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第17話 ふたりの試験対策
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(ふぅ~。いい湯だった。お風呂は人類の英知の塊だよな)
異世界でもお風呂というものは存在していた。しかし異世界のお風呂は王族や貴族などの金持ちが楽しむものであって、一般人には贅沢として認識されていたので普及していなかった。そのため僕たちも月に一度ほどの入浴以外は濡らした布で体を拭くだけであったのだ。毎日のようにお風呂に入れることのなんと贅沢な事か。
異世界での辛かった?記憶を思い出しながらお風呂が空いたことを伝えようとリビングに戻ると、ふたりは学園で支給されたデバイスとにらめっこしていた。
「あ、おにぃ。お風呂空いた?」
「ああ、上がったから次入っていいよ。ところでふたりは何してるところだったの?」
「私たちは次の試験の対策について話し合っていたんです」
学園のデバイスを使って何をしているのか気になり尋ねてみたところ、どうやらふたりは次に行われる試験対策をしていたようだ。デバイスを使っているところから察するに、この場合の試験というのは冒険者関連のものであると考えられる。
「冒険者学園の試験ってどういうことをするんだ?」
試験対策をするふたりを邪魔するつもりはないが純粋な興味から尋ねてみた。もしかしたら自分の冒険者等級を上げるのに役立つ情報が得られるかもしれない。
「う~ん……。これと言って決まった内容はなくて、ダンジョン探索の様子をみて初心者っぽくなくなってたら昇格みたいな感じ?」
「……ダンジョン探索の計画を提出して、探索の安定性、戦闘能力、危機管理能力などを総合的に評価して、一定の基準を上回っていたら合格となっているみたいです」
妹の感覚的な答えに首をひねっていたところ、それを見かねたのかすみれちゃんが内容を分かりやすくまとめて教えてくれる。
どうやら銅級から鉄級に上がるためには試験官の前でダンジョン探索の実力を証明しなければいけないようだ。モンスターを指定数倒してこい、魔石を指定量持ってこいなどの試験を想定していたため試験内容は少し意外であった。
「それで今はダンジョン探索の計画を立ててるんだけどね~、ちょっとどうしようか悩んでて」
「何か問題でもあるのか?」
「今の時期は学園ダンジョンの1階に潜る人が多いみたいで獲物の取り合いになっちゃうみたいなんだよね。そうなると手に入る成果が微妙になって試験に合格できないかもしれないし、だからといって2階に潜るとふたりだと安定して探索できる自信はないし……」
安定して探索できる1階ではライバルが多すぎて、ライバルが減る2階では安定性に欠けるということか。しかしダンジョン探索の日程は自分たちで決められるようなので、ある程度落ち着いてから挑めばいいのではないであろうか。
「そうだとしたら1階に潜る人が減るまで試験を延期するしかないんじゃないか?」
「一応ギリギリまではそうするつもりだけど……」
僕の提案に歯切れの悪い返事を返す妹。どうやら問題はそう簡単に解決しないようである。
「私たちの試験の期限は今月いっぱいまでなんですけど、1階に人が溢れるのも昨年の傾向を見ると来月頭まで続くみたいなんです」
「そうなると時間をかけても状況は変わらない可能性もあるのか……」
「今回の試験を逃すと次の試験は半年後になっちゃうし……どうしようかなぁ」
どうやら昨年と同じような状況だと仮定すると試験の期限とダンジョンの状況がかみ合ってしまい、時間を置いても事態は好転しないようだ。
この時期にダンジョンの1階が混むようになる要因の一つは、高等部1年生のFクラスであることは容易に想像できる。半年で一定の成果を残さない生徒は退学であると半ば脅しのようなことを言われているため必死にならざるを得ないのだ。
何とかしてあげたいところであるが学園のダンジョンも試験にも詳しくない僕に出せる案などそもそも存在しない。
今まで頭を抱えてうなっていた妹のうなり声がピタリと止まり、勢いよく立ち上がる。立ち上がった妹の表情は晴れやかで、はたから見ると何か良い解決案が出たのかと期待を膨らませるところであるが、妹は一味違う。
「だめだ、何も思いつかない!こういう時は甘いものを食べよう!」
予想通りの行動にそっとため息をつく。こういう時の妹は大抵考えることをやめて欲望のままに行動をし始めるのだ。
スキップをしながら冷蔵庫に入っているプリンを取り出す妹。手に持った2つのプリンを自分と隣に座るすみれちゃんの目の前に置く。どうやら僕のプリンは存在していなかったようだ。
