32 / 80
第5章 三姉妹の気持ち
32 あなたの名前は
しおりを挟む「てかさ、そろそろタメ口で話せば?」
朝、皆さんとの食事の時間。
思いついたように言葉を発したのは華凛さんでした。
その視線はこちらに向けられていたので、わたしに向けての発言だと分かります。
「え……タメ口、ですか?」
「そうそう。義妹って言ってもさ、同い年なんだし。いつまでも敬語っておかしくない?」
「えっと……」
「え、何か問題あるの?」
お……大ありに決まってるじゃないですか……!!
義妹になったとは言え、わたしはクラスカーストの最底辺、モブ筆頭。
大して貴女方はクラスカーストの頂点、月森三姉妹。
ただでさえ最近はクラス中から訝し気な視線を向けられているのに、これにタメ口なんてきこうものなら……どうなる事かっ。
想像するだけで恐ろしいですっ。
「あの、同い年でも敬語がクセになっていまして……。このままでいたいなぁ、なんて?」
と、やんわりとお断りをしようと試みますが、華凛さんの表情は渋くなる一方です。
「えー。でもさ、いつまでも敬語ってのも変じゃない?普通、タメだよね?」
嗚呼……。
仰って頂いていることはとっても光栄なのですが。
けれど、それだけは踏み込んではいけない領域なのです。
「で、でも、日和さんも敬語ですし……」
申し訳ありません、日和さん。
言い逃れにあなたを使ってしまう無礼なわたしをお許しください。
話を振られた日和さんは小首を傾げなら、おっとりと手を頬に添えます。
「気楽に話せってことならぁ~、わたしはいつでもタメ口オッケーみたいなぁ?」
「日和さんがあっさりタメ口を……!?」
違和感しかない……!
しかも口調が砕けすぎて、振り幅がっ。
これじゃ誰だか分からないじゃないですかっ。
「ほら、日和姉だってこんな感じでいつでも変われるんだから。明莉も変えなって」
「いやいや、日和さんはおかしいですって。普通あんなに一瞬でキャラ変えられませんって」
「でもほら、日和姉だって普段から名前はちゃん付けだったりするし。最初から最後まで敬語なのって明莉だけだし」
「そう言われましても……」
姉妹である日和さんはそれで良くても、元他人であるわたしはそういうわけにはいきません。
「ほら、じゃあまず名前の呼び方から変えてみようよ」
華凛さんが瞳を輝かせる。
なにがその輝きを生み出すのかはさっぱり分かりませんが……。
「さん付け禁止ね。次さん付けたら明莉と口利かないから」
「そ、そんなぁ……」
かと言って、これ以上黙って無視を決め込むわけにもいきません。
わたしは意を決して――
「か、華凛……様」
「更に敬ってどうすんの!?」
ああ、ムリムリ、ムリですよぉ。
どうしてそんなイジワル言うんですかぁ。
「もう、ちゃんと言ってよっ」
「華凛卿」
「誰よそれっ」
わたしも分かりません。
「いらないからっ、名前の後に何も付けなくていいからっ」
「Ms.華凛」
「付けてないけどッ、確かに名前の後にはつけてないけど、前にもいらないからっ」
うおおおおお……。
出来ないものは出来ないんですよぉ。
元々、わたしは対人スキルが皆無だからぼっちなのであって。
改めて人間関係の構築を促されると、途端にわたしは身動きがとれなくなってしまうんですよぉっ。
「分かった、そこまで言うならテストで勝負よ」
「テスト……?」
「そうよ。中間考査、最近は明莉も勉強してるみたいだけど、あたしだって頑張ってるんだから。あたしが勝てば呼び捨て、明莉が勝てばそのままの話し方で認めるわっ」
うおおおん。
華凛さんが変な暴走を始めてしまいましたぁ。
「へえ。面白そうな勝負をするのね」
そこで、千夜さんが沈黙を破る。
「い、いえ……千夜さん。こんなの全然面白そうでは……」
「いいじゃない。貴女にはこの私が直接勉強を教えているのよ?その勝負、受けて御覧なさい」
ひぃえええええっ。
プレッシャーがっ。
千夜さんのプレッシャーに押しつぶされちゃいますぅっ。
「ほら、千夜姉もそう言ってるんだし。もう逃げられないわよっ」
「うぅ……分かりましたぁ」
さすがに、ここまで言われて逃げる道はありません。
覚悟を決めるしかなさそうです。
「……ちなみに、その勝負。私が入っても構わないわね」
「へ?」
ぼそっと、千夜さんも変なことを言い始めました。
「え、なにっ。千夜姉が入るってなにっ」
それには当然、華凛さんも困惑します。
「だから、私がその子に勝てば……その、名前で呼んでもらうのよ」
千夜さんをっ!?
無理です!
華凛さんは、キャラクター的にギリギリ冗談として受け取ってもらえそうですが。
千夜さんは絶対に冗談になりませんっ。
『アイツ、なに呼び捨てにしちゃってんの?』
と指差されるに違いありませんっ。
「あら、面白そうですねぇ。わたしも混ぜて頂きたいです」
そこに面白半分で参戦しようとする日和さんっ。
おかしいっ。
皆さんテストの競い方間違ってますよっ。
「待って、成績優秀の千夜姉と日和姉じゃ勝負にならないじゃないっ!絶対明莉に勝つじゃない!」
そうなのです。
これは赤点疑惑のあるわたしと華凛さんだから成立する勝負であって。
お勉強が得意なお二人と競った所で結果は見えているのです。
「……だから、何だと言うの?」
全く悪びれない千夜さん!?
「ええ。素直に明ちゃんがわたしたちを呼び捨てにするだけの話ですよぉ?」
約束された勝利に、何の疑問も持たないお義姉さま方……!
「そ、そんなのズルいじゃんっ」
「華凛、学問は自由なものよ」
「そうです、そうです。これは平等な勝負なんですよぉ」
……いや、あの。
そもそも論なんですけど。
どうして、こんな状況になっちゃったんですかねぇ。
「あの……聞いてもいいですか?」
話しに入り込む隙がないので挙手してみます。
すると、三姉妹の皆さんが同時にわたしに視線を向けてくれます。
話しても良さそうな雰囲気です。
「そもそも、皆さんどうしてわたしに呼び捨てをさせようとするんですか?」
スタートからしてよく分からないのです。
わたし相手なら、敬称はあって然るべきだと感じると思っていたのですが……。
「それは、その……ほら、そういう気分ていうかぁ」
華凛さんは急に視線を彷徨わせて、口調がたどたどしいものに。
言い出しっぺなのに!
「うふふ。名前で呼び合うって素敵ですよねぇ」
日和さんは微妙に抽象的で本来の目的が見えてきませんっ。
「……そんな事を気にする時間があるのなら、少しでも勉強したらどうかしら?」
“そんな事”、とか言いながら千夜さんも参戦してるのにっ。
なぜですかっ。
どうして皆さんは突然なにも話してくれなくなっちゃうのですかっ。
仲が良くなったのか、そうでもないのか、よく分かりません!
6
あなたにおすすめの小説
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる