多過ぎると思ったけれど、セバスさんやシーラの、私を心配する目を見て有難く受け取らせてもらった。
カイ様は明日はお休みだということで、今日のうちにクッキーを焼いて感謝の気持ちとお別れを告げた。
翌日、出発時刻になるとセバスさんが再びやってきた。
「申し訳ございませんが、来られた時同様に目隠しをして出ていただきます。」
最後まで変わらずの徹底ぶりだった。
目隠しをされて、手を引かれて馬車に乗った。
行き同様、馬車の中にはセバスさんとシーラが一緒だった。
適当に話をしていると、やがて馬車の外の喧噪が聞こえてきた。街中のようだった。
すると、目隠しを外されて到着したのは王都外に出る乗合馬車の乗り場だった。
「セバスさん、いろいろとありがとうございました。
シーラ、いろいろ助けてくれてありがとう。お母様を思い出してた。
一緒に過ごせてとても楽しかったわ。」
「お元気で。」
「お気をつけて。」
2人に別れを告げて馬車を降りた。
馬車はすぐに走り出した。
たとえ、いつか偶然にも顔を見合わすことがあったとしても、初対面を装うことになる。
少し寂しく感じるけれど、それは私のためでもある。
誰にも口外できない方法で借金を返済したのだから。
各方面に向かう馬車は定期的に出発している。
例えば、朝早くの馬車では2つ離れた町まで行けるけど、昼の馬車では1つ離れた町までとか。
今からだと昼の馬車に乗って1つ隣の町で1泊するのが安全。
乗り場を探していると、小声で後ろから話しかけられた。
「ジュリ様。」
驚いて振り返ると、そこにはカイ様がいた。
「カイ様?驚きました。お出かけですか?」
「まぁ、そうかな。もう仕事は終わったから普通に話してもいいかな?」
「ええ。」
昨日までのカイ様と違い、今日のカイ様は休暇なので身軽な格好をしていた。
言葉遣いと共に印象が変わって、知らない人みたいだと思った。
「昼の馬車だよな。どっち方面?」
思わず、自領に向かう方面を答えてしまった。
「一緒だから買ってくるよ。今日は一つ隣町で宿泊だよな?」
「はい。あの、自分で………」
「じゃあ、一緒に行こう。慣れてないだろう?」
確かに。ずっと家の馬車で移動していたから、よく知らない。
王都に屋敷がなくなってからは、領地に帰る時にお兄様が馬車をよこしてくれていたし。
宿泊も侍女が手続きしてくれていたから自信がないわ。
カイ様とどこまで一緒かはわからないけれど、少しずつ領地に近づきながら覚えないと。
そして、領地がどこかバレる前には別れなければならない。
私の身元を知られるわけにはいかないのだから。
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