「一旦探索の計画は置いておいて訓練を積もう!2階でも余裕ができる程の実力になれるかもしれないし」
「急に運頼み且つ未来の自分頼りの計画になったな」
「いいの!若い私たちの未来には無限の可能性が広がってるんだから!」
「……なんかカッコイイことを言った勢いで誤魔化そうとしてないか?」
妹は名台詞のようなものを口にした後にプリンを食べ始める。今までの経験上こうして思考放棄した妹が再度難しいことを考えるには時間がかかる。
「……このプリンはお兄さんのでは?」
「あぁ、気にせず食べちゃっていいよ。あんまり根を詰めないようにね」
しかし妹がいうことも一理あり、考えても良い案が出ないのであれば気持ちを切り替えることも大事だ。僕の分のプリンがその一助になるのであれば悔いはない。
妹とは違い試験のことを限界まで悩みそうなすみれちゃんにあまり無理をしないように告げて自分の部屋に戻る。ベッドの上に転がっているデバイスをみて、そういえば自分も情報収集をしようとしていたことを思い出しデバイスを手に取りなおす。
まずは学園ダンジョンの地図を確認してみるとどうやら地下5階までデータが登録されているようである。しかしデバイスから得られた地図は上層と下層をつなぐ階段までの最短ルートとその付近の通路を少し記してあるだけの不完全なものであった。
「完全な地図は登録されてないんだなぁ……。1階ですら半分くらい黒塗りじゃん」
パーティー毎に地図を確保していてデバイスには最低限の地図しか登録されていないのだろうか?ゲームでもマップはしっかり埋める探索してから進める派の人間なので、この未確認となっている黒塗りの部分が非常に気になってしまう。
どうしてこのような地図になっているのか気になりさらに調べてみると、どうやら次の階層への最短ルートとそこに近い効率の良い狩場が地図に記されているようであった。
「最短ルート付近というのも危なくなった時に人が多い通路に逃げ込めるため、かぁ。……なるほどなぁ」
どうやら地図に記されていない場所は一般的には安全性もわからず、その階層で見たことのないモンスターを見かけた等の情報も載っていた。このような情報をみてわざわざ探索する人はおらず地図も埋まっていかないといった悪循環なのであろうか?そもそも誰も地図を共有していないだけの可能性もある。
「明日からの探索は未確認の場所を見ていくのもいいかな」
ひとまずの探索の方針を考え就寝するまでの時間を部屋の勉強机でペンを手に取り作業をするのであった。
異世界でもお風呂というものは存在していた。しかし異世界のお風呂は王族や貴族などの金持ちが楽しむものであって、一般人には贅沢として認識されていたので普及していなかった。そのため僕たちも月に一度ほどの入浴以外は濡らした布で体を拭くだけであったのだ。毎日のようにお風呂に入れることのなんと贅沢な事か。
異世界での辛かった?記憶を思い出しながらお風呂が空いたことを伝えようとリビングに戻ると、ふたりは学園で支給されたデバイスとにらめっこしていた。
「あ、おにぃ。お風呂空いた?」
「ああ、上がったから次入っていいよ。ところでふたりは何してるところだったの?」
「私たちは次の試験の対策について話し合っていたんです」
学園のデバイスを使って何をしているのか気になり尋ねてみたところ、どうやらふたりは次に行われる試験対策をしていたようだ。デバイスを使っているところから察するに、この場合の試験というのは冒険者関連のものであると考えられる。
「冒険者学園の試験ってどういうことをするんだ?」
試験対策をするふたりを邪魔するつもりはないが純粋な興味から尋ねてみた。もしかしたら自分の冒険者等級を上げるのに役立つ情報が得られるかもしれない。
「う~ん……。これと言って決まった内容はなくて、ダンジョン探索の様子をみて初心者っぽくなくなってたら昇格みたいな感じ?」
「……ダンジョン探索の計画を提出して、探索の安定性、戦闘能力、危機管理能力などを総合的に評価して、一定の基準を上回っていたら合格となっているみたいです」
妹の感覚的な答えに首をひねっていたところ、それを見かねたのかすみれちゃんが内容を分かりやすくまとめて教えてくれる。
どうやら銅級から鉄級に上がるためには試験官の前でダンジョン探索の実力を証明しなければいけないようだ。モンスターを指定数倒してこい、魔石を指定量持ってこいなどの試験を想定していたため試験内容は少し意外であった。
「それで今はダンジョン探索の計画を立ててるんだけどね~、ちょっとどうしようか悩んでて」
「何か問題でもあるのか?」
