バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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48話 思いを刺繍に込めて

48話 思いを刺繍に込めて

リソルート専属侍女視点


「このハンカチに合う包みを用意してくれ」

リソルート様から示されたハンカチに私は言葉に詰まり、即座に返答が出来ませんでした。

それは一目で分かる女性用の質の良い、白いコットンハンカチでした。

「…上質の白い薄紙はいかがでしょうか?」

「では、それで頼む」

リソルート様がようやくヴィヴァーチェ王女殿下と婚約解消なさってから、一ヶ月ほど経った日だった。

”バケモノ大公子息““冷静沈着で冷徹な第一騎士団長”と恐れられているリソルート様ですが、私のみならずこの城で働く者は皆、思いやりと優しさのあるお方だと、知っています。

「ミスティア・レガート伯爵令嬢に贈るハンカチだ」

私が忘れてはならないご令嬢の名前に、思わず息が止まる。

「…かしこまりました」

レガート伯爵令嬢が上級薬術師の研修でリソルート様率いる、第一騎士団にいらっしゃるのは存じておりました。

以前、手にされていたイニシャルが刺繍されたハンカチ——

M・Rはミスティア・レガート伯爵令嬢。
ハンカチを贈り合う仲になったのですね。

「あの…リソルート様…恐れながら申し上げてよろしいでしょうか」

「どうした」

「あの、こちらのハンカチに刺繍を施してもよろしいでしょう?」

「お礼で渡すハンカチだ」

私の令嬢への思いをご存知なはず。
でもあえて名前を出して、何か委ねようとされている。
リソルート様がお礼で渡すハンカチに私の謝罪の気持ちを込めては失礼だわ。

でも…願いを込めて——

「リソルート様の色で一針、一針心を込めて刺繍をします…ご希望のデザインはございますか」

「では、彼女から頂いた保湿薬を侍女たちで三日間を試しただろ。そのお礼も兼ねて頼む」

私の意図を汲んでくださった。なんと慈悲深い方。

あの時の保湿薬。レガート伯爵令嬢がお作りになったのですね。
リソルート様のお顔に塗っても大丈夫か、手荒れの酷い侍女たちで確認したんだったわ。
私も使わせて頂いて…

リソルート様の瞳の色。エメラルドグリーンを一針、一針刺していく。

——ご令嬢の辛いお気持ちが軽減しますように
——ご令嬢の夢が叶いますように
——ご令嬢に多くの幸せが訪れますように
——願わくばリソルート様と良い関係が続きますように

——最後の一針

申し訳ございません。リソルート様。
どうか一針だけ、私の謝罪を込めさせてください。

完成したハンカチをリソルート様にご確認頂くと、エメラルドグリーンの色で施した葉のモチーフの縁取りを、指でゆっくりなぞり照れていらしてる…?
緩んだ口元を拳で隠していますが、右頬に赤みがさしています。

リソルート様のそのようなお顔….
初めて拝見したように思います。

「ありがとう」と受け取られて、ご自身で薄紙に包まれた。

リソルート様の想いが伝わりますように——

どうかご令嬢の痛みが和らぎますように——
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