10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵

文字の大きさ
22 / 39
本編

22. 見えた光

しおりを挟む
 あの後、セレスティア様を捕らえる方法について議論されることになった。
 結論から言うと、捕らえる騎士達に事前に強い洗脳をかけて操ることに決まった。

 その騎士達を操るのは……この国で唯一、全ての魔法属性が扱えるお方が適任だという話にまとまった。
 けれども、そのお方――国王陛下は乗り気ではなかった。

 陛下は他人を操るという行為を嫌っているから。
 けれども最後は罪人を捕らえるためには致し方ないと受け入れてくださった。

 だから、バルケーヌ公爵家の力をある程度抑えることが出来たら、セレスティア様を捕らえることが出来るようになった。
 その力を抑えるというのが一番難しいのだけれど……。



「お嬢様、おはようございます」
「ええ、おはよう」

 朝になり、ベッドを出る私。
 それから部屋の扉を開けてシエラを招き入れた。

「今日は学院に行かれますか?」
「流石に無理そうだから、部屋着でお願い」

 昨日のうちに、お父様達とシエラには事情を話してある。
 だから、これだけで私の言いたいことを察してくれた。

「畏まりました」

 ちなみに、昨日は防御魔法を使いすぎて高位の治癒魔法を使うだけの魔力が残っていなかったから、傷を治すことは出来なかった。
 けれども、今から治癒魔法を使えば朝食に間に合わなくなってしまうから、そのまま姿見の前で待つことにした。

「お待たせしました。お着換えの用意が出来ました」
「ありがとう」

 公の場に出るためのドレスは1人で着ることなんて出来ないけれど、部屋着にしている簡素なドレスは私1人で十分。
 だから、着替えている間、シエラはベッドを整えたりしてくれているはず。

 私が着替えを終えて衣装部屋から出ると、今度はシエラが髪を整えてくれる。

「やっぱり、お嬢様のお顔に傷があると心が痛んでしまいます」
「大袈裟よ。跡が残らないのはこの前大怪我した護衛さんで証明したでしょう?」
「それでもです。お嬢様はお強いのですね」
「別に強くはないわ」

 そんなやり取りをしている間にシエラは髪を整え終えてくれて、普段よりも早いけれど朝食に向かうことになった。



   ☆


 それからしばらくして、私は治癒魔法の準備を始めた。

「ほんと、なんでこんなに恋文が送られてくるのよ……」
「どの方も下心が丸見えでしたね……」

 この大量の手紙の返事を書いていたせいで、もう10時を過ぎてしまっている。
 ちなみに、魔法の準備と言っても行為の魔法に必要な詠唱をするだけだけれど。

「始めるわね」
「分かりました」

 私の邪魔にならないようにと、部屋の扉の前に移動するシエラ。
 部屋に誰も入れない状況になったのを見計らってから、詠唱を始めた。

「光の精霊よ……」

 私の魔力量は貴族の中でもかなり多い方……というよりも、普通の10倍以上はあるのだけれど、1割くらいの魔力が減っていく。ちなみにお父様とお母様も私並みに多いらしい。
 高位の治癒魔法は特に魔力消費が激しいのよね……。

 でも、無事に傷を消すことが出来た。

「上手くいったわ」
「良かったです」

 笑顔を浮かべるシエラ。
 私も無事に治せてほっとしたのだけれど、同時に違和感も感じていた。

 植え付けられたはずのトラウマが消えたわ……。

「お嬢様、何かありましたか?」
「トラウマが消えたのよ」
「それは本当ですか!?」
「こんな嘘をつく私じゃないわ」

 一度植え付けられたトラウマは消えない。シエラは洗脳魔法の使い手だから、それをよく分かっている。
 私の言葉を疑いたくなるのも仕方ないわよね。

「それってつまり、アリス様のトラウマも消せるってことですよね?」
「そうなるわね。さすがに、このことはセレスティア様は知らないわよね……」
「知らないとは思いますが、そもそもお嬢様には闇属性魔法があまり効きませんから違和感は感じていると思います」

 シエラの闇魔法はそれほど強力ではないから、防げて当然だと思っていたのだけど……。

「あれは普段から意識して防御しているからよ。それに、セレスティア様の魔法は効いていたわ」
「それは実際に切りつけられていたからではないですか? 直前の記憶を利用すれば、トラウマを植え付ける難易度は下がりますからね」

 そう説明するシエラ。
 実際に闇属性の魔法が使えて、セレスティア様のようにトラウマを植え付けることも出来る彼女の説明だから、私は全て信じることにしている。

「使い手が言うと説得力あるわね」
「一応言っておきますけど、私の魔法は陛下からお墨付きを頂くほどには強力ですからね?」
「そうなの!?」
「怖がられたくなかったので黙っていたのです。騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした」

 絶望的に思えた今の状況に、希望の光が見えた。

 シエラの言っていることが正しければ。セレスティア様の魔法がシエラと同じくらいの力だったら……。


 セレスティア様の悪意から身を守れるかもしれないわ。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

セラフィーヌの幸せ結婚  ~結婚したら池に入ることになりました~

れもんぴーる
恋愛
貧乏子爵家のセラフィーヌは侯爵家嫡男のガエルに望まれて結婚した。 しかしその結婚生活は幸せなものではなかった。 ガエルは父に反対されている恋人の隠れ蓑としてセラフィーヌと結婚したのだ。 ある日ガエルの愛人に大切にしていたブローチを池に投げ込まれてしまうが、見ていた使用人たちは笑うだけで拾おうとしなかった。 セラフィーヌは、覚悟を決めて池に足を踏み入れた。 それをガエルの父が目撃していたのをきっかけに、セラフィーヌの人生は変わっていく。 *前半シリアス、後半コミカルっぽいです。 *感想欄で所々ネタバレしてしまいました。  感想欄からご覧になる方はご注意くださいませm(__)m *他サイトでも投稿予定です  

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

処理中です...