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第57話 世界を癒すよ
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白く穏やかな癒しの輝きは目立つようなものではなかったが、恋する王子に聖女の存在を知らせる役割は果たした。
「イザベル!」
はげた化粧で汚れたミハイルは、そんなことは気にならないほど表情を輝かせてイザベルのもとへと駆け寄った。
「ミハエルさまっ」
イザベルの表情もパッと輝く。
駆け寄ってくるミハイルの姿を目で追う姿は、聖女ではなく1人の女性だ。
ミハイルに手伝ってもらってシローネから下りたイザベルは、聖獣に礼をとる。
「乗せてくださってありがとうございました、シローネさま」
「私からも礼を言う。ありがとう」
シローネは頭を下げる2人に小さく頷いて、仲間の聖獣たちのもとへ飛んで行った。
残された聖女と王子は手を握り合い、見つめ合っている。
(イザベルが無事でよかったぁ。あの中途半端に化粧が残っているミハイルの顔を見て噴き出さない所を見ると、本当に愛し合っているんだなぁ。……あんな男の、どこがいいんだイザベル。でも今は邪魔になっちゃうから。浄化に使っている魔法石のことは、後で相談しよ)
サラは近くに転がっていた使用済みの魔法道具を回収して無限収納庫にしまうと、そっと2人の側を離れた。
(わたしも聖獣たちのところへ行こうっと)
サラは瘴気を払って魔獣も逃げていった王城前を、明るい気分でスキップしながら歩いて行く。
兵士たちは勝利の喜びに沸き、抱き合って喜んでいる。
「やった! これで瘴気や魔獣に怯えなくて済むぞ!」
「王都は守られた!」
「聖女さま万歳!」
「ありがとう、聖女さま!」
「俺たちは聖女さまに救われました! ありがとう!」
サラの姿を認めた兵士たちは歓喜にどよめき、口々にお礼を叫んでいた。
(これでもう皆も安心。サラちゃんエライ。これはガッツポーズとっていいトコ)
そんな気分でいたサラだったが、歓喜で沸く兵士たちのなかに、涙を流している者もいるのに気付いた。
「でももっと早く聖女さまに来てもらっていたら、あいつも助かったのに」
「気持ちは分かるよ。オレも故郷の友人が……」
「俺は兄弟が……」
(ああ、亡くなった人たちもいるんだ)
サラは立ち止って、キュッと唇を噛んだ。
(わたしの召喚先は聖獣の森だったし。召喚前にだって被害は出ていただろうから、今さらどうしようもないけれど……)
サラは自分の手を見る。
そして小さな両手をニギニギしながら思う。
(いまからでも何かできることがあるのでは?)
サラはスッと屈むと、パッと無限収納を開けた。
無言で中をゴソゴソと漁る。
(何か……でも何を?……あ、これだ!)
サラは花の種がたくさん入ったケースを見つけて引っ張り出した。
(これを、こう!)
ケースを開けると地面にバラバラーとばら撒いた。
(他にもあるかなー。……あ、あった!)
サラは手あたり次第に花の種を地面にぶちまけ始めた。
(で、こうだ!)
