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運動不足と片想い
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運動不足と片想い
俺、コウジは33歳の会社員。ある日、街コンで同じ高校の同級生で、水泳部仲間だったレナと再会した。
当時マドンナ的存在だった彼女は、今はぽっちゃり体型になっていたけれど、明るさや笑顔は変わっていなかった。
そんなレナと、毎週ウォーキングに行くことになった。今日はその1回目を終えたところだ。
憧れだったレナと一緒に歩けるなんて最高だ。来週も行く約束をしている。
それから、レナは毎日、メッセージを送ってくれるようになった。お弁当の写真や、近所の風景、何気ない話題。
そのやりとりが楽しみで、俺の毎日に色がついた気がした。
家に帰ってウォーキングウェアを目にするたび、次の週末が待ち遠しくて仕方なかった。
そして土曜日。
俺はレナの家まで迎えに行くと、彼女はもう外に出ていた。
「おはよう。今日も頑張ろっか」
「おはよう。うん、今日も楽しもうね」
そんなやりとりで始まるウォーキング。歩きながら、お互いに今週の出来事を話し合う。
高校卒業以来、同級生とこんなふうに話す機会もなかったから、この時間がすごく貴重に感じる。
運動不足の解消にもなるし、ストレスも和らぐ。そして何より、レナの隣で彼女の笑顔を見ながら歩けるのが嬉しかった。
ウォーキングが終わると、レナが用意してくれたお弁当を一緒に食べるのが恒例になった。
そんな週末が、1ヶ月ほど続いたころ──
俺たちの歩くスピードは少しずつ上がってきた。
最初は1周1時間かかっていたコースも、今では10分、15分ほど短縮されるように。
水泳部だった俺たちは、自然と「タイム」が気になる性分だ。
「レナちゃん、今日はちょっと頑張って、タイム伸ばそうか」
「うん、頑張ろ」
そう言って、俺は自分の足にムチを打った。レナも負けじとついてくる。
目標タイムには届かなかったけど、確実に記録は縮まった。
「惜しかったね、コウジくん」
「うん、頑張ったんだけどなー」
息を切らせながら、いつものようにお弁当を食べた。疲れた身体に、いつも以上に染みた。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだね。レナちゃん、今日も美味しかったよ」
立ち上がろうとしたその時──
「うっ…」と、レナが小さく声を上げた。
「レナちゃん、大丈夫?」
「うん、平気。ちょっと膝がね…」
でも、その様子は明らかに“平気”ではなかった。
「肩、貸すよ」
そう言って、俺はレナの荷物を持ち、肩を差し出した。
「いいよ。私、重たいから…」
「そんなことないよ。大丈夫」
そのままレナの部屋まで送ることに。
「ここで大丈夫だから。ありがとう」
「ほんとにごめん。俺が無理させちゃったんだ」
「違うよ、それは違うから…」
「あとでまた来るから」
そう言い残し、俺は近くのドラッグストアへ走った。
詳しくはないけど、スポーツ用の湿布やテーピング、栄養ドリンクとゼリーを買って、再びレナ宅へ。
インターホンを鳴らすと、中からレナの声。
「レナちゃん、これ買ってきた。多分、効くと思う」
「ありがとう。気を使わせちゃってごめんね」
「気にするなよ。俺のせいでもあるし、早く治ってほしいから」
彼氏でもない俺が、女の子の部屋に長居するのは良くない。
そっと帰宅したけど、風呂に入っても、モヤモヤが残った。
──俺が原因かも、と思うと、気が気じゃなかった。
翌朝も同じだった。気分を切り替えるためにプールへ行き、泳いだ。
泳ぎながら思った。「俺に何か、できることはないか?」
プールを出て、少し遠くの大型スーパーへ車を走らせた。
そして午後3時ごろ、再びレナの家を訪ねる。
「え、コウジくん? どうしたの?」
「膝、大丈夫?」
「うん、おかげさまで。私が太ってるから、それが原因かも」
「そんなことないよ。あ、これ買ってきたんだ。歩くの大変だから」
