バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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47話 恋を見届ける一番星

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47話 恋を見届ける一番星


広場に残る無数の足跡が熱狂を語っているようだったが、空にぽつんと一番星が見えてきた。

第一騎士団の食堂ではマルツイの優勝祝いで皆、盛り上がっていた。
改めてマルツイに「おめでとう。早く私を追い抜け」と声をかけ、「仕事終わらせてくるから」とその場を後にした。

ミスティア嬢の姿が見当たらず、心がざわめく。
あの時の彼女の眼差しを確かめたかった。

もしかして…

あの中庭に向かうと、ミスティア嬢が薬草に水やりをしていた。
いざ目の前にすると、どう切り出せば良いのか…検討がつかない。

すると彼女から僕に気づいて声をかけてくれた。

「レアソル団長。今日は…大変お疲れ様でございました…お怪我はございませんでしたか?」

いつもと様子が違う。

声に明るさがなく目線も沈みがちだ。
それにあの時のようにワンピースを握りしめている。

「大丈夫だ。それより早く水やりを終わらせた方が良い。だいぶ暗くなってきた。ここは危ないから」

「フフッ。ここは精鋭たちが集う第一騎士団の中庭ですよ。ここより安全な場所はないと思いますが」

いつもの明るいミスティア嬢に表情が戻った。
しかしある意味ここが一番危ないんだ。

「今日は大変だっただろう。ご苦労だった。帰りが遅くなってすまない」

「ご心配には及びません。馬車を待たせておりますので」

「ではミスティア嬢。本日の健勝の褒美として…馬車までのエスコート役を願ってもいいだろうか…」

差し出した左手が相手を見つけられず、自分の元に戻ってくるかもしれない。

僕の手を取ってくれるだろうか…

「最強の騎士様に手を取ってもらえるなんて光栄でございます」
と言って躊躇することなく自分の右手を乗せてくれた。

手当てとは違う彼女との触れ合い。
お互いただの礼儀だ。

それだけのはずなのに——

僕だけがこんなに苦しいほど緊張しているのか。

「あの、レアソル団長は本当にお強いですね。その…」

「ありがとう。これでも第一騎士団長だからね」

「実は、まだ心が落ち着いていません。
騎士の方たちが次々とレアソル団長に襲いかかって、でも軽々と振り払っていらっしゃっていて…」

自惚れではなかったのか…

「もしかして、私のこと、心配…していたのか?」

「申し訳ございません。第一騎士団長のご心配なんて、身の程知らずでしたね…」

やはりこの娘は僕のこと心配してくれていたんだ。

「そんなことはない。君に心配されて嬉しい」

「でもお怪我はなさらないでください」

「怪我したら君が手当てしてくれるんだろ」

「はい。あと…三ヶ月ですが、お任せください」

そうだ。あと三ヶ月——

あの中庭から馬車停までこんなに近かったのか。
伯爵家の馬車には御者と護衛騎士が待っていた。
ミスティア嬢が「お待たせしてごめんなさい」と声をかけた。

エスコートの終わりが来た——

もう少し左の温もりを感じたくて、ゆっくり伝言を伝えた。

「第一騎士団長のリソルート・レアソルだ。
…伯爵夫妻にお伝え願えるだろうか。
本日、令嬢の帰宅が遅くなり申し訳ない、令嬢の勤勉な様子に…誰もが感服していると」

これは僕の本心だ。

ミスティア嬢に伝わったのか、僕の左腕を優しく握りなおした。

薄暗くても頬が赤くなっているのがよく分かる。

「第一騎士団長、リソルート・レアソル大公子息のご伝言、確かに私が承りました」と護衛騎士が僕に一礼した。

馬車のステップ台へミスティア嬢を促した。

「ありがとう。君のおかげで良い戦いができた。これは以前の手当てで借りたハンカチのお礼だ」

胸元のポケットに用意をしていた小さな包みを渡す。

——頼む。受け取ってくれないか。

ミスティア嬢は驚き遠慮して首を振ったが、護衛騎士が微笑むとそっと受け取り、

「こちらこそ、ありがとうございます」と呟く。

御者の掛け声で馬車はゆっくり走り出した。

次第に小さくなる馬車。

はっきり見えてきた一番星の下、左側の温もりだけは確かだった。

遠のく蹄の音に、もう一度、触れたいと手を伸ばすが、何も掴むことはできなかった。

今更気づいた。

嫉妬も、心配も、この胸の奥の痛いほどの熱も。

僕は、ミスティア嬢に恋をしている。
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