【完結】初恋は、

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その後

9~side春~

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 ──そうしてとうとう迎えた、雅のライブがある週末の土曜日。
 そんな心待にした日に春は未だどこか夢見心地のまま、一人きりの部屋のなか何度も何度も雅の姿を頭のなかで思い浮かべていた。

 輝くプラチナブロンドの髪の毛に、なめらかな額。
 凛々しい眉毛から伸びる、高く綺麗な鼻。
 真っ白な頬はなめらかで、形の良い綺麗な唇。
 深くざらついた声に、大きな手と節くれだった長い指。
 恥ずかしがり屋で、思慮深い性格。
 好きな事には途端に饒舌で、実直でありながらもユーモアも持っていて音楽をとても愛していること。

 
 そんな、雅についてのひとつひとつを考えるだけで春はぽわりと頬を染めながら無意識に自分の唇を弄り、それから触れ合った時に分かった雅の上半身の厚みさえ、思い出していた。

 春もダンスを専攻としているという事もあり筋肉質な方だが、元々の骨格が華奢なせいで上半身に厚みがあまりなく。
 それに反し、身長は大差ないのにそこを重点的に鍛えているのか雅の胸板は厚く、筋肉が浮く広い背中は素晴らしくて、それらを思い出しながら、……今日、ライブが終わったら俺たちとうとう……。だなんて恥ずかしくなりながらジタバタと期待で暴れまわっていた春は、されど時計を見て慌ててベッドから立ち上がった。

 それから、今一度自分の格好を見直そうと、姿見の前に立った春。
 何時もより念入りにブラッシングした髪の毛は艶々と美しく、目にかかるかかからないかギリギリに揃えられた前髪をちょいちょいと指で微調整した春は、リップバームを塗って潤う唇を確認したあと、しかし己の格好を見つめた。

 暖かく柔らかな素材の大きめなフード付きパーカーとジーンズという、至ってシンプルな服装。
 そんなありきたりな自身の格好を見て、地味過ぎるかな……。なんて春は唇を尖らせた。

 だが今日行く場所は地下のライブハウスであり、ラップがメインのライブである。
 それなので、ならば派手な見目よりも動きやすい格好が良いだろうと、春はただの無地のパーカーにしたのだ。
 それでもくるくると身を捩りながら、変じゃないよね。と何度も何度も確認をし、子どもっぽいって思われませんように。だなんて心の中で願いつつ、春は部屋を出た。



 そうして、もう準備を終えていた悠希と良介と共に家を出た春は、心をはためかせながら電車に揺られ、北高校という学校の近くにある、『HEAVEN』という地下のライブハウスへと向かった。

 昼頃に降っていた雨の名残で、暗いアスファルトに溜まる水溜まり。

 それがライブハウスの灯り始めた電光を反射しぼんやりと輝いており、それを眺めながら、“着きました! 楽しみにしてますね!”というメッセージを雅に送ったあと、それから三人はライブハウスへと続く暗い地下への階段を、降りていった。




***



 薄暗い、だが熱気が籠ったライブハウス内。
 その中で悠希と良介と共に春は右手に参加証としてのリストバンドを付けながら、辺りをキョロキョロと見回した。

 ライブだといってもただ二、三曲を歌うだけだと雅は言っていた。しかし、ざらつき乾いたあの低いようで曖昧な声がどう変わるのかが今から楽しみで仕方がない春がやはりソワソワとしながらも、……始まる前からこんな調子じゃ死んじゃう。となんとか気持ちを落ち着かせようと足元を見た、その瞬間。

 ブーブーとポケットに入れていた携帯が鳴ったのに気付き、携帯を取り出した春は着信画面に記されている名前に、一気に瞳を輝かせた。


「もっ、もしもし!」
『春、もう着いたんだ。無事に来れた?』
「はい!」

 電話越しに聞く、雅の声。それは普段よりもどこか低く、それがとても艶っぽく格好良くて。
 相も変わらず途端にドクドクと鳴り響く自身の心臓を落ち着かせようとソワソワ体を揺らしつつ、春は甘い笑顔を浮かべては目尻をぽわりと赤く染めた。

『そっか、良かった。……今どこら辺?』
「え? 今ですか? えーっと、今はカウンターの所で、」

 ワンドリンク制の為、悠希達と共に飲み物を頼んでいた春がそう答えようとした、その時。

『見つけた』

 という少しだけ笑みを含んだような声で呟いた、雅。
 それに、え? と目を瞬かせたが、しかし突然後ろから抱き締められ、けれどもその鼻を擽る香りも抱き締め方ももう知っている春は、またしても鼓動を跳ねさせた。

「っ、」
「はる」

 耳元で低く甘く囁かれる、自身の名前。
 そのぞくりとするほど艶やかな声に、春が胸をときめかせたまま顔を後ろへと向ける。
 そんな春の驚きに雅は優しくはにかんだまま春の腕を掴み、くるりと向きを変えさせ、向かい合うように顔を覗き込むだけだった。

「み、みやびさん!」
「来てくれて嬉しい」

 パァッと光を放つ春のキラキラした笑顔を浴び、眩しげに目を細めながら雅が嬉しいと呟く。
 その愛らしさと、わざわざフロアまで来てくれた雅に春はまたしてもキュンキュンと胸を疼かせながら、すぐに甘えるよう雅の首に腕を回した。

「呼んでくれてありがとうございます! 楽しみです!」
「ん。頑張るわ」

 春の細い腰にすっと腕を回しながら、頑張ると言っては雅が笑う。
 薄暗いライブハウス内の光に照らされた雅のプラチナブロンドの髪の毛が美しく、ポーッと見惚れていた春だったが、不意に雅がこめかみに顔を寄せちゅっとキスをしてきたので、堪らずクスクスと笑みを溢してしまった。

 人目も気にせず、ちゅ、ちゅ。と顔中にキスを落とす雅と、嬉しそうにはにかむ春。という、どこからどう見てもバカップルの二人。
 そんな二人に、一緒に来ていた悠希は幼馴染みの露骨な姿に顔を真っ赤にし、しかし良介はいつもの事だとシラッとした顔をするだけだった。

「……あ、二人も、来てくれてありがと」
「っ、い、いえ! こちらこそありがとうございます!」
「俺たちの存在に今気付いたんすか、雅さん」

 春の肩越しに二人を見た雅が、小さく会釈をしながら声を掛けてくる。
 その言葉に悠希は慌ててペコッと頭を下げたが、良介は皮肉めいた冗談を返すばかりで。
 そんな良介の態度に、ちょっと。と言わんばかりに悠希が肘で小突いたのが分かり、未だ抱き合ったまま春と雅がははっと笑った、その時。

「わーお! 俺たち今あり得ない光景見てるんだけど!」
「それな!」

 だなんて雅の後ろから聞こえた声に春はきょとんとした顔をし、しかし雅は、そういえば着いてきてたんだった。と若干うんざりとした表情を見せるだけだった。


「万年フラれてばっかの恋愛知らずだった雅さんがこんな事してるの、まじでウケるんだけど」
「それな。ていうか雅さんが邪魔でちゃんと見えないけど、めちゃくちゃ美人さんだなぁ」
「わ、ほんとだ! これは一目惚れするのも納得だわ」
「……お前ら……、うっせぇんだよ……」

 そう好き勝手喋っている拓真と慎一に、雅が低い声を出す。
 けれども二人は興味津々と言った様子で、春の姿を雅の肩越しから覗き込もうとするばかりだった。

「えっと、」
「……俺が前に話した、拓真と慎一……」
「あ、雅さんのお友達!」
「いや、とも、だちっていうか……、」

 不思議そうにしていた春に雅が気まずげに二人を雑に紹介したものの、友達と言われモゴモゴと呟く。
 そんな雅とは対照的に、春はパァッと表情を明るくさせするりと雅の腕から抜け出しては、二人に向かって行儀良くお辞儀をした。

「一宮春です! 雅さんから良く二人のお話を伺っていたので、会えて嬉しいです!」
 
 花が綻ぶような笑顔を浮かべ、元気よく挨拶をする春。
 それに二人は目を見開き、いやほんとよくこんな可愛い子を口説き落とせましたね雅さん。という顔をしたあと、春に向かって手を差し出した。

「篠田拓真だよ~! 俺も会えて嬉しい! 春ちゃんほんと可愛いね!」
「須藤慎一です。宜しくね、春ちゃん」
「えっ、……あ、はい、宜しくお願いします!」

 二人に揃って“春ちゃん”と呼ばれた春が、何でちゃん付け……。と少しだけ気恥ずかしそうな顔をしながらも、二人の手を握り返す。
 それから、自身の後ろに居る悠希と良介を見ては、「こっちは俺の親友の悠希とその恋人の良介です!」と紹介をし、悠希と良介も行儀良くお辞儀をしては拓真と慎一と親しげに笑みを交わし合ったのだった。




 
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