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お腹が大きくなり、いつ産まれてもおかしくなかった。
もうすぐこの子と離れ離れになる。
シーラに気づかれないように、ベッドに入ってからは毎晩のように泣いていた。
お腹の子供に、ひどい母親でごめんねと言いながら。
すると、いつも動いてくれて返事を返してくれているように思えた。
いつの間にか涙は止まり、お腹の子供が蹴ったところを撫でて微笑んでいる。
その繰り返しだった。
それが終わる日、つまり陣痛がきた。
どれくらいの時間、苦しんでいたのかはわからない。
産まれる直前、シーラに目隠しをされた。
わかっていたけれど、悲しかった。
やがて、元気な泣き声が聞こえた後、連れ出されたのか声は聞こえなくなった。
涙が止まらなかった。
本当に、一目見ることも叶わず、性別さえ知らされなかった。
後処置を終え、シーラ以外がいなくなった後に着替えを終えるとシーラはカイ様を呼んだ。
「カイ様、ジュリ様をソファに運んでください。ベッドを整えますので。」
「わかりました。」
呆然としたままの私を、カイ様がソファに連れて行った。
「お疲れ様でした。大きな泣き声でした。きっと元気に育ってくれます。」
「……そうよね。きっと、きっと幸せになれるわ。」
そう言ってまた泣いてしまった私を、カイ様は抱きしめてくれた。
きっと、泣いたまま意識を失ったのか、疲れて眠ってしまったのか、目が覚めたらベッドの上だった。
いなくなったお腹を無意識に触ってしまう。
また泣きそうになったけれど、いつまでもクヨクヨしていてはいけない。
契約は終了した。
私はここから出て行かなければならないのだから。
私が起きているのを確認したシーラは着替えと朝食を準備してくれた。
「ねぇ、シーラ。私ってこのまま出て行っていいのかしら。
それともセバスさんと契約終了の手続きか何かがあるのかしら。」
最初に契約書の破棄の確認がどうとか言ってたけど。
「セバスさんは来られるとは思いますが、ジュリ様はしばらくはまだここにいてもらいますよ。
産後の女性の体は疎かにできません。
次に妊娠できなくなる恐れもあるのですから。」
「……もう子供を産むことなんてないわ。あとどのくらいいればいいのかしら。」
「医師の許可が出てからになります。それに……母乳も搾る必要がありますから。」
母乳は赤ちゃんに与えなければ、出なくなっていくらしい。
貴族には乳母がいて、母親が母乳を与えることは少ない。
私の場合、いつか出なくなるまで定期的に搾ることになる。
「そうね。そんな状態で家には帰れないのだったわ。」
母乳を搾っているところを見られれば、出産後だとバレてしまう。
口外禁止なのに、何をして借金返済をしたかが丸わかりになる。
そう言えば、実家まで馬車を乗り継いで帰るにもお金がかかると思ってここにいる間に刺繍した物は売っても構わないのだろうか。刺繍糸も布も私のお金で買った物ではない。
聞くのを忘れていた。
「もちろん、ジュリ様がお持ちください。
よろしければ、私の方の伝手でお売りしましょうか?」
「お願いします。少しでも手元にお金があればマシな宿に泊まりながら帰れますので。」
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天候によっては延泊も考えられることから、心許ないお金で出発したくなかった。
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