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しおりを挟む「し、雫くん、本当にここに入るの……? 僕、こういうお店入った事なくて……。それに未成年だし……、」
「未成年って言っても十九だろ。それにあと数時間で二十歳になるのに、何言ってんの」
──誕生日プレゼントだと思えば。だなんて言って服の代金やその他諸々を全て支払ってくれた雫は、どんなに唯が払うと言っても聞き入れてくれず。結局、じゃあ次の雫くんの誕生日は盛大に祝わせてね。と折れた唯が、次に雫に連れていかれた場所。
その店の前で顔を青ざめさせ怖じ気づく唯に、雫がバッサリと一刀両断し、ほら行くぞ。と唯を見る。
しかし唯はやはり怯えた表情で雫の腕にしがみついたまま、店の看板を見つめた。
[Bar:Rain]
と記された黒い看板が、美しい青色のライトで上品に照らされている。
そして地下へと続く階段の奥にある、重厚さを醸し出す扉はまるで異世界への入り口のようで、唯はやはり怯えながら、雫の腕を引いた。
「で、でも、何だか場違いな気が……、」
「今は俺が見立ててやった服着てるんだから、自信持ちな」
「っ! そのためにこの格好なの!?」
雫の言葉にハッとした唯が、すぐさま自身の格好を見下ろす。
それに、まぁ似たようなもん。と雫は曖昧な言い方をしては、未だ不安がる唯を半ば強引に引っ張ってお店へと続く階段を降りて行った。
***
「……──でね、だからね、僕はね、」
間接照明がお洒落にその場を照らす、落ち着いた雰囲気の店内。
そんな空間で、始めこそ不安げに辺りを見回していた唯だったが、いつしかすっかり安心したのかリラックスした状態で勢い良く話をしていた。
というのも、「俺はもう二十歳になってるから」という雫が頼んだお酒を誤って一口飲んでしまったからというのも、大いにあるだろう。
そんな唯に、まぁあと数時間で二十歳だしセーフだろ。と開き直った雫は、しかしこれ以上唯が間違えないようにとさりげなく自身のグラスをかなり唯から遠ざけつつ、うんうんと唯の話を聞いてあげていた。
「今日はありがとう、雫くん」
先ほどまでベラベラとどうでもいい事を話していた唯が、不意に声を柔らかくし、雫へと微笑む。
その穏やかな笑みに雫は急になんだとむず痒そうにしながら、はいはいと適当に受け流した。
「僕、この数日間は本当に辛くて、ずっと泣いてばっかだったんだ。でも、今日雫くんと会えて、変に気が焦って空回りしようとしてたって気付かせてもらえて、それにこんな普段やらないような事やって、僕、今もちゃんと笑えるんだなって、安心したの。それがすごく嬉しくて」
「……」
「だから、僕と友達になってくれて、側に居てくれて、本当にありがとう」
「っ、」
そう言う唯の、真っ直ぐで穏やかな表情。
それはやはり、息を飲むほどとても清く、美しくて。
たとえどれだけ自身が辛く苦しいどん底のような状況にいようとも、他者への感謝を忘れず、全てにおいて希望を捨てずに前を向こうとひたむきに生きようとするその素直さと、精神の豊かさ。
それがありありと浮かぶ唯の清廉さに、雫は胸が詰まる想いのまま、無意識に唯の頭へと手を伸ばした。
「……んな事、いちいち言わなくても伝わってる」
だなんて照れ隠しで唯の髪の毛をわしゃわしゃと乱す雫に、唯が子どものような笑い声をあげる。
その軽やかさが胸の奥深くに染み込み、堪らず雫も同じように笑ったあと、今日の本来の目的を思い出し、唯の髪の毛を整えた。
「よし、じゃあ楽しい気分になったところで写真でも撮るか。携帯貸して」
「わぁ! そうだね! 雫くんと写真って撮った事なかったもんね!」
雫の言葉に、コクコクと嬉しそうに頷きながらバカ正直に唯が携帯を雫に手渡す。
それにニヤリと笑いながら、雫は携帯を片手に、もう片方の手で唯の肩を抱き寄せた。
「もっとくっついて」
「うん!」
「あー、もうちょっと足をこっち側に、ちゃんと足まで写んないと意味ないから」
「? うん」
やけに細部まで画角に拘る雫に、ん? と首を傾げつつ、唯がその指示通りの体勢をとる。
それから雫がシャッターをパシャリと押し、それから唯の携帯を何やらちょいちょいと操作したあと、ありがと。と唯に携帯を返した。
「撮ってくれてありがとう! あはは、なんだかカップル写真みたい」
カメラロールを確認した唯が、二人のツーショット写真を見て、あははと笑う。
確かに、雫の肩にもたれながら笑顔を浮かべ抱き寄せられている唯は、まるで雫と恋人のようで。
それが面白いのかふふふっと笑っている唯に、雫は頬杖をつきながら、妖しげな笑みを返した。
「じゃあ、俺と本当のカップルになる?」
「あはっ、からかわないでよ!」
「俺もフリーだし、唯もだろ? じゃあ良いじゃん。お試しとかでもさ」
だなんて唯へと近寄り、良い提案じゃない? と雫が問いかけてくる。
初めて“唯”ときちんと名前を呼ばれ、それがすごく嬉しいのに、しかし雫からの提案はまさに唯にとっては寝耳に水でしかなく。
雫の突然の真意が掴めず、唯が思わず困った表情をしたが、雫はというと何とも言えない表情をしていて。
「え、……本当に言ってる、の?」
だなんて唯が緊張したような声で呟けば、雫はやはり妖しげな表情のまま、唯を見つめた。
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