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本編
05 優劣
しおりを挟む「と、とにかくあたしは行きたい所があるからっ。もうここら辺でお別れでいいでしょっ」
あたしはルナにさよならの挨拶をする。
「ルナも一緒に行くよ」
来るなぁああ。
あたしの挨拶は本人に全く届いていなかった。
「いや、いいっ、あたし一人でいいっ」
「よくないと思う」
なんで断言出来るのかな?
と、とにかく、ルナを一刻も早く明璃ちゃんの元へカムバックしてもらわないと……。
じゃないと、あの方が……!
「そこで何をしているの、ルナ・マリーローズ」
空気を凛と静まり返らせるような、冷たい声音が響いた。
「……なに」
ルナも呼応するように冷たい声で振り返ると、そこにはもう一人の少女がいた。
「こんな白昼堂々、何をしているのかと聞いてるのよ」
腰元まで伸びる艶を帯びた漆黒の黒髪。
その眼光は鋭く、整った唇は引き結ばれている。
起伏は少ないものの、しなやかな肢体と長身のスタイルは、女子の憧れと言って差し支えないだろう。
“大和撫子”、その言葉を体現する少女が立っていた。
「……知らない人を相手に、その質問に答える理由はないかな」
「し、知らないって、クラスメイトに使う言葉じゃないでしょっ」
首を傾げるルナに、黒髪の少女は態度を一変させて憤慨を露わにする。
「……?」
「千冬よ。涼風千冬っ」
――涼風千冬
清廉とした佇まいに、常にクールでどこか近寄りがたい雰囲気を纏う少女。
そんな彼女だが、ルナを相手にする時だけその感情を剝き出しにしてしまう。
彼女もまたヒロインの一人である。
「ジョークなのに、分かってるよ」
「こ、この……!!」
ルナの分かりづらい冗談に、わなわなと怒りに身を震わせる千冬さん。
えっとですね……この場で盛り上がるのはやめて頂きたいのですが。
主人公不在でイベントを進めるのは非常に問題だからだ。
「そ、それじゃあ……あたし達はこの辺で失礼しよっかな?」
これならまだルナを引き連れて、千冬さんと別行動を取った方がいいはずだ。
主人公との邂逅場面をスキップしてしまうなんて事はあってはならない。
この場をなかった事にし、仕切り直して明璃ちゃんと千冬さんには出会ってもらう事としよう。
「うん、そうだねユズキ」
ルナは素直にあたしの後ろに付いて来る。
……可愛い奴め。
「待ちなさいと言っているでしょうっ」
「ぬあっ!?」
しかし、逃走を許そうとしない千冬さんはあたしの手を掴んで阻んできた。
実力行使はともかく、どうしてルナの手を取らないのかな!?
あたし止めても意味ないよっ。
「離して、ユズキが可哀想」
そして、さっきあたしが何度言っても離してくれなかったルナ本人が離せと訴えてくれています。
面白い事もあるものですね。
「どういうつもりなのよ」
「何が?」
ヒロインの二人が、間にいるあたしを無視して話を進めます。
「いつも一人だった貴女が、どうしてこんな女と……?」
訝しげにあたしの事を見つめてくる千冬さん。
うん、その目つきも見覚えあるよ。
本来であればルナが小日向明璃と絡みだしている事に、千冬さんが疑問を抱く場面なのだ。
そのポジションが楪柚稀になってしまっている。
ヤバすぎ。
「“こんな女”なんて言わないで。ユズキは親友」
「認めてないけどねっ!?」
いつの間にそんな仲にっ。
話し始めてまだ数時間しか経ってないんですけどっ。
「はあ? 楪柚稀……? こんな素行不良の劣等生と……?」
蔑んだ瞳であたしを見下ろしてくる千冬さん。
いま気づいたんだけど、フルリスのヒロインさんって高身長ばっかりなんだね。
ルナの時と同様に、また身長差であたしが見上げる形になっている。
でも正直、その冷たい目つきもゾクゾクします。
「ユズキはそんな悪い子じゃない、撤回して」
しかし、それがどうやらお気に召さなかったのか、ルナが口をへの字にしている。
『やめて、あたしで争わないで』
とか、主人公だったら言ってみたい状況である。
「いいのいいのっ! あたしはクラスの嫌われ者で、成績下位なのは事実だからねっ! 千冬さんの言う通り!」
ようやくあたしの悪評通りの反応をしてくれるヒロインに出会えたのだ。
物語に関与して破滅エンドに向かうのは避けたいが、仲良くなりすぎて何が起こるか分からない状況になるのも避けたい。
今はまだ適正な反応をしてくれている千冬さんに迎合するのが、この場では最善だろう。
「ねっ、千冬さん!」
「……そ、そうだけど。変なヤツね」
あれ、やり過ぎたかな。
千冬さんが引いている……。
確かに蔑まれてるのに、肯定するって変なヤツだよね。
楪柚稀にとっては原作にない展開だから、どう反応するべきか瞬時の対応が難しい。
「じゃあ、もういい。でもルナとユズキが一緒にいるのを邪魔しないで」
反対の手を、ぐいっとルナに引き寄せられる。
おおう……複雑な気分だ。
嬉しい気持ちもあるけど、あんまりあたしに肩入れしないでも欲しい……。
「どうして成績首位の貴女がこんな劣等生と一緒にいようとするのよ。意味が分からないわ」
ぐいっと今度は千冬さんに引き寄せられる。
え、あの……あたしを取り合う道具にしないでもらえますか?
「成績……? それに何の関係があるの?」
「この学院で、差がある友人関係なんて成立しないからよ」
ヴェリテ女学院はお嬢様学校であるため、家柄や成績は非常に重要視されている。
つまり、成績の優劣もヒエラルキーに大きく関与してくるのだ。
特にこの“涼風千冬”という少女はその傾向が強いヒロインだ。
千冬さんの成績は学年二位で、首席のルナに勝ちたいと強い向上心を持っているのだ。
しかし当のルナ本人はその学院の特色も、成績も意にも介していない。
そんな対局の存在が自分より上であるという事実が、涼風千冬は認められないのだ。
「友人に、家も勉強も関係ない」
「だから、その理屈はヴェリテ女学院では通用しな――」
「スズカゼはそんな表面上の事しか見えてないから、大事な物を見落とす」
「――んなっ……!」
千冬さんは返す言葉を失う。
本当は言いたい事は山ほどあるだろう。
しかし、彼女にとって学院の評価は絶対。
その優劣がある限り、千冬さんはルナの発言を完全否定する事が出来ないのだ。
実力主義な子なんだよねぇ。
「まあまあルナよ、千冬さんの言う事はごもっともだ。あたしみたいなおバカさんと付き合ってると、せっかくの頭脳も錆びついて成績落としちゃうかもよ? そうしたらきっとママにも怒られちゃうよ?」
「……なんでユズキは、否定してくるスズカゼをかばってるの?」
千冬さんの見解が、この作品の“楪柚稀”に対する正解だからです。
「ドMなんでしょ」
「違うからねっ!?」
吐き捨てるように千冬さんに爆弾発言を投下される。
ルナにぶつけられなかった棘を、あたしに向けてくるのはやめてもらえますか?
「あーーっ!」
すると、素っ頓狂な声が廊下に響く。
ちなみに聴き馴染みしかない声だった。
「楪さんが、ピンチ……!?」
主人公の小日向明璃が、何やら勘違いしていそうなテンションでこちらを指差していた。
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