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夫
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それはまだ春とは名ばかりの寒い夜、
両手の指では足りない程の年月を
顧みられなかった絹子は夫を誘ってみた。
「うわっ、痩せてる…」
困った顔をしつつ応じた夫は開口一番こう叫んだ。
「夫の女は豊満なのね」
口には出さない。
が、この男はデリカシーというものがないのかと呆れ返る。
どうにもならない思いで身悶えると、勘違いした夫が憐れむように呟いた。
「君では元気にならないんだ」
⭐
「凄く若くて胸も大きくて綺麗な娘が来たんだけど」
は?この布袋様のようなお腹をした中年男は突然何を言いだすの?
「やっぱり全然駄目だった」
風俗の話? 風俗にも行ってるの?
不倫しているだけでなく。
「まあ、がっかりしないで」
慰める為に言ってる・・訳ではないわよね。
不倫を隠す為に風俗嬢の話をしたのね。
「ガッカリなんてしてないわ。私もデブは嫌いなの。それに私も感じたいから今迄あなたを誘わなかったんだもの」
とは言わないでおくわ。
夫の女は? 彼女は出来た人なのね、フフッ。
数少ない夫との思い出からそう結論づけた私。
「それより私、仏頭展に行ってみたいの。上野の美術館で開催しているの」
一瞬、夫がギクッとする。
「ぶっとう展?ああ、仏像の頭か。あんなの面白くないよ」
「あら!何時行ったの?」
「いや、今は携帯で観られるから」
「仏像に興味があるなんて知らなかったわ」
夫は黙りこむ。
私は知っている。
最近
女と『仏頭展』に行ったことを。
夫のポケットから
入場券の半券が二枚出てきている。
嘘つきね。
知らばくれる夫をさりげなく、半券と一緒に出てきたレシートのお店に誘う。
「じゃあ、『愛玉子』っていう店に行きましょうよ。こう書いて、『オーギョーチー』と読むそうよ」
「へぇ、何処にあるのかな?」
上野にあるその店を携帯で調べる夫。
落ち着き払って更なる嘘を重ねる姿に
他人を見た。
⭐⭐
上野桜木にあるその店は、
黄色い看板に大きく『愛玉子』と書かれていて、遠くからでもすぐわかる。
器に入った寒天に似た食べ物は、思っていたよりずっと絹子の口に合わなかった。
夫好みの女とは、味覚も趣味も違ったようだ。
「すみません。相席お願い致します」
狭い店なのに客が絶えない。
店員さんに声を掛けられ、夫は不愉快そうに横を向いた。
案内された老夫婦が
申し訳なさそうにお辞儀をして隣に座る。
突然、結婚当初の出来事が甦る。
近所のスーパーマーケット。
何が気に入らなかったのか、夫が大声で
「店長を呼べ」
と騒いだ。
あんなに恥ずかしかったことはない。
あの時と変わらぬ夫の態度に遭遇し、
人間として尊敬できない夫に見切りをつけなかった
自分の不甲斐なさに気付かされた。
⭐⭐⭐
女と行った店に連れて行かれたのに、夫は不倫がばれていると思ってないのだろうか?
世間知らずの絹子だったら誤魔化せると嘗めているのかも。
他の女を大事にしている夫の為に、諸事万端するのは馬鹿らしい。
絹子は思う。
「無駄にしてしまった人生は返ってこない。それがとても悔しいけど此れからたくさん楽しむわ。
残りの人生を夫抜きで楽しめれば、それが私の夫に対しての仕返しよ」
両手の指では足りない程の年月を
顧みられなかった絹子は夫を誘ってみた。
「うわっ、痩せてる…」
困った顔をしつつ応じた夫は開口一番こう叫んだ。
「夫の女は豊満なのね」
口には出さない。
が、この男はデリカシーというものがないのかと呆れ返る。
どうにもならない思いで身悶えると、勘違いした夫が憐れむように呟いた。
「君では元気にならないんだ」
⭐
「凄く若くて胸も大きくて綺麗な娘が来たんだけど」
は?この布袋様のようなお腹をした中年男は突然何を言いだすの?
「やっぱり全然駄目だった」
風俗の話? 風俗にも行ってるの?
不倫しているだけでなく。
「まあ、がっかりしないで」
慰める為に言ってる・・訳ではないわよね。
不倫を隠す為に風俗嬢の話をしたのね。
「ガッカリなんてしてないわ。私もデブは嫌いなの。それに私も感じたいから今迄あなたを誘わなかったんだもの」
とは言わないでおくわ。
夫の女は? 彼女は出来た人なのね、フフッ。
数少ない夫との思い出からそう結論づけた私。
「それより私、仏頭展に行ってみたいの。上野の美術館で開催しているの」
一瞬、夫がギクッとする。
「ぶっとう展?ああ、仏像の頭か。あんなの面白くないよ」
「あら!何時行ったの?」
「いや、今は携帯で観られるから」
「仏像に興味があるなんて知らなかったわ」
夫は黙りこむ。
私は知っている。
最近
女と『仏頭展』に行ったことを。
夫のポケットから
入場券の半券が二枚出てきている。
嘘つきね。
知らばくれる夫をさりげなく、半券と一緒に出てきたレシートのお店に誘う。
「じゃあ、『愛玉子』っていう店に行きましょうよ。こう書いて、『オーギョーチー』と読むそうよ」
「へぇ、何処にあるのかな?」
上野にあるその店を携帯で調べる夫。
落ち着き払って更なる嘘を重ねる姿に
他人を見た。
⭐⭐
上野桜木にあるその店は、
黄色い看板に大きく『愛玉子』と書かれていて、遠くからでもすぐわかる。
器に入った寒天に似た食べ物は、思っていたよりずっと絹子の口に合わなかった。
夫好みの女とは、味覚も趣味も違ったようだ。
「すみません。相席お願い致します」
狭い店なのに客が絶えない。
店員さんに声を掛けられ、夫は不愉快そうに横を向いた。
案内された老夫婦が
申し訳なさそうにお辞儀をして隣に座る。
突然、結婚当初の出来事が甦る。
近所のスーパーマーケット。
何が気に入らなかったのか、夫が大声で
「店長を呼べ」
と騒いだ。
あんなに恥ずかしかったことはない。
あの時と変わらぬ夫の態度に遭遇し、
人間として尊敬できない夫に見切りをつけなかった
自分の不甲斐なさに気付かされた。
⭐⭐⭐
女と行った店に連れて行かれたのに、夫は不倫がばれていると思ってないのだろうか?
世間知らずの絹子だったら誤魔化せると嘗めているのかも。
他の女を大事にしている夫の為に、諸事万端するのは馬鹿らしい。
絹子は思う。
「無駄にしてしまった人生は返ってこない。それがとても悔しいけど此れからたくさん楽しむわ。
残りの人生を夫抜きで楽しめれば、それが私の夫に対しての仕返しよ」
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*作者ご都合主義の世界観でのフィクションです
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