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その後
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しおりを挟む春が雅の手を引いて、向かった先。
そこは春の部屋で。ガチャッと少しだけ乱暴に扉を開き、有無を言わさぬ眼差しで雅をベッドへと座らせた春に、雅は怒らせてしまったと心臓をバクバク鳴らしながら借りてきた猫のよう、ちょこんとベッドへと腰かけた。
「は、はる……、」
焦り、どもりながらオロオロと声をかけてみるも、春は机の上に置いていたノートパソコンを起動させようと背中を向けていて。
それに、何で今パソコンを……。と雅が不安げな表情をしながらも疑問に思っていれば、パソコンを手にした春が雅の隣に腰を下ろし、口を開いた。
「見てください」
「へっ、あ、うん……」
画面、見て。と促されるがまま、雅が視線を下げる。
しかし、そこにあったネットの検索履歴欄ページに、たちまち雅はヒュッと息を飲んでしまった。
そこに表示されているのは、今の雅のパソコンや携帯の履歴とほぼ変わらないワードばかりで。
“男性同士のセックスの仕方”
“男同士 準備”
“男同士 セックス 気持ち良くなるには”
だなんてずらりと並ぶ、いわゆる男同士の性事情をご丁寧に説明してくれているサイトにアクセスした事を知らせる、検索履歴欄。
それに雅は顔を赤くし、言葉を詰まらせてしまった。
「っ、」
「……」
「え、あ、こ、これ、え、」
だなんてどもりパニックに陥る雅をよそに、春は同じよう顔を真っ赤にしながらも、雅をじっと見つめては、真剣な表情をした。
「……俺だって、男なんですよ。雅さん」
「っ、」
「雅さんに触りたいって、雅さんとそういう事したいって思ってあれこれ検索までしちゃうような、もっともっとって欲張っちゃうような、そんな普通の男なんです」
そう言う春は、天使のような外見のまま、しかし瞳の奥にありありと劣情の色を浮かべている。
その息を飲むほど美しい顔と、けれどもその破壊力有り余る言葉に、雅はまたしても言葉を失ってしまった。
「……大事にしたいって思ってくれるのは凄く嬉しいですけど、でもそれで雅さんに触ってもらえないのも、触れなくなるのも、嫌です。それに、自惚れかもしれないですけど、俺ちゃんと雅さんに凄く大事にしてもらってるって思ってます」
だなんて言いながら、雅の手をそっと握っては、見つめてくる春。
その愛らしい顔と男前な台詞に、キュンッと胸をときめかせながら、雅は堪らずその手を握り返した。
「は、はる……、」
「……引きましたか?」
「なっ、引くわけないだろ!! 俺だって検索してたし!」
「っ!」
「それに、……それに、さっきも言ったけど、大事にされてると思ってもらってるなら、嬉しい」
春の手を強く握ったまま、そしてもう片方の手で春の頬をそっと撫でた雅が、小さくはにかんでいる。
そんな、胸のつかえが取れたような愛らしい顔で笑う雅に、春は頬を染めたまま、けれども同じよう可愛らしく笑った。
「……」
「……春、キスして良いか」
「……聞かなくて良いです」
雅のお伺いに、恋人なんだから好きな時にして良いんですよ。というよう、ふわりと春が微笑む。
その笑顔にまたしても雅がはにかみ、そっと顔を近付けた。
チュンチュン。と部屋の窓越しから響く、鳥の声。
カーテンの隙間から差し込む、朝陽。
そんな清らかな朝を背に、二人は優しく穏やかなキスを繰り返した。
「……ふふ」
「……」
春の口から漏れる、愛らしい笑い声。
それにつられるよう雅も口元を弛め、二人の絡み合った前髪が静かに互いの間で揺れてゆく。
だがそんな柔らかな空気にパソコンの履歴画面だけが似つかわしくなく、それがおかしいと二人は更にクスクスと笑いながらも、雅はもう一度春の唇にチュッと軽くキスをした。
「好きだよ、春」
「俺も大好きです」
「……あのさ、」
「はい」
「今週の土曜日、ライブ終わりに、家来れる?」
「っ、」
雅が頬を染め、でももう我慢しない。というよう、じっと春を見ては問いかけてくる。
そして、この流れでその言葉の意味を理解出来ぬほど春も間抜けではなく。ボンッと顔を赤くし視線を逸らしながらも、春はこくこくと頷いた。
「行き、たいです……」
