5 / 28
5
しおりを挟む「あ、雫くんから返信きた!」
「……」
──唯が雫と出会ってから、二週間ほど過ぎた頃。
すっかり二人は仲良くなったのか休日にも連絡を取り合うほどになっており、昼食後唯の家でダラダラと過ごしていた時にその言葉を聞いた煌は、微かに眉間に皺を寄せた。
リビングのソファで寄り添いながら、唯のお気に入りのアニメを観ている、二人にとって至福の時間。
その時間に水を差された煌が、しかし唯の気を引くよう、そっと唯の髪の毛を撫でた。
「ん? んふふ、なぁに、煌くん」
優しく髪の毛を撫で、耳の裏を擽り、すりすりと頬を擦ってくる、煌の指。
その動物を愛撫するような柔らかな触れ合いに唯が擽ったそうに笑いながらも、携帯を置いて煌の胸に顔を寄せた。
「ふふ、煌くん、大好き」
「俺もだよ」
「えへへ、……ふぁぁ、」
「唯、お昼寝する?」
「……うん」
低く甘い声で優しく囁く煌に、撫でられる心地好さにうっとりとした表情をする唯がぽつりと呟く。
そんな唯に煌は笑いながら、唯の可愛らしい旋毛にキスをした。
「じゃあ唯の部屋行こうか」
「っ! 良いの!?」
「あぁ」
煌の言葉に途端に目を見開き体をガバッと起こした唯が、キラキラとした顔で煌を見る。
このままソファで一緒にお昼寝するつもりだったが、まさか部屋でなんて! と珍しく煌から誘ってもらえた嬉しさに、はしゃぎながら立ち上がっては手を差し出す唯。
「早く!」
そう急かす唯のキラキラと弾けた眩しい笑顔に促され立ち上がった煌は、テーブルの上に置かれた唯の携帯をちらりと見ては微笑み、唯の小さな手を優しく握った。
「っ、よし、バッチリ!」
いそいそとベッドの上を慎重に整え、クッションやブランケットで囲った丸い空洞を作り終えた唯が、満面の笑みで振り返る。
大きな瞳は期待に溢れ、興奮した頬は赤く染まり、えへへ。と笑う唯の愛らしさ。
それに煌が息を飲み、それから褒めるよう唯のふわふわな髪の毛を撫でた。
「凄いな、唯」
「えへへ~」
昔から家族に、そしてそれよりもさらに煌からベタベタに甘やかされてきた唯が、些細な事でも褒められる事を当たり前に、だが嬉しそうに受け止める。
それからキラキラとした瞳を煌に向けたあと、唯はゆっくりと目を閉じた。
途端、唯の体が徐々に変化していき、しゅるしゅると小さくなっていく。
そしてとうとう着ていた服の中に隠れてしまうほど小さくなったあと、ぽふっとその中からヒヨコが顔を出した。
「ピッ! ピィッ!」
ニコニコと目を細めてピィピィと鳴き、羽をパタパタとさせるヒヨコもとい、唯。
その愛くるしさに煌は堪らず破顔し、しゃがみこんで唯の柔らかく小さな体を撫で、それから自身も目を閉じた。
その瞬間、唯の時とは違い、バキバキと関節が激しく組み替わる凄まじい音が辺りを裂く。
そして煌が少しだけ苦しそうに口をはくはくとし始め、しかしその呼吸は次第に、グルル……、という深い唸り声へと変わり、いつの間にかその姿は鋭い瞳が爛々と光る、大きな灰色の狼へと変化した。
「ヴゥ……」
ハッ、と息を吐きながら、舌をだらりと一度出す狼こと、煌。
優雅でしなやかな体は屈強で、艶々とした毛並みで覆われた太い尻尾をバタンバタンッと床に打ち付けながら二人分の服を雑に払いのけたあと、煌は顔を下げた。
煌のギラギラとした瞳と、唯のうるうると光る瞳が落ち合い、ピィッと唯が笑顔で鳴けば、煌は鼻息荒くしながら長い舌で唯をベロンと舐めた。
「ピッ、ピィ、ピヨッ」
一舐めで全身べちゃべちゃになった唯が抗議の声をあげるが、煌は構うことなく楽しげにザリザリとした舌で唯の体を丁寧にグルーミングし、それから満足したのか唯の体を傷付けぬよう慎重に口に咥えたあと、ヒョイッと軽やかにベッドの上に飛び乗った。
そして唯が丁寧に作った円の中に煌がそっと身を倒し唯を優しく離せば、唯はすぐさま丸まった煌の足と腹の間に潜り込み、ピィピィと嬉しそうに鳴いた。
──昔から一緒に眠っていた二人だったが、今は求愛中のため、アルファとオメガが一緒のベッドで寝る事など到底許されておらず。
それに唯はひどく悲しみしばらく毎晩泣いてしまっていたのだが、そんな状況をどうにかしようと煌が必死に考えたのが、【お互い動物の姿になり、部屋の扉は開けたまま昼寝をする】というもので。
二人の両親もその条件であれば時々なら良いと言ってくれ、月に数回、二人はこうして動物の姿で寄り添い眠る事を楽しみにしているのである。
そしていつも大体そうしようと誘うのは唯からなので、煌から誘ってくれた事に唯は中々興奮が冷めやらぬまま、煌のもふもふとした毛の中に顔を埋めた。
「ピィッ、ピィ!」
そう嬉しげに高く鳴く唯に、煌も同じよう心地好さに優しく唸り、尻尾をブンブンと振る。
唯と違って完璧に自身の好きなタイミングで変化する事が出来る煌が、唯の前でだけ、そして唯の為だけにこうして狼の姿になってくれている事を、唯ももちろん知っていて。
煌から有り余るほど注がれる真摯な愛に、唯は今日も幸福さで喉を詰まらせ堪らず泣きたくなりながら、同じだけの愛を返せていますように。と祈るよう、小さなふわふわの顔を煌の柔らかなお腹に擦り付けたのだった。
70
あなたにおすすめの小説
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで
るみ乃。
BL
聖クロノア学院で、記憶と感情が静かに交差する。
「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」
記憶を失ったベータの少年・ユリス。
彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオンだった。
封じられた記憶。
拭いきれない心の傷。
噛み合わない言葉と、すれ違う想い。
謎に包まれた聖クロノア学院のなかで、
ふたりの距離は、近づいては揺れ、また離れていく。
触れたいのに、触れられない。
心を開けば、過去が崩れてしまう。
それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。
――やがて、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。
過去と向き合い、誰かと繋がることでしか見えない未来がある。
許し、選びなおし、そしてささやかな祈り。
孤独だった少年たちは、いつしか「願い」を知っていく。
これは、ふたりの愛の物語であると同時に、
誰かの傷が、誰かの救いへと変わっていく物語。
運命に抗うのは、誰か。
未来を選ぶのは、誰なのか。
優しさと痛みが交差する場所で、物語は紡がれる。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる