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第5章 三姉妹の気持ち
33 変化は変化を呼ぶ
しおりを挟む中間考査の結果が出ました。
これまでの努力の結果が、点数として現れる瞬間です。
「――さて、それじゃあ各々の点数を教えてもらいましょうか」
帰宅後、千夜さんの指示に従い、リビングで姉妹揃って結果発表をすることに。
とは言っても……。
「わたしはギリギリ赤点を回避出来ました!」
そう、本当に限界すれすれ。
それでも一発で合格点を取れたのは初めてなのでした。
「あたしも何とかなったけど……」
「わたしはそれなり、ですかねぇ?」
「そう。それでも、一人も赤点がいないに越したことはないわね」
結局、順位としては
わたし➡華凛さん➡日和さん➡千夜さん
という案の定の結果に。
何のサプライズもなく終了することになりました。
しかし、問題はここからなのです……。
「ふふ、それじゃあ明莉分かってるわね?」
華凛さんは口角を上げて、わたしに詰め寄ります。
「ぐ、ぐぬぬ……」
そう、敗者は勝者を呼び捨てにしなければならないという謎のルール。
何故だかはさっぱり分かりませんが、この条件により突如わたしは皆さんを呼び捨てにしなければならなくなったのです。
「いつでも呼んで下さいねぇ?」
朗らかな笑顔で、わたしの呼び声を待つ日和さん。
「用がある時で構わないけど、次回からはルールに従って名前で呼びなさい」
それだけを言い終えると、席を立つ千夜さん。
そんなに興味が薄いのでしたら、無理にこんな条件のテスト勝負をしなくても良かったのでは?
そもそも皆さん勝者なのに、敗者のわたしに呼び捨てにされるって……こんなおかしな勝負があるのでしょうか。
「それじゃ明莉よろしくね。楽しみに待ってるよ」
意気揚々と鼻歌混じりの華凛さん。
何がそんな態度にさせるのか、わたしにはよく分からないのでした。
◇◇◇
とは言え、タイミングを来たら本当に名前で呼ばなければなりません。
慣れないなぁと思いつつ、その瞬間は、夕食の時間に訪れるのでした。
「明莉、お水もうないじゃん」
「あ、ほんとですね」
華凛さんが、わたしのグラスが空になっているのに気付いてくれます。
お水が入っているガラスのピッチャーは、ちょうど華凛さんの手元にありました。
「はい、どうぞ」
華凛さんはピッチャーを手に取って水を注いでくれます。
こ、これは……完全にあのタイミングですね。
「あ、ありがとうございます……華凛」
「……!?」
――ガガガガガッ!……ジョボジョボ……
「え、あの!?水がテーブルに全部零れてますけどっ!?」
「う、うわっ、やっちゃった!」
華凛さんは急に手元を震わせたかと思えば、そのまま水を大量に零してしまうのでした。
「ど、どうしたんですかっ。お水入れるだけであんなに慌てるなんて」
「あ、明莉がいきなり名前で呼ぶからっ」
「理由になってませんよね!?」
「呼ぶなら呼ぶって言ってよ。いきなりだとビックリするじゃんっ」
「呼ぶように言ったのはそちらなのに、事前申請が必要なんですかっ!?」
全然、状況が飲み込めませんっ。
「あらあら……」
「甘いわね」
そして、二人のお義姉様方は優雅にその状況を眺めているのでした……。
◇◇◇
食事が終わり、お片付けに。
最後に食事を終えたわたしはキッチンへと向かいます。
そこにはお皿洗いをする日和さんの姿がありました。
「あれ、いつもと違うんですね?」
お皿洗いは基本的に華凛さんが担当ですので、その姿に違和感がありまました。
「ええ。今日の華凛ちゃんは何だか様子がおかしかったので……ここはわたしが代わってあげました」
「確かに……あの後の華凛さん、手元が狂い過ぎてご飯ずっと零してましたもんね……」
あんな動揺する華凛さんは初めて見ました。
「うふふ。無自覚って怖いですねぇ」
「なんのことですか?」
「いいえ。何でもありません」
掴みどころのない日和さんは優しい笑みを浮かべながら、その手は手際よくお皿を洗っていきます。
「いいですよ明ちゃんのも一緒に洗いますから。どうぞ渡してください」
「も、申し訳ありません」
ご飯も作ってもらって、後片付けもお願いするなんて……。
気が引けてしまいます。
「これくらいお安い御用です」
そうして嫌な顔をせず、わたしのお皿を洗ってくれる日和さん。
ここは……言うしかありませんね。
「ありがとうございます……日和」
「……あら」
――パリーンッ
「なんか変な音しましたけどっ!?」
「割れちゃいましたねぇ?」
おっとりとした口調に、似つかわしくない現状報告をしてくれます。
「わっ、お怪我はありませんかっ?」
破片で手を傷付けでもしたら大変ですっ。
「ええ、運よく破片も飛び散っていませんし。問題ありません」
「……そうですか、それなら良かったです」
「心配をお掛けてしまって、逆に申し訳ありませんね」
「そんな、わたしのことより自分の心配をしてください。日和に怪我される事の方が心配です」
――パリーンッ
「言ってる側から!?」
「あ、あの……ちょっと一人にしてもらってもよろしいですか?じゃないとお皿が洗えなさそうでして……」
「どういう状況ですかそれっ!?」
華凛さんも日和さんも、突然おかしなことに……。
◇◇◇
テスト明けということで皆さんやはりお疲れなのでしょうか……。
きっとそうに違いありません。
そう思ってわたしは部屋の扉をノックします。
――コンコン
「どうぞ」
返ってくる落ち着いた声を合図に、わたしは扉を開きます。
「失礼します」
「貴女だったの……何か用かしら?」
そこには席に座って書類と睨めっこしている千夜さんの姿がありました。
「あ、ごめんなさい。何か作業中でしたか?」
「ええ、ちょっと生徒会で確認しておかなきゃいけない事案があるのよ」
「それって家でやらないといけないことなんですか……?」
「テスト週間で生徒活動がなかったでしょう。その分、仕事が溜まっているのよ」
およそ学生とは思えない発言。
そして、その意識の高さは流石としか言いようがありません。
「問題がなければ、判を押すだけの簡単な仕事よ」
そう言って、千夜さんの書類を持つ反対の手には判子が握られていました。
「それで、こんな時間に何か用かしら。テストは終わったのだから、少しばかり勉強しなくてもさすがに怒らないわよ」
「あ、いえ……その事でお礼が言いたかったと言いますか」
「お礼?」
千夜さんは書類を机に置き、判子を朱肉につけながら声では疑問を呈します。
「さっきも言いましたけど、一発合格できたのはこれが初めてだったんです」
「そう、良かったじゃない。貴女の努力の結果よ」
「いえ……これはわたしだけの努力ではありません」
きっと一人だけでは、こんな結果を残すことは出来なかったでしょう。
「これはいつも親切丁寧にお勉強を教えてくれた……千夜のおかげ、です」
「……そう」
――ダダダダダダダダッダンッ!!
「書類からは聞こえるはずのない連打音が聞こえたんですがっ!?」
「そうね、私も初めて聞いたわ」
さっきまで白と黒だけで構成されていたプリントが、真っ赤に染まっていました。
「生徒会に関わる書類なんですよねっ!?」
「ええ」
「そんなに判子押しちゃって大丈夫なんですか!?」
「大丈夫なわけないでしょう」
えええええええええ……。
クールな態度で取り返しのつかない状況になってしまった千夜さん。
今日の皆さんは本当にどうちゃったんでしょうか……。
――翌日
『あの、いつも通りで呼んで――くれない・ませんか・ちょうだい?』
と、三姉妹から懇願されるのでした。
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