「……ほんとに? 日曜日何か予定とか入ってない?」
「大丈夫です……。念のため前もって土日ともバイト休みのシフト出してたんで……」
「……そ、そっか。ありがと」
春がバイトの休みのシフトを出したのは付き合う前であり、ライブの終わりに自分から告白しよう。だとか、告白こそ出来なくても打ち上げと称して日曜日にも会えたりしないだろうか。などとひっそり考えていたのだ。
しかしそれを知られるのは流石に恥ずかしく、……黙っておこう。と春は口を閉じながらも、すりすりと頬を撫でてくる雅の指に、うっとりと表情を弛ませた。
「……その日に、春の全部に触りたい。俺に、春の“はじめて”くれる?」
じっと春を見つめ、お願い。と言わんばかりに想いを告げてくる雅の、赤裸々な言葉。
見た目はどことなく冷たく見えるというのに、柔らかい口調でお伺いを立ててくるような雅のその仕草や全てに春はキュンキュンと心臓を高鳴らせたまま、またしてもこくこくと必死に頷いた。
そんな春を見ては嬉しげにはにかみ、何度目か知らぬキスをしようと、雅がそっと顔を傾ける。
さらりと揺れるプラチナブロンドの髪の毛が雅の目元を隠し、それがやけに格好良く、春もまたそっと目を閉じては雅の唇を待っていた、その瞬間──。
「春さ~ん、雅さ~ん」
だなんて寝起きで掠れた、間抜けにも聞こえる良介の声が扉の向こうから聞こえ、二人はビクッと身を跳ねさせてしまった。
「おはようございま~す。起きてます~? 悠希さんが朝ごはん食べますか~だって」
コンコン、とドアをノックしながら声をかけてくる良介に、固まったまま二人が顔を見合わせる。
それから数秒後、まるで昨夜と同じような状況にプッと吹き出し、二人は立ち上がった。
「……行くか」
「はい」
ふふっと笑う春の髪の毛は、未だ少しだけ寝癖がついていて。
それが愛らしく、そっと優しく梳いたあと雅が手を差し出せば春も微笑み、しかしその手を握る事なく雅の髪の毛に手を伸ばしてきた。
先ほどの雅を真似るよう、雅の髪の毛をちょいちょいと撫でては春が雅の髪の毛を整えてゆく。
そんなまるで猿の毛繕いのようにお互い愛情を示しながら、気恥ずかしそうにしている雅の手を春がしっかりと握りしめ、二人はエヘエヘと表情を弛め手を繋いだまま春の部屋を出たのだった。
***
それから雅は春と共に顔を洗い、歯を磨き、悠希が用意してくれた朝食をご馳走になった。
そうして、陽気で賑やかで穏やかな朝を過ごした雅は、春を大学へと送り、一緒に車から降りた(良介は今日は講義が無いらしく、二度寝をすると言っては悠希と共に部屋へと消えていった)。
「……それじゃあ、土曜日に」
「……はい」
「土曜、迎えに行けなくてごめんな。場所は分かる?」
「大丈夫です!」
名残惜しげに手を繋ぎ、大学前で会話をする二人の声が、清らかな朝の空へと溶けてゆく。
大丈夫です! と笑顔を見せる元気な春の返事に、ん。とだけ呟きつつも、準備やら何やらで迎えに行けない事を未だ申し訳ないと思っているのか、表情を曇らせている雅。
そんな雅を見て、……可愛いなぁほんと。と春は目元を弛め、ぐいっと繋いでいた手を引いて己へと引き寄せては、真っ白な雅の頬にチュッとキスをした。
「っ!」
「えへへ、それじゃあ、土曜日、会場に着いたら連絡しますね! 楽しみにしてます!」
そう可愛らしくはにかみながら、呆けている雅の頬にもう一度チュッと啄むようキスをした春が、ひらひらと手を振って駆けてゆく。
その風のように去ってゆく後ろ姿を、呆気に取られたまま見つめる事しか出来なかった雅だったが、しかしそれから数秒後、へなへなと座りこんでしまった。
「……ッッ、なん、……ハァ~~……」
春の可愛さにノックアウトされながら、雅が声にならぬ声を出す。
心臓はもうバクバクと煩く騒ぎ立て、身体中の血液が沸騰してゆく感覚に陥りつつも、堪らず口元に笑みを浮かべた雅はよろよろと立ち上がり、気合いを入れるよう、顔をパンパンと叩いた。
「っし、春にぜってー良いとこ見せる」
だなんて決意を新たにした雅は、そんでそのあと……、とまで考えたが、しかし、邪な想いは今は抑えよう。と顔をフリフリと振っては雑念を消し飛ばし、気合いを入れ直しては颯爽と車へと戻っていったのだった。
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