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本編
06 仕事放棄
しおりを挟む「もしかして皆さん、楪さんにイジワルしてるんですかっ!?」
はい、主人公の小日向明璃ちゃんがおかしな事を言っています。
まあ、確かにね。現状二人のヒロインに引っ張り合いされていますからね。
絵的にはそう映っても仕方ないのかもしれないねっ。
「はぁ……? 私がこんな劣等生に構うわけないじゃない」
千冬さんは明璃ちゃんの発言が気に入らなかったのか、ぱっと私の手を振り払う。
構われていた気しかしないが、それはもう言いっこなしにしよう。
とにかく、片腕だが解放された。
そして、ここでようやく明璃ちゃんと千冬さんとの邂逅だ。
「そうでしたか、失礼しました」
「ええ、分かればいいのよ」
タイミングはおかしくなってしまったけど、ヒロインとの出会いを楽しんでちょうだいなっ。
「……」
「……」
え、会話終了?
そ、そうか……。
この二人は共通の話題がなく出会ってしまい、他人との微妙な距離感のままなのだ。
見ているこっちが一番ツラくなる空気のやつだ。
マジか、ヒロインとの出会いをまたミスってる気がしてならない。
「ルナとユズキはこういう関係」
――ぎゅっ。
「なんで肩を寄せてくるのかな!?」
対してルナは更に距離を縮めてくるという謎行為に走って来る。
「そ、そうだったんですか……?」
おろおろと視線を泳がせる明璃ちゃん。
そこで慌てる君もよく分からないけどねっ。
「いや違うからね、ルナとはただのクラスメイトだからね」
誤解されそうなので訂正しておく。
そんな事よりも明璃ちゃんは、ルナと千冬さんを取り戻してください。
悪女の楪柚稀にヒロインを取られるなんて事はあってはなりませんからね。
「では、その手を離してくださいっ」
「え、コヒナタ……」
すると明璃ちゃんは間に割って入り、あたしとルナの手を引きはがした。
そうそう、ちゃんとルナを確保してね。
「これでいいですね」
あたしの手をぐいっと、そのまま強く引っ張られた。
ん?
「では、わたしと一緒に行きましょう楪さん」
今度は明璃ちゃんに手を握られているのだった。
「……え?」
あれれー、どうしてこうなるんだろう?
なーんで、主人公がヒロインを放置しちゃってんのかなぁ?
主人公の役目をお忘れか?
「さぁさぁ、行きましょう楪さん」
「え、あ、ちょっ……!?」
明璃ちゃんに腕を力いっぱい引き寄せられる。
一体どこへ向かおうと言うのか、廊下の奥へと進んで行く。
後ろを振り返り、ヒロイン二人の反応を確認する。
主人公に置いて行かれるなんて、ヒロインとしてさぞかし憤慨しているはずだ。
「今回は譲ってあげようかな」
「楪が誰かと一緒に行動するなんて、珍しい事もあるものね」
ルナを肩をすくめ、千冬さんはやれやれと首を振っていた。
おいおい、君たち仕事してー?
恐らくだが、ルナと千冬さんはヒロイン同士の微妙な空気感に耐えかねて離れたくなったのだろう。
基本的にフルリスは、主人公とヒロインとの関係性は良好だが、ヒロイン同士は殺伐とした関係にある事が多い。
その主人公がヒロイン以外と行動しようとしているのだから、ルナと千冬さんが離れていくのは自然な事なのかもしれない
何にせよ、物語は脱線していく一方である。
うん、それはダメだよねっ!
どうしよ、今ならまだ間に合うかな!?
「ほら足が止まってますよ」
「ぬおおお、力つよおぉっ」
しかし、明璃ちゃんの力は異様に強かった。
彼女とて細身の体をしているのにどこにそんな力を隠し持っているのか。
これも主人公補正というやつか?
「うおおお、くそっ、離せぇえええ」
「楪さん、そんなに手に触れられると照れちゃいます」
こっちは引きはがそうとしてんのっ、馬鹿力ぁあああ。
◇◇◇
「ていうか、なに、あたしと何がしたいのよあんたはっ」
明璃ちゃんにずんずんと引っ張られ、気付けばルナと千冬さんの姿は見えなくなっていた。
結局、彼女の目的は何なのだろうか。
「校舎の事とかまだ全然分からないので教えてくださいっ」
「それかぁあああ」
本来であれば、【ルナ・マリーローズ】か【涼風千冬】を選択して一緒に学院を回るはずのイベントである。
その役割がちゃっかり【楪柚稀】に回ってきている。
意味不明である。
「他の人にお願いしたらどうかなっ、ほらルナとか千冬さんとかいいんじゃない?」
「ありがとうございます、では行きましょう」
「話を聞けぇえええっ」
都合の悪い事は聞こえないのも主人公力だろうか。
物語を自分の思い描いた方向に引き寄せる力、これぞ主人公というパワーをあたしは見せつけられているのかもしれない。
力で敵わないのであれば、ここは楪柚稀らしく攻めるしかない。
「あたしが案内するのはオススメしないわよ」
「どうしてですか?」
「自分で言うのもなんだけど、あたしは学院の中でもかなり悪名高いのよ」
「そうなんですか?」
「そう、だから転入してきたばかりのあんたがあたしと一緒にいたら悪い噂が広まるでしょ。そうしたらクラスメイトから距離を置かれるようになるけど、それでもいい?」
それを聞いて明璃ちゃんは“うーん”と小首を傾げる。
今の彼女の印象はとにかくクリーン。
それを楪柚稀の黒一色で塗りつぶす必要などない。
君は各ヒロインの色に染まり、染めるべきなのだ。
……百合色にね、ふっ。
「でも楪さんは、マリーローズさんと……えっと、さっきの黒髪の方」
「涼風千冬、ねっ」
一瞬の出来事過ぎて千冬さんの名前も把握出来ていなかったらしい。
本当に困った状況だ。
「涼風さんとも仲良くしてたじゃないですか?」
「……仲良くはないけどね」
程よい距離でいたいので、仲良しとは明言しないでおく。
「そんな人が悪名高いわけないじゃないですかー」
けたけたと明璃は笑う。
「……いや、マジなんだって」
「仮にそうだとしても、わたしはそう思わないので関係ないですねー」
ぐ、ぐぬぬ……。
この自分軸で一切ブレずに他者を肯定する主人公力……。
直接触れると物凄い懐の大きさだと実感する……この居心地の良さについ甘えたくなってしまうのだ。
こうしてヒロインたちは堕とされていったんだな。
本当に罪作りな女だぜ、明璃ちゃんよ。
「ですので、校舎の案内をお願いしてもいいですか?」
「何が“ですので”かは、さっぱり分からないんだけど……」
ここで断ったら、明璃ちゃんはどうするのだろう。
ルナや千冬さんに案内をお願いするだろうか?
……。
ないな。
あの反応だと、しつこくあたしに聞き回って来るに違いない。
案内イベントをスキップしたせいで道に迷ったりされるのも面倒だし……。
「……はあ」
「溜め息を吐くと幸運が逃げていきますよ?」
「あたしは小日向から逃げ出したいんだよ」
「つまりわたしは楪さんにとっての“幸運”という事でしょうかっ!?」
ポジティブすぎー。
ダメだぁ、勝てる気がしなぁい。
「仕方ない、案内するよ」
「やったー」
うーん。
このままでいいのだろうか。
不安は付きまとうが、ここまで来ればやるしかないだろう。
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