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しおりを挟む──雫と合流し、行くぞ。と唯が腕を掴まれて、向かった先。
そこは派手な服がズラリと並ぶ、お洒落な服屋さんで。
それに目を見開き、唯は途端にキラキラとした笑顔を浮かべた。
なんだか怪しいと思っちゃったけど、雫くん、僕とお買い物したかったんだ!
なんて、今まで友達と呼べるほどの人も居らず、こんな付き合いをしたことがなかった唯が嬉しさから満面の笑みを浮かべては、雫の後を嬉々としてついていく。
ずらりと並ぶ服は唯が今まで着たことのない派手めな服ばかりで、雫くんは綺麗だからこういう服も似合うだろうな~。なんて唯が呑気に眺めていれば、ものの数分で店内を見回り、ひょいひょいと服を見繕った雫がくるりと振り向いた。
「これ着てみて」
そう言いながら、手渡された服たち。
その突然さに、唯は鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情を浮かべた。
「え、あれ、僕の服を選びに来たの?」
「そうに決まってるじゃん」
「えっ、そうなの!? 僕服とか詳しくなくて、いつも煌くんが選んでくれてたの! だから友達に選んでもらうの初めて! ありがとう雫くん!」
予想外だったのか、わぁ嬉しいなぁ。なんて花が咲いたかのように笑う唯が、ニマニマとしたまま、目線を服に落とす。
しかしその服を見ていくうちに段々と唯の表情は曇り、とうとう眉を八の字に下げ、顔を赤くしながら唯は雫を見た。
「……し、雫くん? さすがにこれは……、」
だなんて唯が、ううぅ。と恥ずかしさから唸り、冗談だよね? と雫を見る。
しかしそんな唯の抗議に雫は一切耳を傾ける事はなく、ほら行け。と顎でクイクイと試着室を示すだけで。
「選んでくれたのはすっごく嬉しいんだけど、やっぱりちょっと僕には派手すぎないかな?」
「いいから行け」
「わっ!」
後ろへと回り込まれ、ほら。と試着室へと半ば強制的に押し込められてしまった唯が、慌てて靴を脱ぐ。
そうこうしている間に後ろですぐさまシャッとカーテンを閉じられ、「着替えるまで出さないから」なんて言われてしまえば、着替えるしか選択肢がなくて。
急にどうしてこんな事に……!? と唯は焦りながら手にした服を見下ろし、それから一度深い溜め息を吐いたあと、まぁ着替えるだけ着替えてすぐに戻ればいいや。と渋々服を脱ぎ始めた。
──そうして、数分後。
「……し、しずくくん……」
だなんて暗い声を出し名前を呼んでくる唯に、ようやくか。と雫は組んでいた腕を降ろした。
「遅い。着替え終わった?」
「一応、着替えたけど、でもこれちょっとほんとに……」
「着替えたんだよな? 」
唯の戸惑いをやはり気にも留めず、シャッと勢い良く雫がカーテンを引く。
そこには恥ずかしそうにモジモジとしては体を守るよう立っている唯が居て、しかし雫はそんな唯を無遠慮に頭の先から爪先まで確認するよう眺めた。
淡いクリーム色のふわふわとしたオフショルダーのトップスは唯のチョーカーで覆われた滑らかな首筋や華奢な肩を惜しみ無く晒し、焦げ茶色のワイドショートパンツは唯の細く美しい脚を強調していて。
それはやはり普段とは全く違った装いだったが、しかし唯が言うほど悪くなく、むしろ似合ってるじゃん。と頷いたあと、雫は笑った。
「ピーピー泣くから悲惨な事になってるかと思いきや、中々似合ってんじゃん」
「ええぇ……、女の子とか雫くんみたいな綺麗な人だったら似合うんだろうけど、僕には似合ってないよ……。それに色んな所がスースーするし、恥ずかしいよ。もう戻って良い?」
「何言ってんの。それでそのまま出かける為に着替えさせたに決まってるじゃん。あとこれも」
だなんて言っては、雫がゴソゴソと自身の鞄を漁り、小さな紙袋を取り出す。
そこにはタグが切られているものの新品の黒いハイソックスが入っており、唯はぎょっと目を見開いた。
「この格好で外になんて僕出れないよ!!」
「いいからいいから。煌さんに自分の幸せ掴んで欲しいんだろ? その為の試練だと思いな」
「この格好とそれがどう繋がるの!?」
「そのうち分かる。ていうかもういいから早く履いて。その間に俺はその格好に合う靴探してくるから」
そう取り付く島もなく一方的に言いきり、またしてもシャッとカーテンを閉めては居なくなる雫。
その理不尽な強引さに唯は信じられないと愕然とし体をわなわなと震えさせながらも、煌のためという言葉を信じ、……もうどうにでもなれ! というやけくその精神で人生で一度も履いた事のないソックスに脚を通したのだった。
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