森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

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第17話 マルグリットの暗躍

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 アリステルとリリーが町中でジェイコブと別れたその夜。

 ジェイコブが帰らないことで、屋敷は不安に包まれていた。

 マルグリットがまたわがままを言って放さないのではないかと考え、1日様子を見たが、その次の夜になっても帰らない。

 何かあったのではと、使いの者がマルグリットの家を訪ねたが、ジェイコブとは町のカフェで別れて帰宅したと言う。

 その知らせが届いてから、屋敷はにわかに騒がしくなった。

 家令を中心に捜索隊が編成され、夜が明けたら捜索をすることとなった。

 それまでに何食わぬ顔でジェイコブが帰って来るのではないかと期待したが、残念ながら期待は空振り、朝になってもジェイコブは戻らなかった。

 もう3日である。

 最後にマルグリットと寄ったというカフェに聞き込みに行く者、警備隊へ知らせに走る者、下町を調べに行く者が、次々に家を出て行った。

 不穏な空気にリリーは怯え、アリステルから離れない。


「大丈夫よ。きっとすぐに帰って来るわ」


 調査に出かけた者たちが屋敷の戻り、新しい情報がもたらされる。

 カフェの店員によると、たしかにマルグリットと共に来店したという。

 ケーキセットをそれぞれ注文し食べたのち、一緒に出て行ったとのことだった。

 二人が会話もなく、不機嫌そうに食べていたので印象に残っていたらしい。

 街はずれで見かけたという証言では、マルグリットと馬車に乗り込むところを見たと。

 馬車は子爵家のタウンハウスに方面へ向かったようだ。

 その後、ジェイコブを見かけた者は見つかっていない。

 やはり、マルグリット共に子爵邸へ行ったのではないか?

 再び子爵邸へ使いをやるが、やはりジェイコブはいない、と言われて戻って来た。



 ガスター家の当主エイリク・ガスターは決断した。

 ジェイコブはマルグリットと共に子爵邸にいる。

 いつものわがままで引き留めているのだろう。

 いくら探しても無駄だ。


「捜索は終了だ。通常業務へ戻れ」


 そこへ、ナタリーが見たこともない慌てた様子で駆け込んで来た。


「た、大変でございます…!マルグリット様が裏町で破落戸どもを雇い、アリス先生を狙えと命じておいででした!」

「なに!?」


 ナタリーはジェイコブを探して下町まで足を延ばしていたところ、姿をフードに隠して馬車から降りるマルグリットを見かけた。

 フードに隠れて顔は見えなかったが、背格好と子爵家の馬車でそうと知れた。

 護衛の男を一人連れていた。


「このタイミングでございますし、隠れて行動なさるのがあまりにも怪しく、こっそり後を付けたのです。だんだん人気のない通りへと近づき、貧民街に入ったあたりで、もうこれ以上は後をつけるのが難しいかと思ったときでございます。薄汚れた衣服を付けた目つきの悪い2人組の男が近づいて来たのです。聞き耳を立てましたら、ガスター家の家庭教師の女をかどわかし傷物にするようにと命じられたのです!そして、その場で報酬の半分を渡し、成功したら残りの半金を渡すと」


 だれもがにわかに信じがたく、押し黙ってしまった。


「たしかに、この目で、この耳で、見聞きいたしました!」

「そうか・・・ナタリー、ご苦労だった。アリス先生、お聞きの通りだ。もしこれが本当だったら、あなたに危険が迫っているようだ。一刻も早くこの町を出た方がいい。あなたには何の非もないことは百も承知だが…。こんなことを告げねばならないとは残念だ。すぐに出立の準備をするのです」

「・・・はい」

「アリス先生、どこかに行っちゃうの?いやよ!」

「リリー、アリス先生の安全のためだ。聞き分けなさい」


 リリーは下唇を噛んで、泣くのをこらえた。

 アリステルはリリーの鼻先をちょんと指で突き笑顔を見せた。


「レディはいつでも笑顔でいるものよ。つらい時ほどね、笑顔で受け止めるの。笑顔でいればきっと、いいことがあるわ」


 リリーは無理矢理に笑顔を作ったが、涙がほろりとこぼれるのは止められなかった。

 アリステルはリリーをぎゅっと抱きしめた。


「さあ、早く支度をしなさい。急いだほうがいい」

「はい」


 荷造りと言ってもたいした荷物はない。

 森に捨てられたときに、着替えがなくて困ったことを思い出し、必要最低限の着替えと、リリーとお揃いのリボン、わずかながらたまった給金をバッグに詰めて、出発の準備を終えた。

 ガスター夫人がアリステルの部屋に来ると、ワンピースの下に隠れる長いチェーンのネックレスを首にかけてくれた。

 ペンダントトップにみごとなルビーが付いている。


「これを受け取ってちょうだい」

「そんな、いけません。こんな高価なもの」

「いいえ、これはわたくしの感謝の気持ち、そしてこんな形で出て行かせてしまうお詫びよ。どこかの町に落ち着いたらこれを売って、生活の足しにしてちょうだい」

「奥様・・・ありがとうございます。わたくしの方こそ、親切にしていただいて感謝しておりますわ」


 玄関ホールへ出ると、小さい目立たない馬車が用意されていた。


「これに乗っていきなさい。東に進むと妻の実家がある。御者に言ってあるから、まずはその街を目指しなさい。向こうの町にもガスター商会の支店があるから、そこを頼りなさい。…無事でな」

「ご主人様、ありがとうございます!みなさんも、ありがとう!お元気で!」


 慌ただしく馬車に乗り込み、夕暮れの中を馬車が走り出した。
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