手のひらに聖力を集中させると花の種を空中にフワッと舞い上げる。
踊るように花の種が空中を昇っていく。
たくさんの種と一緒に、サラの体も白く輝きながら空中に舞い上がった。
驚いた人々が空を見上げる。
「おお、聖女さまが」
「光りながら空へ?」
「大丈夫か? あのまま何処かへ行ってしまうのでは……」
聖獣たちも舞い上がったサラに気付いた。
『何をしようとしてるんだろう?』
クロは不思議そうに首を傾げて空を見上げた。
サラは聖力を使って作業を進めていく。
(花の種に、お水をあげて……でもあげすぎたらダメだから、ここは聖力を混ぜ込んだ霧で)
花の種に聖力と水分を注ぎこむと、芽が出てポンッと花が咲いた。
白やピンク、紫と彩りも華やかに咲き誇る花を、サラは空高く飛ばした。
(遠くには枯れないように種のまま飛ばそう。広がれ広がれ、遠くまで飛んで行け。死者を悼み、咲けよ花。未来への希望が灯るよに、舞って咲け降れ地に降りよ。根付き咲き乱れ、世界を癒せ。どうか王国を覆うほどの花が降りますように)
サラは聖力と共に、種を王国中にばらまいた。
小さな花の種もあれは、大きくて重い球根もある。
(聖力を使うのに重さはあまり関係無いみたい)
サラは沢山の花の種を飛ばした。
種は空中や地上で花を咲かせ、王国は死者を悼む花で包まれた。
この日、球根もたくさん空中を飛んで雨のように降った。
花を咲かせてポトリと地上に落ちた物もあれば、球根が地表にめり込んだ物もある。
聖力を含んで飛んだ花の種や球根は、驚くほどその場に合った形で降り注ぎ、根付き、人々の心を癒した。
(よかった。これでみんなが癒される……)
見えてなくてもサラは感じた。
(聖力って不思議。わたしの力で世界が癒せるなら、いくらでもあげる。いくらでも使う。いくらでも……)
最初に聖獣たちが異変に気付いた。
『サラってば、グラグラしてない?』
クロがそう言うと、バーンズも口を開いた。
『あれはちょっと……』
『張り切り過ぎかもね』
シローネが呆れたように言い、シルヴィも眉をひそめた。
ピカードは腰を上げて身構えた。
いち早くオカメちゃんが「びぎゃっ!」と鳴いて、慌ててサラのもとへと飛んで行く。
続いて気付いたのはミハイルだ。
「ちょっとサラ⁉」
(あ、なんか……一気に眠気が……)
サラは聖力を使い果たしたのだ。
淡く発光しながら空から落ちてくるサラの小さな体を、オカメちゃんがクチバシでつまんで必死に羽をバタつかせた。
だがサラの体が小さいとはいえ、オカメちゃんの体は更に小さい。
抵抗むなしくサラの体は地上目指して落ちていく。
「うわっ⁉ ちょっ、サラ!」
慌てて走ってきたミハイルが落ちてきたサラの体をなんとか受け止めて、一同はホッと胸をなでおろした。
「サラ⁉ サラ⁉ 起きて!」
「慌てないで、ミハイルさま。サラは聖力が尽きて眠ってしまっただけよ」
動揺のまま叫びサラの体を揺さぶるミハイルを、イザベルは優しくいさめた。
(あー……イザベルの声が心地よい……)
サラはイザベルの優しい声を聞きながら、安心してスゥッと心地の良い眠りへと落ちていった。
「イザベル!」
はげた化粧で汚れたミハイルは、そんなことは気にならないほど表情を輝かせてイザベルのもとへと駆け寄った。
「ミハエルさまっ」
イザベルの表情もパッと輝く。
駆け寄ってくるミハイルの姿を目で追う姿は、聖女ではなく1人の女性だ。
ミハイルに手伝ってもらってシローネから下りたイザベルは、聖獣に礼をとる。
「乗せてくださってありがとうございました、シローネさま」
「私からも礼を言う。ありがとう」
シローネは頭を下げる2人に小さく頷いて、仲間の聖獣たちのもとへ飛んで行った。
残された聖女と王子は手を握り合い、見つめ合っている。
(イザベルが無事でよかったぁ。あの中途半端に化粧が残っているミハイルの顔を見て噴き出さない所を見ると、本当に愛し合っているんだなぁ。……あんな男の、どこがいいんだイザベル。でも今は邪魔になっちゃうから。浄化に使っている魔法石のことは、後で相談しよ)
サラは近くに転がっていた使用済みの魔法道具を回収して無限収納庫にしまうと、そっと2人の側を離れた。
(わたしも聖獣たちのところへ行こうっと)
サラは瘴気を払って魔獣も逃げていった王城前を、明るい気分でスキップしながら歩いて行く。
兵士たちは勝利の喜びに沸き、抱き合って喜んでいる。
「やった! これで瘴気や魔獣に怯えなくて済むぞ!」
「王都は守られた!」
「聖女さま万歳!」
「ありがとう、聖女さま!」
「俺たちは聖女さまに救われました! ありがとう!」
サラの姿を認めた兵士たちは歓喜にどよめき、口々にお礼を叫んでいた。
(これでもう皆も安心。サラちゃんエライ。これはガッツポーズとっていいトコ)
そんな気分でいたサラだったが、歓喜で沸く兵士たちのなかに、涙を流している者もいるのに気付いた。
「でももっと早く聖女さまに来てもらっていたら、あいつも助かったのに」
「気持ちは分かるよ。オレも故郷の友人が……」
「俺は兄弟が……」
(ああ、亡くなった人たちもいるんだ)
サラは立ち止って、キュッと唇を噛んだ。
(わたしの召喚先は聖獣の森だったし。召喚前にだって被害は出ていただろうから、今さらどうしようもないけれど……)
サラは自分の手を見る。
そして小さな両手をニギニギしながら思う。
(いまからでも何かできることがあるのでは?)
