【完結】マドンナからの愛と恋

山田森湖

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歩幅を合わせて、また君と

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歩幅を合わせて、また君と

おれ、コウジは33歳の会社員。街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在だったが、今は少しぽっちゃり体型になっていた。

それをきっかけに、レナとは毎週ウォーキングに行くようになった。
久しぶりに「泳ぎたい」と言うレナだったが、体型が気になるのか、プールはずっと敬遠していた。
そんなある日、「あと5キロ痩せたらプールに行く」と彼女は宣言した。
それから、毎日おれに体重計の写真が送られてくるようになった。

初めは戸惑って、「頑張って」としか返せなかった。
同時に、昼にはお弁当の写真も送られてくるようになった。
彩りがカラフルで、女性らしいそのお弁当はおれの楽しみでもあった。

でも最近、その内容に変化が出てきた。
彩りはあるものの、野菜中心になり、以前のような“生き生きとした”明るさが減っている。
次のウォーキングでは、レナに少し元気がないように見えた。

「レナちゃん、大丈夫? 無理しないでね」
「大丈夫だよ。さあ、頑張ろう」

病気というよりは、覇気がない。
ウォーキングの後、一緒にお弁当を食べる時間。
「おにぎり、大きさ違うね」
「炊くお米の量、間違えちゃった。大きいほう、食べていいよ」

でも、小さい方はコンビニのおにぎりよりも小さいくらいだった。
次の日も、体重は確かに減っていた。
何か言いたかったけど、デリケートなことだから言えなかった。

次の週も、弁当の中身は変わらず。
ご飯の量は、明らかに減っていた。
確かに目標の体重には近づいている。けれど、何かが違う気がした。

そして、ウォーキングの日。
レナは少し痩せて、顔がゲッソリしていた。
「おはよう、さあ行こう」
「ほ、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」

不安は的中した。
一周歩いただけで、レナは立ち上がれなかった。
貧血だった。

「レナちゃん、大丈夫?」
「うん……でも、歩かないと……」
「いやいや、今日はもう帰ろう」
「でも、痩せないと……」

そのとき、レナのお腹が鳴った。
レナは顔を真っ赤にした。
「ほら、帰ろ」
レナは黙って頷いた。

おれはレナを自宅まで送った。
部屋に入り、ベッドに寝かせると、すぐ横に水着が吊るしてあった。
競泳用の水着で、黒地にピンクや水色のストライプが入っていて、かわいいデザインだった。

「コウジくん、見ちゃった? 水着」
「あ、うん……」
「本当はサプライズにしたかったんだけどな」

「これ、買ったの?」
「うん。これ見てたら、痩せられるかなって思って……」
「そうなんだね。でも、いまの痩せ方は、よくないよ」
「わかってたんだけどさ……コウジくんと行きたくて……」

レナの目から涙がこぼれた。
聞けば、昔もこの方法で痩せたことがあったらしい。

「ごめん、俺が変なこと言ったから……」
「ダメ、謝らないで。もっと悲しくなるから……」
「……わかったよ」

おれはそっとレナの涙を拭った。
「ちょっと、買い物行ってくる。待ってて」

おれは家に戻り、栄養ドリンクやおにぎりなど、思いつくままに買い漁った。
何を買えばいいかなんて考えてなかった。
ただ、レナに元気になってほしい──それだけだった。

戻ると、レナは部屋着に着替えていた。
おれが袋から出すと、同じようなものばかり。

「……あちゃー、やりすぎたな」
「もう、コウジくんったら……」

その笑顔が見られて、ホッとした。
少し元気が戻ったことが、ただただ嬉しかった。

おれは昼過ぎまでレナのそばにいた。
というより、いたかった。
元気になった姿を、もっと見ていたかった。

次の日、レナにメッセージを送った。

『今日、夕飯一緒に行かない?』

唐突だったけど、返事は早かった。
『うん、いいよ』

「6時くらいに迎えに行くね」

迎えに行くと、レナは昨日よりもずっと元気そうだった。

「急な誘いでごめんね」
「ううん、平気。ちょうど冷蔵庫に何もなかったし」

おれたちは、前にレナが「行ってみたい」と言っていたラーメン屋に向かった。

「ここさ、行きたいって言ってたじゃん」
「うん、まぁ……そうだけど……」

「あのさ、レナちゃんは俺の太陽でいてほしいんだ。だから、元気で明るい笑顔でいてほしい」

レナは俯いた。

「もし嫌だったら、帰る?」
「……行く。ありがとう」

ラーメンと餃子、チャーハンも頼んだ。
美味しそうに食べるレナを見ていたら、食べる前からおれの腹はいっぱいだった。

帰り道、レナの買い物に付き合い、家まで送った。

「今日はありがとう」
「こんなくらい、なんてことないよ」

「……コウジくんって、なんで私にそんなに優しくしてくれるの?」

「えっ……」

言葉を詰まらせたおれの手を、レナはそっと握った。

「いつもありがとう」

そして──
レナは、おれの唇にキスをした。

「いつものお礼。でも……お礼になるかな」

「いや、その……もちろん、なるよ」

「また、来週ね」

おれは言えなかった。
少し弱ったレナに伝えるのは、今じゃない気がした。
もっと、ちゃんとした時に言いたかった。

──変な美学かもしれないな。

レナの唇、柔らかかったな。
たまに出る、よこしまな俺。
いかんいかん。ダメだぞ。
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