「今の時期は学園ダンジョンの1階に潜る人が多いみたいで獲物の取り合いになっちゃうみたいなんだよね。そうなると手に入る成果が微妙になって試験に合格できないかもしれないし、だからといって2階に潜るとふたりだと安定して探索できる自信はないし……」
安定して探索できる1階ではライバルが多すぎて、ライバルが減る2階では安定性に欠けるということか。しかしダンジョン探索の日程は自分たちで決められるようなので、ある程度落ち着いてから挑めばいいのではないであろうか。
「そうだとしたら1階に潜る人が減るまで試験を延期するしかないんじゃないか?」
「一応ギリギリまではそうするつもりだけど……」
僕の提案に歯切れの悪い返事を返す妹。どうやら問題はそう簡単に解決しないようである。
「私たちの試験の期限は今月いっぱいまでなんですけど、1階に人が溢れるのも昨年の傾向を見ると来月頭まで続くみたいなんです」
「そうなると時間をかけても状況は変わらない可能性もあるのか……」
「今回の試験を逃すと次の試験は半年後になっちゃうし……どうしようかなぁ」
どうやら昨年と同じような状況だと仮定すると試験の期限とダンジョンの状況がかみ合ってしまい、時間を置いても事態は好転しないようだ。
この時期にダンジョンの1階が混むようになる要因の一つは、高等部1年生のFクラスであることは容易に想像できる。半年で一定の成果を残さない生徒は退学であると半ば脅しのようなことを言われているため必死にならざるを得ないのだ。
何とかしてあげたいところであるが学園のダンジョンも試験にも詳しくない僕に出せる案などそもそも存在しない。
今まで頭を抱えてうなっていた妹のうなり声がピタリと止まり、勢いよく立ち上がる。立ち上がった妹の表情は晴れやかで、はたから見ると何か良い解決案が出たのかと期待を膨らませるところであるが、妹は一味違う。
「だめだ、何も思いつかない!こういう時は甘いものを食べよう!」
予想通りの行動にそっとため息をつく。こういう時の妹は大抵考えることをやめて欲望のままに行動をし始めるのだ。
スキップをしながら冷蔵庫に入っているプリンを取り出す妹。手に持った2つのプリンを自分と隣に座るすみれちゃんの目の前に置く。どうやら僕のプリンは存在していなかったようだ。
「一旦探索の計画は置いておいて訓練を積もう!2階でも余裕ができる程の実力になれるかもしれないし」
「急に運頼み且つ未来の自分頼りの計画になったな」
「いいの!若い私たちの未来には無限の可能性が広がってるんだから!」
「……なんかカッコイイことを言った勢いで誤魔化そうとしてないか?」
妹は名台詞のようなものを口にした後にプリンを食べ始める。今までの経験上こうして思考放棄した妹が再度難しいことを考えるには時間がかかる。
「……このプリンはお兄さんのでは?」
「あぁ、気にせず食べちゃっていいよ。あんまり根を詰めないようにね」
しかし妹がいうことも一理あり、考えても良い案が出ないのであれば気持ちを切り替えることも大事だ。僕の分のプリンがその一助になるのであれば悔いはない。
妹とは違い試験のことを限界まで悩みそうなすみれちゃんにあまり無理をしないように告げて自分の部屋に戻る。ベッドの上に転がっているデバイスをみて、そういえば自分も情報収集をしようとしていたことを思い出しデバイスを手に取りなおす。
まずは学園ダンジョンの地図を確認してみるとどうやら地下5階までデータが登録されているようである。しかしデバイスから得られた地図は上層と下層をつなぐ階段までの最短ルートとその付近の通路を少し記してあるだけの不完全なものであった。
「完全な地図は登録されてないんだなぁ……。1階ですら半分くらい黒塗りじゃん」
パーティー毎に地図を確保していてデバイスには最低限の地図しか登録されていないのだろうか?ゲームでもマップはしっかり埋める探索してから進める派の人間なので、この未確認となっている黒塗りの部分が非常に気になってしまう。
どうしてこのような地図になっているのか気になりさらに調べてみると、どうやら次の階層への最短ルートとそこに近い効率の良い狩場が地図に記されているようであった。
「最短ルート付近というのも危なくなった時に人が多い通路に逃げ込めるため、かぁ。……なるほどなぁ」
どうやら地図に記されていない場所は一般的には安全性もわからず、その階層で見たことのないモンスターを見かけた等の情報も載っていた。このような情報をみてわざわざ探索する人はおらず地図も埋まっていかないといった悪循環なのであろうか?そもそも誰も地図を共有していないだけの可能性もある。
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