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本編
07 学院案内
しおりを挟む「本当に広い校舎ですねぇ」
順々に校舎内を案内して行ったが、一回りするにはそれなりの時間を要する。
あたしも実際に校舎内を見るのは初めての感覚だったが、そこは楪柚稀の記憶を共有しているようで、案内する事に問題はなかった。
明璃ちゃんは案内する度に“わあ”とか“すごーい”とか言いながら新鮮な反応をお届けしてくれた。
「まぁ、ざっとこんなもんでしょ」
最後に案内したのは院内食堂、売店や自販機も併設されており、始業時間内は自由に使う事が出来る。
これで一通りは案内出来たはずだ。
「ありがとうございます、とっても助かりました」
「ええ……」
本当はヒロインさんと行って欲しかったんだけどね。
とは言え、過ぎた事を後悔していても意味はない、切り替えよう。
「じゃ、戻るから」
さすがにこれ以上、仲良しこよしをする必要もない。
用が済んだのなら彼女との接触は最小限に控えよう。
「あ、待ってください」
「え、なに?」
「ちょっと一休みしていきましょう」
明璃ちゃんが食堂内の飲食スペースを指差している。
「……いや、いいって」
これ以上、あなたと親睦を深めるつもりはない。
「まあまあ」
――ガシッ
腕を物凄い圧の力で掴まれる。
「ねえ、断ろうとしたらその力で解決するのやめない!?」
脳筋主人公なの!?
百合ゲーだよね、これっ。
「お礼がしたいだけなんです、飲み物おごりますから」
明璃ちゃんが自販機を指差す。
あー……こういうイベントもあったなぁ。
という事は不可避なのか。
ゲームの引力を感じる。
「……飲んだら帰るから」
「はいっ」
何が嬉しいのか、明璃ちゃんはぴょんぴょん跳ねながら自販機へと向かう。
主人公側だからあまり意識してなかったけど、普通に仕草可愛いよね。
こういう無邪気さがヒロイン達の心を開いたのかもしれない。
「どうぞ、好きな物を選んで下さい」
明璃ちゃんが自慢げに胸を反らす。
うーむ。
しかしなぁ……。
「そういう小日向は何飲むのよ」
「あ、えっとわたしは……コーラですかね!」
変に女子ぶってない感じは個人的に好感度高い。
「そう、なら先に買いな。あたしはその後でいいから」
「あ、はい」
すると明璃ちゃんはカエルのがま口財布から口をぱかっと開いて小銭を取り出す。
「……はっ!?」
「どうしたの?」
「……150円しかありません」
「一人分だね、それ」
知っていた。
原作通りの展開であれば、明璃ちゃんがヒロインの飲み物を買おうとしてお金がない事に気付くのだ。
校内を練り歩いた二人は喉は乾いている、しかしここでヒロインがお金を出してしまうと明璃ちゃんの顔を潰してしまう。
すると、百合ゲーとしては何が最適解か?
そう、シェアして間接キスだよね。
「だ、大丈夫ですっ。楪さんの好きな物を選んでくださいっ」
「いや、意気揚々とコーラ買おうとしてたじゃん……」
「いえ、楪さんのお礼が優先ですっ!」
いっそのこと明璃ちゃんが自分の分を買って満足しないかなと思ったけどダメだった。
かと言って、明璃ちゃんと間接キスをするわけにもいかない。
これ以上、ヒロインを差し置いて主人公との親密度を上げるわけにもいかない。
……となれば、だ。
「分かった、じゃあコーラは買って。ここを出よう」
「飲まないんですか?」
「ええ、寄宿舎に行くわよ。そこならグラスがあるから、それで二人とも飲めるでしょ」
これで間接キスは回避だ。
ちょうどいい妥協案ではなかろうか。
「おお、なるほどですっ」
どっちみち、この後の物語は寄宿舎に戻っての展開となる。
一緒にそこまで行くことに問題はないだろう。
◇◇◇
ヴェリテ女学院は全寮制となっており、学院の生徒は長期休暇を除きこの敷地内から出る事は許されない。
スマホの使用も制限されており、余暇時間にのみ使用を許可されている。
この現代にあるまじき圧倒的なコミュニティの狭さ。
しかし、それがゆえに濃密な人間関係を育み、乙女の花園たる世界観が作り出されるのだ。
