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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(27)KG会空手道場。
しおりを挟む前回の投稿で、二ヶ月くらい休んでから続きを、、と書きましたが、週に1~2度のペースで再開します。
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リングの中央で長い手足を伸ばしたまま大の字で失神しているNOZOMIの姿は、彼女があまりにも美しいが故に、観ている者には残酷に映った。
それを悲しそうな目で見下ろしていた渡瀬耕作は勝ち名乗りも受けずリングから黙って降りた。
(スタンディングからのパンチならば、相手が女であっても容赦しない覚悟で戦った。しかし、こうして自分よりずっと軽いまだ少女の面影を残した女の顔面を打ち砕き、失神させてしまったことは何とも言えない罪悪感がある。男が女にすることだろうか? こんな試合赦されていいのだろうか?)
そうは思っても、あそこで渾身のパンチを叩き込まなければ自分が破壊されていただろう。身の危険を感じ咄嗟に出てしまったパンチなのだ。
超人と言われたこの自分をあそこまで追い詰めたNOZOMIとは一体何者なのだろうか? 本当に女なのか?
あれは蛇だ! 恐るべき雌蛇だ。
否、異界からの使者、魔女なのだ。
渡瀬耕作は引退試合だというのに、勝ち名乗りも受けずファンの声援にも応えず不機嫌そうにリングを降りた。
現役最後の試合がこんな後味の悪いものになってしまって、渡瀬はオファーを受けたことを後悔していた。
男と女はリングで拳を交えるべきではない! NOZOMIは特殊なのだ。
メインの大田原慎二と川上力の試合は川上の打撃が大田原を追い込んだが、最後は大田原の裏投げからの絞め技で若きストライカーの挑戦を退けた。
試合後の両者のコメント。
大田原も川上も自分達の試合より、目標としてきた尊敬する渡瀬耕作が女子選手にKO負け寸前まで追い込まれたのを見てショックだったようだ。
(女が自分たちと競った、あの恐ろしく強い渡瀬さんをあそこまで追い込むなんて信じられない...)
大田原も川上も、万一、渡瀬が負けるようなことがあれば?自分たちの勝者がNOZOMIと戦う覚悟であった。苦戦したとはいえ、渡瀬耕作の逆転KO勝ちにはほっとしたであろう。
渡瀬耕作とNOZOMIの試合は各格闘技界を騒然とさせた。
美しき女子格闘家が無差別級前日本王者をあそこまで追い込んだのだ。
同じ階級ならば、男子を含めて最強はNOZOMIの可能性が極めて高い。
それに、彼女が立ち上げたNLFSには、
鎌田桃子、シルヴィア滝田という男子に引けを取らない女子格闘家もおり、
他にも控えているらしい。
このままでは男子格闘家達のメンツが立たない。女子選手に格闘技界が蹂躙されてしまう。関係者は頭を抱えた。
それと、もう一つの議論、論争も巻き起こっていた。男子vs女子の格闘技真剣勝負の是非である。
渡瀬耕作がNOZOMIの顔面を打ち抜いたパンチが、あまりにも残酷でショッキングだと映った人も多い。
男女平等でのルールに則った正式な試合とはいっても、男が女の顔面を思いっ切り殴る場面は子どもには見せられないという苦情が殺到したのだ。
あれは止めてほしい...。
それはジェンダーレスではない。
そんな論争にNOZOMIがあるマスコミの取材に答えた。
「皆さんは、男が女にあんなことをするのは残酷だ!とおっしゃいますが、渡瀬さんのあのパンチは男同士なら普通のことでしょ? 私たち女子もそれを承知の上で男子に挑戦しています。逆に、私が嶋原さんの鎖骨を砕いた時、それにシルヴィアが雷豪さんの鼻を潰した時には “女が男にあんなことをするなんて残酷だ” という声は聞こえてきませんでした。まして、私は堂島さんを失神するまで絞め吊るしたのに。それは、女は弱いから男は女を守るものという古来からの考え方があるからでしょ? 男性にとって、女性が強くあっては困るのでは? そんな保守的な考えがある限り、いつまで経っても真の男女平等はありません」
この論争はその後しばらく続く。
NLFSの門出は3戦全敗ではあったが、かなりの爪痕を残した。
だが、その後は厳しいものとなった。あんな試合を見せられたら、そんなリスクある女子との試合を受ける男子格闘家等いない。それに、男子と女子の試合は残酷で観戦に耐えないという声も大きくなってきたのだ。
このままではNLFSの経営も厳しくなっていくだろう。前途多難である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
春になると、堂島龍太は中学3年生になった。身長は173cmにもなり、中学から始めた柔道でもその才能を如何なく発揮。最上級生となり柔道部の主将を任されるほどになり、東京大会では準決勝まで進み三位になった。
幼い頃からやっているKG会の空手大会では、U15では全日本でもベスト3に入るまでになり、父が所属したキックボクシングジムでも週に一度今井トレーナーの指導を受けている。
そんな龍太以上に成長しているのが小学6年生になった妹の麻美である。
麻美は女子ながらレスリング男子のトーナメントに出場すると、都の大会で準優勝してしまいレスリング関係者の注目を集めていた。
そして、兄を追うように始めた空手ではレスリング以上の才能を発揮した。小学生では男子を含めて道場では一番強い。さすがは堂島源太郎の娘であり天性のストライカーなのだろう。最近では道場で兄とスパーリングすることもしばしば。龍太も妹の素質に驚きを隠せない。身長も162になり強く美しい少女に成長した。
そんなある日。
その日もKG会空手道場で、龍太と麻美はスパーリングをしていた。
近頃では、龍太も強くなってきた麻美に容赦がない。勿論スパーリング用フェイスガードにグローヴ付きであるが何度も麻美は兄に倒されながらも目に涙をため必死に食い下がる。
すると、そこにある訪問者が現れた。
デニムのミニスカートから伸びる脚が美しい。精悍な浅黒い肌、鍛えられた肉体に長身でスタイルが良い。かなりの美女であるが何処かで見た顔だ。
彼女は真っ直ぐ道場師範のところに向うと「押忍!」と挨拶した。
龍太と麻美が目を輝かせた。
他の道場生も同様だ。
それはケンカ空手少女との異名があったシルヴィア滝田であったからだ。
彼女も龍太、麻美と同じKG会空手出身である(横浜支部所属)。
シルヴィアは道着に着替え軽くストレッチするとしばらく道場生達の稽古を見ていたが、道場師範と何やらヒソヒソ話しを始めた。
「おい龍太! 滝田がお前とスパーリングしたいそうだ。準備しろ!」
「は、はい!」!
龍太の目が輝いた。
「堂島源太郎さんのご子息、龍太君といったわね? 5年ぶりになるのかな?
久しぶり! 随分大きくなったね...」
シルヴィア滝田といえば、昨年大晦日の格闘技戦で、あのキックボクシング界のモンスター、村椿和樹と戦い敗れたとはいえダウンを奪い熱戦を繰り広げた女である。あの敗戦以来、シルヴィアはKG会空手を辞め今ではNOZOMI率いるNLFS専属選手として総合格闘技のトレーニングも積んでいる。
それでも、たまにこうして各地のKG会道場に出稽古をしに行く。シルヴィアにとってKG空手は基本なのだ。
シルヴィア滝田と堂島龍太のスパーリングが始まろうとしていた。
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