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第七章 幸せの予約
59 補佐の事前準備(1)
しおりを挟むシャルロッテと、エイドが秘書の服を買いに町に出掛けていた頃。
ゲオルグとエカテリーナは、王宮内のサフィールの執務室に居た。
現在、サフィールの執務室には、人払いをしているため、サフィール、ゲオルグ、エカテリーナそして、サフィールの側近のジェフの4人しかいなかった。
「エカテリーナ、君の方から会いに来てくれて嬉しいよ♡」
サフィールの言葉に、エカテリーナが頭を下げた。
「サフィール王子殿下、弟とのお約束のところ、私まで突然押しかけて、誠に申し訳ございません」
「何言ってるの?? エカテリーナなら、いつ来てもいいんだよ♪ それにここには、信頼出来る者しかいない。エカテリーナ、普段のように話をしていいよ、ね♡」
サフィールが、自身の側近とゲオルグを見て笑った。
「…はい」
「もちろんでございます」
ゲオルグとサフィールの側近のジェフが答えると、エカテリーナは小さく息を吐き、疲れたように言った。
「はぁ~。わかったわ。今日は、サフィールにお礼を伝えに来たの。シャルロッテと話をしたわ。
あなたから話を聞いて知っていたつもりでいたけど、想像以上に酷い状況だったのね……。あの子を助けてくれたことには感謝するわ。でも……もう少し、早く教えて欲しかったわ」
エカテリーナの言葉に、サフィールは、執務机から立ち上がると、エカテリーナの目の前に行き、彼女の手を取った。
「友人のために必死になるエカテリーナも素敵だね~♡ でも……優しい君に、シャルロッテ嬢のことを伝えたら、すぐに彼女のために動こうとしただろう?」
「それは……」
言葉に詰まったエカテリーナに向かってサフィールは、優しく諭すように言った。
「エカテリーナの存在が、シャルロッテ嬢の救いだったんだ。それに。こちらも色々準備することがあったからね。面倒なことは俺に任せて、エカテリーナは、いつも笑ってほしいな♡」
サフィールの言葉に、エカテリーナが悔しそうな表情をしながら言った。
「そうやって、いつも1人で背負い込む……本当にあなたは……」
サフィールは困ったように笑いながら言った。
「まぁ、私は、王族だからね~~~ある程度の面倒事は……仕方ないんだよ。ああ~~でも、エカテリーナは本当に優しいな。
ねぇ、エカテリーナ。私が疲れた時は、エカテリーナが、私をたくさん褒めて、たくさんキスをしてほしいな~~♡」
サフィールがお道化た様子で、そう言うと、エカテリーナがサフィールの唇に自分の唇を寄せて口付けをした。
「え?」
これまでお道化ていたサフィールの表情が抜け落ち、真顔になった後に、頬がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
そんなサフィールを見て、エカテリーナは満足そうに笑うと、サフィールから離れながら言った。
「これで、私の話は終わったわ。サフィール、忙しいところお邪魔してごめんなさい。
ゲオルグ、私は、王妃様にご挨拶をして、先に戻るわ。では……失礼致します」
エカテリーナが、颯爽と部屋を出て行くと、ゲオルグがじっとサフィールを見ていた。そんなゲオルグに向かって、サフィールが恨みがましい視線を向けながら言った。
「何? 言いたいことがあるなら言いなよ」
ゲオルグは、気まずそうに視線を逸らしながら言った。
「いや、サフィールのそんな顔、滅多に見れないと思ってな。……身内のキスシーンは、見たくはなかったがな……」
ゲオルグの言葉を聞いたサフィールが、近くのソファーに力なく座り込んだ。
「はぁ~~。もう、エカテリーナと離れたくない……17歳にならないと婚約できないなんて!! どうして私はまだ16歳なんだ~~!! あ~~エカテリーナ……自分からしてくれたの、初めてかも……またしてくれないかな~~」
サフィールの項垂れる様子を見ていたゲオルグが、困ったように口を開いた。
「サフィール……一応、私は身内だから……その……身内のそういう話は、遠慮したいのだが……それに、後、数ヶ月で17歳になるだろう?」
「まぁ、そうなんだけどさ。はぁ、ねぇゲオルグ。いつまで立ってるの? 早く座りなよ」
サフィールは、ソファーに座ったままゲオルグを見上げながら言った。
「ああ」
ゲオルグが、ソファーに座ると、サフィールがジェフに視線を送った。すると、ジェフにはそれだけで伝わったようで、大量の書類を束ねた物をテーブルに置いた。
「さてと、ゲオルグ、用意しておいたよ」
「ああ、すまないな」
ゲオルグがテーブルに、置かれた書類に目を通しながら、唖然としながら言った。
「なんだ……これは……!! シャルロッテは、幼い頃からこんなことをやらされていたのか?!」
現在、Sクラスでトップクラスの成績を維持しているゲオルグでさえ、完全に理解するのは難しいと思えるほどの書類が目の前に積まれていた。
これは、シャルロッテが普段、宝石を国内外にどのように分配をするべきか決める指針になる書類だった。
国内の富の分布や、流行の情報。国外の貿易状況や、宝石の流通情報。そして、宝石の売れ行きや、他国の宝石の産出情報など、信じられないほど、多種多様な情報が書かれた書類だった。
そして、それらと一緒に、ホフマン伯爵家の紋の入った紙に宝石の種類と流通提案書が付けられていた。
ずっと、達筆な男性の字だったが、2年ほど前から、女性のような読みやすい字に代わっていた。
「まぁ、彼女が本格的に、この書類を見ながら仕事を始めたのはきっと、貴族学院に入る少し前くらいだろうけどね」
サフィールが息を吐きながら言った。
ゲオルグは、青い顔をしながら、手元の書類を見ながら呟いた。
「これを、シャルロッテが?! ……だが、これほどのことをしていたシャルロッテにとっては、Sクラスの代表生徒に選ばれることなど、造作もないことだろうな……」
顔を曇らせたゲオルグに向かって、サフィールがからかうような視線を向けた。
「あれ? 少し心折れそうになってる?」
「そんなことはない」
ゲオルグが力強く言うと、サフィールが全く笑っていない目で笑いながら言った。
「そんなゲオルグに、絶対に頑張れるようなお話、聞かせてあげようか?」
「ん? 絶対に頑張れる話?」
「そう。聞きたい?」
「ああ」
ゲオルグが頷くと、サフィールが声は穏やかだが、瞳に怒りを宿しながら話を始めた。
「じゃあ、聞かせてあげるね。これはシャルロッテ嬢がお休みしていて、エカテリーナと君が、彼女の仕事場のことで学院にいなかった時の話なんだけどね……」
☆==☆==
これは、シャルロッテが、ハンスに婚約破棄を告げられた翌々日。
――Sクラスの昼休憩時間。
その日は、シャルロッテは、まだ学院を休んでおり、ゲオルグとエカテリーナは、シャルロッテの新しい仕事場について、ランゲ侯爵家で話合いをするために、午前で学院を早退した。
サフィールは、1人でサロンで食事をしながら、仕事をしようと学院の廊下を歩いていた。
すると、意外な人物が立っていた。
「サフィール王子殿下。少々よろしいでしょうか?」
「君は…………」
「お初にお目にかかります。私はホフマン伯爵家のハンス・ホフマンと申します。
失礼だとは、充分に承知しておりますが、どうしても、サフィール王子殿下にお話したいことがございます」
サフィールの目の前に立っていたのは、先日、シャルロッテとの婚約破棄をしたホフマン伯爵家のハンスだった。
サフィールは、心の中で『宝石の譲渡の件で恨み事でも言いに来たのか?』とげんなりしたが、ここで余計にこじらせて禍根を残すのも厄介なので、王家の護衛や執事も控えているサロンで、とりあえず話をすることにした。
「私も今は、一学生だ、それでもよければ、話を聞こう」
サフィールは、暗に自分は王族としてではなく、学院に通う学生として雑談するだけだと伝えた。
「それで構いません」
ハンスは力強く頷いた。
「じゃあ、サロンに行こうか」
「ありがとうございます」
こうして、サフィールは、ハンスとサロンに向かったのだった。
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