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第5章 三姉妹の気持ち
32 あなたの名前は
しおりを挟む「てかさ、そろそろタメ口で話せば?」
朝、皆さんとの食事の時間。
思いついたように言葉を発したのは華凛さんでした。
その視線はこちらに向けられていたので、わたしに向けての発言だと分かります。
「え……タメ口、ですか?」
「そうそう。義妹って言ってもさ、同い年なんだし。いつまでも敬語っておかしくない?」
「えっと……」
「え、何か問題あるの?」
お……大ありに決まってるじゃないですか……!!
義妹になったとは言え、わたしはクラスカーストの最底辺、モブ筆頭。
大して貴女方はクラスカーストの頂点、月森三姉妹。
ただでさえ最近はクラス中から訝し気な視線を向けられているのに、これにタメ口なんてきこうものなら……どうなる事かっ。
想像するだけで恐ろしいですっ。
「あの、同い年でも敬語がクセになっていまして……。このままでいたいなぁ、なんて?」
と、やんわりとお断りをしようと試みますが、華凛さんの表情は渋くなる一方です。
「えー。でもさ、いつまでも敬語ってのも変じゃない?普通、タメだよね?」
嗚呼……。
仰って頂いていることはとっても光栄なのですが。
けれど、それだけは踏み込んではいけない領域なのです。
「で、でも、日和さんも敬語ですし……」
申し訳ありません、日和さん。
言い逃れにあなたを使ってしまう無礼なわたしをお許しください。
話を振られた日和さんは小首を傾げなら、おっとりと手を頬に添えます。
「気楽に話せってことならぁ~、わたしはいつでもタメ口オッケーみたいなぁ?」
「日和さんがあっさりタメ口を……!?」
違和感しかない……!
しかも口調が砕けすぎて、振り幅がっ。
これじゃ誰だか分からないじゃないですかっ。
「ほら、日和姉だってこんな感じでいつでも変われるんだから。明莉も変えなって」
「いやいや、日和さんはおかしいですって。普通あんなに一瞬でキャラ変えられませんって」
「でもほら、日和姉だって普段から名前はちゃん付けだったりするし。最初から最後まで敬語なのって明莉だけだし」
「そう言われましても……」
姉妹である日和さんはそれで良くても、元他人であるわたしはそういうわけにはいきません。
「ほら、じゃあまず名前の呼び方から変えてみようよ」
華凛さんが瞳を輝かせる。
なにがその輝きを生み出すのかはさっぱり分かりませんが……。
「さん付け禁止ね。次さん付けたら明莉と口利かないから」
「そ、そんなぁ……」
かと言って、これ以上黙って無視を決め込むわけにもいきません。
わたしは意を決して――
「か、華凛……様」
「更に敬ってどうすんの!?」
ああ、ムリムリ、ムリですよぉ。
どうしてそんなイジワル言うんですかぁ。
「もう、ちゃんと言ってよっ」
「華凛卿」
「誰よそれっ」
わたしも分かりません。
「いらないからっ、名前の後に何も付けなくていいからっ」
「Ms.華凛」
「付けてないけどッ、確かに名前の後にはつけてないけど、前にもいらないからっ」
うおおおおお……。
出来ないものは出来ないんですよぉ。
元々、わたしは対人スキルが皆無だからぼっちなのであって。
改めて人間関係の構築を促されると、途端にわたしは身動きがとれなくなってしまうんですよぉっ。
「分かった、そこまで言うならテストで勝負よ」
「テスト……?」
「そうよ。中間考査、最近は明莉も勉強してるみたいだけど、あたしだって頑張ってるんだから。あたしが勝てば呼び捨て、明莉が勝てばそのままの話し方で認めるわっ」
うおおおん。
華凛さんが変な暴走を始めてしまいましたぁ。
「へえ。面白そうな勝負をするのね」
そこで、千夜さんが沈黙を破る。
「い、いえ……千夜さん。こんなの全然面白そうでは……」
「いいじゃない。貴女にはこの私が直接勉強を教えているのよ?その勝負、受けて御覧なさい」
ひぃえええええっ。
プレッシャーがっ。
千夜さんのプレッシャーに押しつぶされちゃいますぅっ。
「ほら、千夜姉もそう言ってるんだし。もう逃げられないわよっ」
「うぅ……分かりましたぁ」
さすがに、ここまで言われて逃げる道はありません。
覚悟を決めるしかなさそうです。
「……ちなみに、その勝負。私が入っても構わないわね」
「へ?」
ぼそっと、千夜さんも変なことを言い始めました。
「え、なにっ。千夜姉が入るってなにっ」
それには当然、華凛さんも困惑します。
「だから、私がその子に勝てば……その、名前で呼んでもらうのよ」
千夜さんをっ!?
無理です!
華凛さんは、キャラクター的にギリギリ冗談として受け取ってもらえそうですが。
千夜さんは絶対に冗談になりませんっ。
『アイツ、なに呼び捨てにしちゃってんの?』
と指差されるに違いありませんっ。
「あら、面白そうですねぇ。わたしも混ぜて頂きたいです」
そこに面白半分で参戦しようとする日和さんっ。
おかしいっ。
皆さんテストの競い方間違ってますよっ。
「待って、成績優秀の千夜姉と日和姉じゃ勝負にならないじゃないっ!絶対明莉に勝つじゃない!」
そうなのです。
これは赤点疑惑のあるわたしと華凛さんだから成立する勝負であって。
お勉強が得意なお二人と競った所で結果は見えているのです。
「……だから、何だと言うの?」
全く悪びれない千夜さん!?
「ええ。素直に明ちゃんがわたしたちを呼び捨てにするだけの話ですよぉ?」
約束された勝利に、何の疑問も持たないお義姉さま方……!
「そ、そんなのズルいじゃんっ」
「華凛、学問は自由なものよ」
「そうです、そうです。これは平等な勝負なんですよぉ」
……いや、あの。
そもそも論なんですけど。
どうして、こんな状況になっちゃったんですかねぇ。
「あの……聞いてもいいですか?」
話しに入り込む隙がないので挙手してみます。
すると、三姉妹の皆さんが同時にわたしに視線を向けてくれます。
話しても良さそうな雰囲気です。
「そもそも、皆さんどうしてわたしに呼び捨てをさせようとするんですか?」
スタートからしてよく分からないのです。
わたし相手なら、敬称はあって然るべきだと感じると思っていたのですが……。
「それは、その……ほら、そういう気分ていうかぁ」
華凛さんは急に視線を彷徨わせて、口調がたどたどしいものに。
言い出しっぺなのに!
「うふふ。名前で呼び合うって素敵ですよねぇ」
日和さんは微妙に抽象的で本来の目的が見えてきませんっ。
「……そんな事を気にする時間があるのなら、少しでも勉強したらどうかしら?」
“そんな事”、とか言いながら千夜さんも参戦してるのにっ。
なぜですかっ。
どうして皆さんは突然なにも話してくれなくなっちゃうのですかっ。
仲が良くなったのか、そうでもないのか、よく分かりません!
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