俺が差し出したのは、レナが好きだと言っていたサラダパスタとおにぎり。
「ありがとう…これ、高いやつじゃん」
「俺、何にもできないからさ。許してほしいとかじゃなくて…その、なんていうか…」
レナは笑って言った。
「ねえ、中入って。これ、一緒に食べよ」
「い、いや…立ちっぱなしも辛いだろうけど、女の子の部屋に入るのはちょっと…」
「いいの。コウジくんだから。ね?」
初めて入ったレナの部屋は、整理整頓された綺麗な空間。いい匂いもした。
「ジロジロ見ないでよ」
「やっぱ女の子の部屋って、可愛いなー」
ふとレナが俺の頭をクンクン嗅いだ。
「もしかして、プール行ってきた?」
「えっ…うん。午前中ね」
「やっぱり、プールの匂いがする」
「いやー、ちゃんと風呂入ったんだけどな」
「大丈夫。私、その匂い、好きだから」
俺たちはリビングに座り、食事を始めた。
「冷蔵庫に残ってたカレーがあるんだ。一緒に食べない?」
「俺が取ってくるよ。それくらいはさせてよ」
1人前くらいのカレーを温めて、俺が買ってきたご飯と一緒にシェアした。
話に夢中になって、気づけば夜の8時を過ぎていた。
「ごめんね、長居しちゃって。そろそろ帰るよ」
「うん。ありがとう」
洗い物を済ませ、俺は玄関へ。
「じゃあ、またね」
「コウジくん、また来週もウォーキング、行こうね」
「でも、脚が…大丈夫?」
「大丈夫。治すから。だから、また一緒に歩いてくれる?」
「もちろん。行こうよ」
「それから…もう少し痩せたら、一緒にプールで泳ご?」
「うん、レナちゃんの綺麗な泳ぎ、見たいな」
「じゃあ、約束ね」
大人同士なのに、俺たちは指切りをした。
レナの手は柔らかくて、温かかった。
その夜、レナからメッセージが届いた。
「気を使わせちゃってごめんね。ありがとう。すごく嬉しかったよ」
俺はニヤニヤしながら、そのメッセージを見ていた。
口の中には、まだほんのりカレーの味が残っていた。
そういえば、カレー美味しかったな。お礼、言いそびれた。
でもまたウォーキングで会える。その時に言おう。俺の気持ちも──
……言えるかな、ちゃんと。
俺、コウジは33歳の会社員。ある日、街コンで同じ高校の同級生で、水泳部仲間だったレナと再会した。
当時マドンナ的存在だった彼女は、今はぽっちゃり体型になっていたけれど、明るさや笑顔は変わっていなかった。
そんなレナと、毎週ウォーキングに行くことになった。今日はその1回目を終えたところだ。
憧れだったレナと一緒に歩けるなんて最高だ。来週も行く約束をしている。
それから、レナは毎日、メッセージを送ってくれるようになった。お弁当の写真や、近所の風景、何気ない話題。
そのやりとりが楽しみで、俺の毎日に色がついた気がした。
家に帰ってウォーキングウェアを目にするたび、次の週末が待ち遠しくて仕方なかった。
そして土曜日。
俺はレナの家まで迎えに行くと、彼女はもう外に出ていた。
「おはよう。今日も頑張ろっか」
「おはよう。うん、今日も楽しもうね」
そんなやりとりで始まるウォーキング。歩きながら、お互いに今週の出来事を話し合う。
高校卒業以来、同級生とこんなふうに話す機会もなかったから、この時間がすごく貴重に感じる。
運動不足の解消にもなるし、ストレスも和らぐ。そして何より、レナの隣で彼女の笑顔を見ながら歩けるのが嬉しかった。
ウォーキングが終わると、レナが用意してくれたお弁当を一緒に食べるのが恒例になった。
そんな週末が、1ヶ月ほど続いたころ──
俺たちの歩くスピードは少しずつ上がってきた。
最初は1周1時間かかっていたコースも、今では10分、15分ほど短縮されるように。
水泳部だった俺たちは、自然と「タイム」が気になる性分だ。
「レナちゃん、今日はちょっと頑張って、タイム伸ばそうか」
「うん、頑張ろ」
そう言って、俺は自分の足にムチを打った。レナも負けじとついてくる。
目標タイムには届かなかったけど、確実に記録は縮まった。
「惜しかったね、コウジくん」
「うん、頑張ったんだけどなー」
息を切らせながら、いつものようにお弁当を食べた。疲れた身体に、いつも以上に染みた。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだね。レナちゃん、今日も美味しかったよ」
立ち上がろうとしたその時──
「うっ…」と、レナが小さく声を上げた。
「レナちゃん、大丈夫?」
「うん、平気。ちょっと膝がね…」
でも、その様子は明らかに“平気”ではなかった。
「肩、貸すよ」
そう言って、俺はレナの荷物を持ち、肩を差し出した。
「いいよ。私、重たいから…」
「そんなことないよ。大丈夫」
そのままレナの部屋まで送ることに。
「ここで大丈夫だから。ありがとう」
「ほんとにごめん。俺が無理させちゃったんだ」
「違うよ、それは違うから…」
「あとでまた来るから」
そう言い残し、俺は近くのドラッグストアへ走った。
詳しくはないけど、スポーツ用の湿布やテーピング、栄養ドリンクとゼリーを買って、再びレナ宅へ。
インターホンを鳴らすと、中からレナの声。
「レナちゃん、これ買ってきた。多分、効くと思う」
「ありがとう。気を使わせちゃってごめんね」
「気にするなよ。俺のせいでもあるし、早く治ってほしいから」
彼氏でもない俺が、女の子の部屋に長居するのは良くない。
そっと帰宅したけど、風呂に入っても、モヤモヤが残った。
──俺が原因かも、と思うと、気が気じゃなかった。
翌朝も同じだった。気分を切り替えるためにプールへ行き、泳いだ。
泳ぎながら思った。「俺に何か、できることはないか?」
プールを出て、少し遠くの大型スーパーへ車を走らせた。
そして午後3時ごろ、再びレナの家を訪ねる。
「え、コウジくん? どうしたの?」
「膝、大丈夫?」
「うん、おかげさまで。私が太ってるから、それが原因かも」
「そんなことないよ。あ、これ買ってきたんだ。歩くの大変だから」
俺が差し出したのは、レナが好きだと言っていたサラダパスタとおにぎり。
「ありがとう…これ、高いやつじゃん」
「俺、何にもできないからさ。許してほしいとかじゃなくて…その、なんていうか…」
レナは笑って言った。
「ねえ、中入って。これ、一緒に食べよ」
「い、いや…立ちっぱなしも辛いだろうけど、女の子の部屋に入るのはちょっと…」
「いいの。コウジくんだから。ね?」
初めて入ったレナの部屋は、整理整頓された綺麗な空間。いい匂いもした。
「ジロジロ見ないでよ」
「やっぱ女の子の部屋って、可愛いなー」
ふとレナが俺の頭をクンクン嗅いだ。
「もしかして、プール行ってきた?」
「えっ…うん。午前中ね」
「やっぱり、プールの匂いがする」
「いやー、ちゃんと風呂入ったんだけどな」
「大丈夫。私、その匂い、好きだから」
俺たちはリビングに座り、食事を始めた。
「冷蔵庫に残ってたカレーがあるんだ。一緒に食べない?」
「俺が取ってくるよ。それくらいはさせてよ」
1人前くらいのカレーを温めて、俺が買ってきたご飯と一緒にシェアした。
話に夢中になって、気づけば夜の8時を過ぎていた。
「ごめんね、長居しちゃって。そろそろ帰るよ」
「うん。ありがとう」
洗い物を済ませ、俺は玄関へ。
「じゃあ、またね」
「コウジくん、また来週もウォーキング、行こうね」
「でも、脚が…大丈夫?」
「大丈夫。治すから。だから、また一緒に歩いてくれる?」
「もちろん。行こうよ」
「それから…もう少し痩せたら、一緒にプールで泳ご?」
「うん、レナちゃんの綺麗な泳ぎ、見たいな」
「じゃあ、約束ね」
大人同士なのに、俺たちは指切りをした。
レナの手は柔らかくて、温かかった。
その夜、レナからメッセージが届いた。
「気を使わせちゃってごめんね。ありがとう。すごく嬉しかったよ」
俺はニヤニヤしながら、そのメッセージを見ていた。
口の中には、まだほんのりカレーの味が残っていた。
そういえば、カレー美味しかったな。お礼、言いそびれた。
でもまたウォーキングで会える。その時に言おう。俺の気持ちも──
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