古き良きを尊ぶ、それが百合なのだ。※個人の意見です。
「なかなか……歴史を感じさせる作りですよね」
寄宿舎の中は、木造づくりのあたたかみを感じさせる内装になっている。
学院は白を基調とした清廉とした空気感が漂うのに対し、こちらは比較的アットホームな雰囲気があるのだ。
建物自体は古いが、堅牢な作りをしていた。
「自分の部屋は分かるの?」
キョロキョロと周囲を見渡す明璃ちゃんに、あたしは彼女が自分の部屋を把握しているのか確認する。
迷子みたいな挙動をするので、場所が分かってないのかと心配になった。
「あ、それは大丈夫です。ですが……なんでしたっけ、“リアン”? はまだ決まってないとか……言われましたけど」
「ああ、そうなの」
――リアン
端的に言ってしまえばルームメイトの事だ。
お嬢様学校とは言え、全寮制を採用しているという事は“集団生活を学ぶ”という意図がある。
そのため部屋は二人一部屋となっており、そのパートナーを“リアン”と呼称しているのだ。
基本的には一年生は一年生同士で組む。
二年生になると三年生から指名され、先輩から学院の生徒としての在り方を受け継いでいく。
これが脈々と引き継がれている伝統らしい。
「まあ、そのうち決まるでしょ」
察しがいい人なら予想がつくと思うが、この明璃ちゃんのリアンが後に学院に波乱をもたらす事になるんだよねぇ。
それはもう少し先の話なのだが。
「そうですねぇ、仲良くなれそうな人だといいんですけど」
「大丈夫じゃない?」
「もー、他人事だと思ってぇ……」
いや、こっちは相手を知ってますからね。
大丈夫だから大丈夫としか言えない裏事情があるのよ。
「そういう楪さんのリアンさんは、どなたなんですか?」
「あー、あたしもいないわね」
何でも素行不良の楪柚稀とのリアンはお断りだとクレームが入り、一年生は奇数の人数になっていたため、一人でも問題なかったそうだ。
ちなみに転入生の小日向明璃と楪柚稀がリアンになるという案も上がったそうだが、
『あたしとコネ入学がリアン? それなら一人でいる方がよっぽどマシじゃない!』
と、これまたひと悶着あって、とりあえず保留になったそうだ。
これでは先生から絶対に煙たがれる。
着々と追放への道を歩んでしまっているのだ。
「あ、それならわたしと楪さんがリアンになれば解決じゃないですか?」
名案だと言わんばかりに両手を合わせたが、そうはいかない。
「いやいやいやっ、それはあなたが決める事じゃないからねっ!」
「……そうなんですか?」
「ええ、それは生徒会が決める事なのっ」
リアンの組み合わせの管理は生徒会の役割の一つだ。
ヴェリテ女学院は出来るだけ多くの裁量権を生徒に委ね、その自主性を育むのにも力を入れている。
つまりこの学院における生徒会役員は発言を含め、かなり大きい存在となっているのだ。
とは言え、リアンに関しては個人間の合意を生徒会が承認するだけの形骸化された役割なのだけれど。
そのため、ここで“おっけー、そうしよっ”とか言ったら、本当に明璃ちゃんとリアンになってしまう可能性がある。
そんなヒロインとのルートを摘む行為をわざわざやるものかっ。
「そうですかぁ、なら生徒会の人にお願いすれば……」
「ああ、いいから、ほらっ。コーラ飲むんでしょ、ほらほらっ」
「わっ、置いてかないでくださいっ」
もう余計な事を言わせないように、さっさと用事を済ませる事にする。
あたしは自分の部屋へと早足で歩いた。
「ほら、ここよ」
「あ、はい」
あたしはさっさと部屋の中へと入り、戸棚に入ってるグラスを取りに向かうのだが。
「なに、またキョロキョロしてんの」
どの部屋も大して変わるまいに、よそよそしくなる明璃ちゃんが気になった。
「え、えへへ。なんだか人様の部屋って緊張するなと思って」
「……え、うん……ん? あれ?」
ちょっと待て。
間接キス回避のために部屋に招き入れたはずが、これはこれで問題じゃないか?
己の凡ミスに、冷や汗が浮かぶのが分かった。
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