聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん

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リリスティーナがセレンティナとしてクローヴィスと仲を深めていく中、王宮では聖力を失い人が変わったかのようになったイボンヌへの対応に困惑していた。
 

「私は18歳なの。それなのにどうして35歳だって言うの?」
「アレクサンドル殿下の子を産める歳じゃないって失礼だわ!」
「初夜はいつ?」
「聖女に選ばれた私は尊ばれる存在じゃないの?」
「もう聖力がない?それがどうしたの?私は王子妃であることに変わりはないわ。」 


イボンヌがそんな発言を繰り返すので、聖女になった者は記憶を失うものなのかと聖堂に問い合わせたが、そんな例は過去に一度もないと返事があった。

確かにイボンヌが聖女として活動していたことは間違いない。 

今までの聖女と違うのは、彼女が最後の聖女だということだけだった。


「イボンヌ様、聖女であった時のことは何も覚えておられないのですか?」

「聖女だった時?あぁ、誰かが私の体を使っていた時のことね。でもあれはほんの少しの間だけよ?それなのに気がつけば17年も経っていただなんてそんな嘘、許せないわ!」


リリスティーナに眠らされていたイボンヌは、最初の頃の記憶しかなかった。
乗っ取られていた体が解放されてみれば、17年も過ぎていたことがどうしても受け入れられないのだ。 


「誰かが体を使っていた?」

「ええ、そうよ。何というか、こう乗っ取られていたって感じ?私じゃない人が話して動いて、私の魔力を聖力にして治癒していたわ。」
 

イボンヌの話を聞いていた者たちは、ハッとして驚いた。

聖女から次の聖女に聖力が渡される。

それは、本人同士しかしらないとされてきたが、その聖力の正体がわかりかけていた。

 
「イボンヌ様に代わってその誰かが聖女の仕事をされていたということですね?」

「そう。私は自分の体なのに動かせなかったわ。彼女とは心の中で会話はできたけど。」

「彼女?女性だったのですね?」

「ええ。聖堂の名前の人。聖女の正体が実体のない人だなんて思わなかったわ。」
 

聖堂の名前の人、とは『リリスティーナ』ということ。
 

そこからは、大急ぎで『リリスティーナ聖堂』が建てられた経緯を調べることになった。

そして見つけた、書物に書き足されていた事実。
名前のあった廃太子ウォルタスに関する書物にも書き足されていた事実。

それらが国王陛下にも報告された。


「聖女の正体は、術で閉じ込められたリリスティーナ嬢の精神体ということか。期間は500年。まだあと300年以上はあるはずだが、聖力だけを使い果たしたということか。」

「では今は精神体になって聖堂を彷徨われているということでしょうか?」

「……それはわからない。今後も誰かの体を借りることもあるかもしれないが、誰にもわからないだろう。
ただ、父からは言われていた。『リリスティーナ聖堂』を決して蔑ろにしてはいけない、と。」

「リリスティーナ様がおられるからですね。」 


精神体が怨霊にならないようにと言われている気がした。


「聖女の正体は公にはしない。イボンヌに関してはアレクサンドルの妻として、王弟妃として表に出せるようになるまでは隔離して教育するしかない。」


聖女であった頃のイボンヌの振る舞いには問題はなかった。
それはそうだ。リリスティーナは王太子妃になるはずだったのだから。

今のイボンヌは伯爵令嬢だった頃のままだ。
王子妃教育を終えなければ王族の一員として認めるわけにはいかなかった。 



 
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