森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

文字の大きさ
20 / 46

第18話 馬車の襲撃

しおりを挟む
 アリステルは不安で胸が押しつぶされそうだった。

 胸に手を当て、何とか落ち着こうと深呼吸をするが、鼓動は落ち着きそうもない。

 指先がガスター夫人のくれたルビーに触れ、涙がこぼれそうになった。

 王都へ入ろうと急ぐ人々とすれ違いながら、門の外へと出る。

 門を出てから、徐々にスピードを上げ、街道をひた走る。

 しばらく行った辺りで、背後から土煙を上げて勢いよく追いかけてくる2頭の馬に気が付いた。

 みるみるうちに追いつかれ、馬車を追い越したかと思えば、馬のいななきが聞こえ、ガタガタと馬車が揺れ、止まってしまった。

 恐ろしさから手足がガクガクと震える。

 扉が外から開けられると、黒い布を口元に巻き顔を隠した男が、アリスをねめつけた。


「降りろ」


 アリステルが震える足で何とか馬車から降りようとしたが、うまく立てなかった。

 すると、男がイラついて腕を乱暴に引っ張った。


「早くしろ。おとなしく従え」


 馬車から半ば引きずられるように降りると、御者が倒れているのが見えた。

 生きているのか、死んでいるのかはわからなかった。

 男はアリステルを引っ張り、両手をロープで縛り上げた。


「悪く思わないでくれよ。殺しはしない。傷物になるだけさ」

「いやっ」


 アリステルは気力を振り絞って、男の股間をめがけて全力で足を蹴り上げた。

 反撃を予想していなかった男はまともに急所に蹴りが入り、激痛から悶絶する。


「うっ・・・!」


 アリステルはすぐさま身をひるがえし逃げ出そうとしたが、もう一人の覆面の男に髪をつかまれてしまった。男はつかんだ髪の毛をギリギリとひねり上げた。


「痛いっ!」

「なめた真似をしてくれたな」


 ブチブチと何本かの毛が抜けるほどひねり上げた髪を、男は持っていた剣で無造作に切り落とした。

 反動でアリステルは地面に転がる。

 きらきらと光る髪が辺りに散らばった。


「次は髪ではすまないぞ」


 倒れたアリステルの上に男はまたがり、アリスの服を上から下まで刃物で一直線に破った。

 下着があらわになる。


「やめて!やめてっ!」

「うるせぇ、黙れ!」


 男はアリステルの口を手で乱暴にふさぎ、反対の手で下着をはぎ取ろうとする。


(息ができない…!苦しいっ)


 苦しさにもがいていた力も弱まり、だんだん苦しささえも感じなくなってくる。

 急激に薄れる意識の中で、かすかに男のうめき声を聞いた。

 しかし、もう何が起きているのかわからず、そのまま意識を失った。




◆ ◆ ◆




 日が暮れた街道を、王都目指して駆ける者がいた。

 レオンとエイダンである。二人は今回も組んで依頼に当たっており、馬を並べて走らせていた。

 二人はキャラバンの護衛などで度々顔を合わせるうちに親しくなったが、パーティーを組んでいるわけではない。


 レオンは真面目で堅物。

 何事も真正面から受け止め、正義感も強い。

 エイダンから見れば、不器用な生き方しかできないなのだった。

 一方エイダンは、愛嬌を振りまいて何事も卒なくこなすオールマイティだが、小さいことが気になるせせこましい性格であった。

 二人は互いにない性質をうまく補いあい、良い相棒と言えばそうであった。

 今回の依頼は王都からスコルト国へ依頼の品を運び、確かに受け取ったという証文を持ち帰る仕事である。

 貴重な物を運ぶ際には、最低2人で任務を引き受けるのが普通である。

 一人が持ち逃げしようとするのを防ぐためである。

 日が暮れたら早めに野営を張って夜を安全に過ごすことを優先するのだが、あと少しで王都に着くため、馬を急がせていた。

 こんな王都にも近い街道で、一台の目立たない馬車が停車し、女が襲われている現場に行き合わせるとは、思ってもいなかった。

 男は頭に血が上っているのか、二人の接近に気が付いていない様子だ。

 レオンはすかさず馬から駆け降りると、男の後頭部を剣の柄で打ち気絶させた。

 男が持っていた縄で二人の賊の手足を縛り蹴り転がすと、気を失って倒れている女を介抱しようと近づいた。

 手を縛られ倒れているのは、見知った顔で驚く。


「おいおい、まさかアリスなのか?」


 エイダンがのんびりとレオンの馬を引いて来た。


「そのようだな。息はある。その木立の辺りにテントを張って休ませよう」

「こっちの御者の男はこと切れてるな。ちょっくら警備隊に引き渡してくるわ。その後ギルドに寄って、依頼完了の手続きもしておく」

「ああ、頼む。アリスが目覚めたら、少し移動しておきたい。ただの物取りとは思えない。用心するに限る」

「そうだな。俺はどうせ王都で事情聴取されてすぐには動けねぇだろう。先に行ってくれ。いったんここで解散だ」

「ああ」

「報酬はちゃんと山分けするからよ。じゃあな」


 そう言うと、エイダンは自分の馬に馬車をつなげ、犯人二人を馬車に放り込み、御者の亡骸もマントにくるんで丁重に乗せた。

 馬車の中に小さなカバンが置いてあるのに気が付き、レオンに渡すと王都へ出発した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

処理中です...