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しおりを挟むセレンティナの婚約者の屋敷、ボッティ公爵家に馬車が到着した。
扉が開き、手を差し伸べていたのは婚約者であるクローヴィス本人だった。
「ようこそ、セレンティナ。」
「……ありがとうございます、クローヴィス様。」
リリスティーナはクローヴィスの手を取った。
いつもと違ってセレンティナの手が震えていないせいだろうか。
クローヴィスの動揺が一瞬、手に伝わりそれを誤魔化すかのように軽く握られ、セレンティナを馬車から降ろした。
「今日も母が君に会えるのを楽しみに待っているよ。私との時間を残してくれるのかどうか。」
楽しみに待っていたのは母で、あなたではないのね?……なんて言えないけれど。
「でしたら、クローヴィス様もご一緒しませんか?」
そもそも、公爵夫人とは結婚式に関する話が主なので、クローヴィスが一緒でも問題ない。
しかし、クローヴィスが驚いているのはセレンティナが自主的に誘ったからだと思う。
「……一緒に?そうだな。そうしようかな。」
まるでセレンティナが何かを企んでいると疑うようにクローヴィスは誘いに乗った。
もちろん、何も企んではいない。
少しずつ、今までのセレンティナと違う印象を与えていくだけだ。
ボッティ公爵家もクローヴィスも、セレンティナと婚約解消する気はないのだから、結婚式が近づいてきてセレンティナが結婚を楽しみにしている様子を見せていけば安心するだろうし。
義母になる公爵夫人は明るい方で、セレンティナの母親よりもよほど親身な方だった。
だから釣られてセレンティナも明るい表情を公爵夫人にだけは見せていたのだろう。
そこが、婚約者であるクローヴィスの不満なところでもあるらしい。
いつもと違い、息子がセレンティナと一緒に来たことで少しでも一緒にいたいのだろうと勘違いをした公爵夫人はいつもよりも早く二人の時間をとらせようと気を利かせて部屋から出て行った。
「……結婚式の準備なんて、二人の衣装を決めるだけで十分だと思っていたが大変なのだな。」
「そうですね。お招きする参列者の方が遠方でしたら宿の手配も必要ですし、こうして準備をしながらボッティ家とどのような関わりのある方なのかということも学んでいますので。」
嫁いでから学べばいいというものではない。
結婚式当日にお祝いを述べられて相手が誰かわからないというのは失礼だし、次期公爵夫人として見定められる機会に失態は避けたい。
セレンティナの評価はクローヴィスの評価でもあり、ボッティ公爵家の未来にも繋がるのだ。
おそらくセレンティナは、そういう重圧にも耐えられなかった。
人と接したくないが、公爵家に嫁いではそういうわけにもいかない。
まともに受け答えもできない、出来損ないの嫁だと思われることがわかっていたから。
「君が結婚に向けて努力してくれているのだと知ることができて嬉しいよ。」
「卒業まで半年を切りましたし、卒業すれば結婚まではあっという間でしょう。いつまでもまだ時間はあると思っていられませんから。」
そういう理由でセレンティナが前向きになり始めたと思ってほしい。
「私との距離も縮めていいと解釈して構わないかな?」
クローヴィスとセレンティナは本当に最小限の触れ合いしかしてこなかった。
セレンティナは手が触れるだけで震えていたのだから。
「……ええ。ですが、慣れていませんのでお手柔らかに。」
セレンティナがそう言うと、クローヴィスはホッとした様子だった。
差し出された手にそっと手を重ねると、嬉しそうに微笑んでいた。
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