サラはスッと屈むと、パッと無限収納を開けた。
無言で中をゴソゴソと漁る。
(何か……でも何を?……あ、これだ!)
サラは花の種がたくさん入ったケースを見つけて引っ張り出した。
(これを、こう!)
ケースを開けると地面にバラバラーとばら撒いた。
(他にもあるかなー。……あ、あった!)
サラは手あたり次第に花の種を地面にぶちまけ始めた。
(で、こうだ!)
手のひらに聖力を集中させると花の種を空中にフワッと舞い上げる。
踊るように花の種が空中を昇っていく。
たくさんの種と一緒に、サラの体も白く輝きながら空中に舞い上がった。
驚いた人々が空を見上げる。
「おお、聖女さまが」
「光りながら空へ?」
「大丈夫か? あのまま何処かへ行ってしまうのでは……」
聖獣たちも舞い上がったサラに気付いた。
『何をしようとしてるんだろう?』
クロは不思議そうに首を傾げて空を見上げた。
サラは聖力を使って作業を進めていく。
(花の種に、お水をあげて……でもあげすぎたらダメだから、ここは聖力を混ぜ込んだ霧で)
花の種に聖力と水分を注ぎこむと、芽が出てポンッと花が咲いた。
白やピンク、紫と彩りも華やかに咲き誇る花を、サラは空高く飛ばした。
(遠くには枯れないように種のまま飛ばそう。広がれ広がれ、遠くまで飛んで行け。死者を悼み、咲けよ花。未来への希望が灯るよに、舞って咲け降れ地に降りよ。根付き咲き乱れ、世界を癒せ。どうか王国を覆うほどの花が降りますように)
サラは聖力と共に、種を王国中にばらまいた。
小さな花の種もあれは、大きくて重い球根もある。
(聖力を使うのに重さはあまり関係無いみたい)
サラは沢山の花の種を飛ばした。
種は空中や地上で花を咲かせ、王国は死者を悼む花で包まれた。
この日、球根もたくさん空中を飛んで雨のように降った。
花を咲かせてポトリと地上に落ちた物もあれば、球根が地表にめり込んだ物もある。
聖力を含んで飛んだ花の種や球根は、驚くほどその場に合った形で降り注ぎ、根付き、人々の心を癒した。
(よかった。これでみんなが癒される……)
見えてなくてもサラは感じた。
(聖力って不思議。わたしの力で世界が癒せるなら、いくらでもあげる。いくらでも使う。いくらでも……)
最初に聖獣たちが異変に気付いた。
『サラってば、グラグラしてない?』
クロがそう言うと、バーンズも口を開いた。
『あれはちょっと……』
『張り切り過ぎかもね』
シローネが呆れたように言い、シルヴィも眉をひそめた。
ピカードは腰を上げて身構えた。
いち早くオカメちゃんが「びぎゃっ!」と鳴いて、慌ててサラのもとへと飛んで行く。
続いて気付いたのはミハイルだ。
「ちょっとサラ⁉」
(あ、なんか……一気に眠気が……)
サラは聖力を使い果たしたのだ。
淡く発光しながら空から落ちてくるサラの小さな体を、オカメちゃんがクチバシでつまんで必死に羽をバタつかせた。
だがサラの体が小さいとはいえ、オカメちゃんの体は更に小さい。
抵抗むなしくサラの体は地上目指して落ちていく。
「うわっ⁉ ちょっ、サラ!」
慌てて走ってきたミハイルが落ちてきたサラの体をなんとか受け止めて、一同はホッと胸をなでおろした。
「サラ⁉ サラ⁉ 起きて!」
「慌てないで、ミハイルさま。サラは聖力が尽きて眠ってしまっただけよ」
動揺のまま叫びサラの体を揺さぶるミハイルを、イザベルは優しくいさめた。
(あー……イザベルの声が心地よい……)
サラはイザベルの優しい声を聞きながら、安心してスゥッと心地の良い眠りへと落ちていった。
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