マドンナからの愛と恋

山田森湖

文字の大きさ
6 / 26

ダイエットの先にあるもの

しおりを挟む
ダイエットの先にあるもの

俺、コウジは34歳の会社員。街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナに再会した。
彼女は当時、クラスのマドンナ的存在。でも今は、少しぽっちゃりした雰囲気になっていた。

そんなレナをウォーキングに誘って、今では毎週土曜日に一緒に歩くのが習慣になっている。
さらに給料日の次の金曜日には、必ず一緒に食事をするようになった。

今日はその食事の日。最寄り駅で待ち合わせしていると——

「今日はコウジくんの方が早かったね」
「さっき着いたところ。1本前の電車だったよ」

外は大雨。
傘をさして、予約していた居酒屋に向かう。

「レモンサワーでいい?」
「うん、あと……やきとり」

料理が並び、乾杯。
「今月もお疲れ様」
「はぁ~疲れた~。今月、めちゃくちゃ忙しかったもん」
「毎日帰るの遅かったもんね」

他愛もない会話。でも、それが心地いい。

「雨、止まないね」
「うん、明日ウォーキングできるかな?」
「いや、さすがに無理かも」
「どうしようか…」

実は、奇跡的にこれまでの半年、土曜日は一度も雨が降らなかった。

「そういえば、市民プールの横にトレーニングルームあったよね?」
「コウジくんがたまに行ってるプールの?」
「そうそう。たしか、古いランニングマシーンが2台置いてあったはず」
「へぇ~。じゃあ、明日そこ行ってみようよ」
「うん、車で迎えに行くよ」

そして次の日、レナを迎えに行って、その施設へ。
プールの脇には、確かに古びたトレーニングルームがあった。誰もいない。

「レナちゃん、これ相当古いね。俺たちが高校の頃にできたやつじゃない?」
「うわ、めっちゃアナログ。でも、動きそう!」

使い方は単純で、むしろわかりやすい。
30分歩いて休憩、また30分歩いて……そんな感じで2時間過ごした。

そこへ年配の女性が入ってきた。

「こんにちは~」
「こんにちは」
「あら、お似合いのカップルさんねぇ」
「ははは……」

否定も肯定もできない絶妙な関係。
「2人きりでアツアツだから、私は帰ろうかしら~」
「いやいや、僕たちもちょうど帰るところです」

そんな言葉に笑いつつ、施設を出る。

プールの横を通ったとき、レナがふと立ち止まる。
「……プール、泳ぎたいな」

その表情がどこか寂しそうで、俺は何も言えなかった。

車に戻ると、レナはおにぎりとお弁当を差し出してくれた。

「レナちゃんのおにぎり、美味しいな」
「ありがとう」
「レナちゃん、泳ぐ?……って、まだ恥ずかしいか」

レナは黙ってしまう。

「ごめん。デリケートなことだもんね。気にしないで」
「……考えたんだ。あと体重5キロ減ったら、プール行こうかなって」

「うん、わかった」
「だから、明日から毎日、体重計に乗って……その写真をコウジくんに送るね」
「えっ、俺に?なんで?」
「ウォーキングが続けられたのも、コウジくんのおかげ。だから、送るって思えば続けられる気がするんだ」

俺は戸惑いつつも頷いた。

翌朝、レナから体重計の写真が届く。
どう返せばいいかわからなくて、「頑張って」とだけ返す俺。情けない。

次の週は晴れ、いつものコースに戻る。

「体重、ちょっと減ったかも。どうかな?」
「……いいんじゃない」
「ありがとう」
「あと、ペディキュアかわいいね」
「えー、見てたの?恥ずかしいなぁ」
「ご、ごめん。可愛くてさ……」
「じゃあ、また可愛く塗り直してくるね」

自分でも、何を言ってるんだか。

ウォーキングが終わり、いつものようにレナ宅へ送る。

「コウジくん、先週、おばちゃんが“カップルですか?”って言ってたじゃん?」
「うん、そうだね」
「……私たちってさ……」
俺は息をのんだ。
「……いや、なんでもないや」
「え?……うん、そっか」
「いつも送ってくれてありがとう。また来週ね」
「うん、また」

俺たちの関係ってなんだろう。

でもこの関係、今は壊したくない。
一歩でも進んだら崩れてしまう、そんなバランスの上に成り立っている気がする。

来週の天気は晴れ。

——おばちゃんの質問の答えは、まだ自分の中で見つかっていない。

この答え、AIなら教えてくれるのかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼なじみと一緒

山田森湖
恋愛
実家に戻ったショウコは、隣に住む幼なじみトオルと再会。 再会した幼なじみとの時間が、心に新しい灯をともしていく

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...