あなたは僕の運命なのだと、

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 ──人でガヤガヤと賑わう、学食。
 その中で唯はしょぼくれた顔をしながら、もしょもしょと小さい口にカレーを運んでいた。

「……うわ何、その淀んだ空気」

 不意に近くから辛辣な声が響き、けれどもパッと顔をあげた唯は、その声の主に嬉しそうに笑った。

「雫くん!」

 最近では、もう昼食を一緒に取るほどの仲になっている唯と雫。
 しかし先ほどの連絡で、遅れそうだから先に食べてて。と言われていたため、今日は忙しいのかなと思っていた唯が、ここ座って! と途端にキラキラとした瞳で自身の向かいの席を指差す。
 そんな唯に、しょぼくれてたり明るくなったり忙しい奴だな。と言わんばかりの顔をしながら、雫は素直に目の前に座った。

「……それで、なんでそんな顔してんの」

 出会った当初の近寄りがたい雰囲気はだいぶ薄れ、今もこうして唯の様子を気にしてくれる雫に、やっぱり優しいなぁ。なんて唯は嬉しくなりながらも、思い出し表情を暗くした。

「……あのね、今日、煌くんと夜一緒に居れないんだ……」

 そうぽつりと呟き、スプーンで無意味にカレーのルーをかき混ぜる唯。
 そんな深刻そうな態度をする唯に、しかし雫は言葉を聞いた途端ズルッとずっこけ、呆れた表情をした。

「……いやいやいやいや、今日も朝起こしてもらったんでしょ?」
「へ? うん」
「で、明日の朝もそうしてもらうんだろ?」
「そう、だよ?」
「じゃあ十分じゃん」
「へっ」
「ていうか、夜会えないくらいでそんな落ち込むもんなの?」

 唯から煌との関係も毎日耳にタコが出来そうなほど聞いている雫が、番になりたいと思えるほどのパートナーが居るというのがどんなものか知らないが、流石にそんなに四六時中一緒に居たいと思うものなのか? と不思議そうな表情をする。
 そんな雫に唯はくわっと目を見開き、とんでもない!! とブンブン首を振った。

「当たり前だよ!! 夜寝る時に煌くんにおやすみが言えないなんて、悲しすぎるもん!!」
「は、はぁ……」
「それに、今日の煌くんと明日の煌くんは違うでしょ? その日の煌くんとはその日にしか会えないんだから、おはようからおやすみまで一緒に居たいんだよぉ……」
「へぇー。それで、そんな煌さんとはどうして今日一緒に居れないわけ?」

 謎理論を展開し始める唯に、良く分からない上に長くなりそうだと察知した雫が、すかさず急に話題を逸らす。
 しかし特に何もなかった為思わず煌についての話題にしてしまい、またしても唯が見るからにしおしおと萎れた事に、雫はまずいと冷や汗をたらりと垂らした。

「……それが、今日はゼミでの飲み会なんだって……」

 ぐでん、と机に頬をつけ、はぁぁ。と唯が深いため息を吐く。
 そんな様子に、重症だな。と雫はもう相手にする事を諦め、目の前のご飯に集中する事にした。

「煌くんに寝る前に会えないなんて……」
「まぁ別にいいだろ、飲み会くらい」
「それはもちろん良いよ! 色んな人に会ったり、煌くんが楽しいって思う事なら沢山して欲しいんだけど、でも、寂しいよぉ……」

 ぐずぐずと泣き言を溢し、寂しい。なんて臆面もなく口にする唯。
 それに雫はびっくりしたよう、目を見開いた。

 素直に想いを口にし、そして相手がどんな場に行って、誰と出会ったとしても自分と相手の関係が揺らぐ事はないと信じきっている、その言葉。
 それは長年積み重ねた確固たる絆が成せる事であり、だからこそ飲み会で起こるかもしれないトラブルやそういった不安の一つも浮かばないのだろう唯に、こいつほんとすげぇな。と雫は感心したよう、笑った。

「ははっ」
「え、なに、何で笑うの? 今笑う要素一つもなかったよね!?」
「いや、何でもない、ははっ」
「え~」

 唯からすれば時々謎のタイミングで笑う雫のそのツボが分からず、眉を八の字に下げ口を尖らせたが、しかしそんな唯にやはり雫はさらに笑うだけだった。




 ***



「煌、そろそろ唯から離れな」
「……」

 唯を後ろからぎゅっと抱きしめている煌に、優弥はため息を吐きながら声をかけた。

 ──優弥も煌と同じゼミに入っており、これまでもずっと、飲み会に参加するのも大事だ。と言っていたのだが、煌はもちろんそれを全て行かないの一言で一蹴するばかりで。
 しかし今回は教授も参加する本当に大事な飲み会だったため、絶対にお前も来い。と強制参加させる事にしたのだ。
 もちろん煌も、教授が参加する飲み会の大事さは知っているので今回は渋々参加する事に同意したのだが、しかし離れがたいとぐりぐり更に強く唯の首筋に自分の顔を押し付けるばかりで、唯もそんな煌に困ったよう笑った。

「煌くん」

 煌の腕を握り、そろそろ行く時間でしょ? と唯が見上げる。
 雫の前では、煌くんと離れたくない~。なんて嘆いていたくせ、煌の交遊関係も大事だと知っている唯が精一杯の笑顔で煌に笑いかければ、煌は表情を曇らせながらもぎゅっと強く唯を抱きしめた。

 そんな、遠距離恋愛のカップルが離ればなれにならなければいけないようなやり取りをしている二人だが、離れるのはたかだか数時間である。
 それを知っている優弥から見ればひどく滑稽でしかなく、優弥は呆れながら煌を唯からベリッと強引に引き離した。

「ほら、行くよ」
「……唯、すぐ帰ってくるから。でも、眠かったら寝てて良いからな」
「うん。行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 後ろ髪をだいぶ引かれている様子で煌が家から出たあとも、後ろを何度も振り返る。
 その度に唯は抱きついて引き留めたくなる気持ちを必死に抑え、気丈に振る舞いながら、笑顔で手を振ったのだった。




 
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