異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第16話 3人での食卓

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 夕飯の材料を買いにきた駅前のスーパーは、夕方という時間帯もあり結構な数の客がいて賑わっていた。

 僕はひとまずカレーに使うカレールーを手に持っている買い物カゴにいれて他に買うものがないか思案する。今日の支払い分は自分の財布からなくなってしまうので不要なものを買う余裕などない。

 しかし妹は食後のデザートとして食べるのであろうプリンを持ってきてカゴに入れてくる。プリンは2つあるので僕の分も持ってくる程度の気遣いはできるようだ。

 カレールーだけをカゴに入れてレジに並ぶことを想像すると少しだけ気恥ずかしかったため、食後のデザートを買うことを容認する。さらに僕はあることを思い出し牛乳を1本買うことにした。

「おにぃ、もしかしてだけどカレーに牛乳を使うの?」

「違うよ。これは僕が飲む用」

「ふ~ん、自分用なんだ。じゃあいいや」

 カレーに牛乳を使うわけではないと理解した妹はそれ以上の追求はしてこなかった。プリンだってカレーに使わないだろうに。

 僕は異世界で4年の月日を過ごしたので、あちらでは19歳まで歳を重ねたことになる。今は15歳の体に戻っているが、実のところ身長があまり変わっていないのである。しっかり測ったわけではないが目線が変わっていないのだ。

 そうなると現在の160センチ台前半の身長が4年間で変わっていないことになる。もう少し背丈が欲しいと思っているため結果が変わらないとしても牛乳に相談することにしたのだ。

 レジにて商品の会計を済ませてスーパーを出ると、入口に見知った顔がいることに気が付く。

「こんばんわ、すみれちゃん。夕飯のお買い物かな?」

「あれ?すみれだ!さっき振り!こんな時間にひとりで買い物なんて珍しいね」

「こ、こんばんわ。ちょっと今日は両親がいなくて……」

 同じスーパーに買い物に来ていたすみれちゃんの話を聞くと、出張に出ていた両親の帰り際でトラブルがあって帰ることが出来なくなり今夜は家にひとりになってしまったらしい。それで自分が作る料理の材料を買いに来たようだ。

「それじゃあうちに来て一緒にご飯食べよ!人数が多いほうが美味しいよ!!なんなら昔みたいに今日は泊っていけばいいよ!!!」

「そ、それは……いろいろと迷惑じゃないかな?」

「全然迷惑なんかじゃないよ!そうだよね?おにぃ」

 妹の畳みかけるような言葉の嵐に圧倒されるすみれちゃん。何とか口から絞り出た言葉は迷惑をかけてしまうのではという心配であった。

「どちらかというと、今迷惑をかけてるのは瑠璃のほうだな。ただ夕食を一緒にするのは問題ないけど泊まりとなるとご家族に承諾をとったほうがいいかな」

 食事を共にすることは口に合うか、ということ以外には特に問題はない。しかし年頃の娘さんを1日預かるとなると流石にご両親の許可をとらなければならなくなり、僕等が判断できるものではないだろう。

「え~、そんなこと言うおにぃにはプリンはあげない!すみれはとりあえず泊まりのことは置いといてご飯だけでも食べにおいでよ」

「え、えっと……それじゃあお言葉に甘えさせてもらいます」

 うちに夕食を食べに来ることになったすみれちゃんは一度荷物を置きに自宅に戻ることにした。妹も付き添っていったため、一足先に家に着いた僕は夕飯の準備に取り掛かかることにする。

 玉ねぎ、にんじん、じゃがいもの野菜をカットし、肉、野菜の順番で鍋で炒める。炒め終わったら水を加えて野菜が柔らかくなるまで煮る。アクをとりながら野菜が柔らかくなったことを確認して、火を止めた後にカレールーを入れて混ぜながら再度煮込む。

 カレーの良いにおいがキッチンに漂い始め、空腹を刺激し始めてきたころに妹たちが帰ってきた。

「ただいま~。あれ、カレーもう出来てる!?手伝うつもりだったのに~」

「おかえり。もうそろそろ出来上がるから先に手を洗ってきなさい」

「はい!」

 夕飯を楽しみにしている妹は元気に返事をして急いで洗面所に手を洗いに向かう。その後に入れ違いですみれちゃんがリビングに入ってくる。

「お邪魔します。お夕飯の準備を1人でさせてしまってごめんなさい」

「すみれちゃんはお客さんなんだからそんなことを気にする必要ないよ」

「ありがとうございます。私も手を洗いに行ってきますね」

 すみれちゃんは手に持っていた大きめのカバンを置いてリビングから出ていく。その間に人数分のカレーライスを皿によそいリビングのテーブルに並べ、準備を終えたところで妹たちがリビングに戻ってきたのでそのまま食事を開始する。

「「「いただきます」」」

 挨拶を終えてカレーライスを口に運ぶ。……うん、いつも通りの味だ。いや、4年振りなので懐かしい味と言えなくもない。

 目の前にいるふたりの様子を見ると妹はいつものように幸せそうにカレーライスを平らげていき、妹の隣にいるすみれちゃんもおいしそうに食べている。どうやらお口にあったようで何よりだ。

「おいしいです。お兄さんはお料理が得意なんですね」

「ありがとう。でも得意というわけではないかな。レシピの通りに作ってるだけだよ」

「いいや!今日のおにぃのカレーはいつもよりおいしい気がする!う~ん……何年間か修業した?」

「……そんな修行するような時間あるわけないだろ」

 妹の鋭い指摘にドキリとして少し返事に詰まったが平静を装って無難な答えを返す。確かに異世界で勇者の皆といる間は榊原さんと分担して、師匠といるときはほぼ毎日のように料理を作っていたのでその経験値が反映されたのかもしれない。……そうだとしても妹の勘は鋭すぎる気がする。

「それじゃあ、すみれが来るから気持ちがこもっておいしくなったのかなぁ」

「まぁ、そういうことでいいんじゃないか」

 異世界で過ごしている間に料理が上手くなった、などとは言えるわけもないので適当に話を流して誤魔化す。自分だけでなく他の人が食べるとなると失敗してはいけないと料理に気合が入るしあながち間違いではないだろう。

 そうして食事を終えた後に使った食器を洗いながら、すみれちゃんを家まで送っていこうかと考えたとき彼女が持っていた大きい荷物を思い出す。

「そういえばすみれちゃんは今日は泊っていくの?」

「はい。両親に確認をとったところ、いいよって言ってくれたので」

「こっちもお母さんに確認とったよ!」

 どうやらすでにふたりで彼女の両親とうちの母親にも話を通して許可を取っていたらしい。こういう時の妹は行動が恐ろしく速い。だが、僕にも一言くれたらいいのになぁと思わなくもない。

(すみれちゃんが泊るとなると送り届ける必要がなくなるわけだな。……外に出かける予定もなくなったし風呂に入るか)

 僕は夜お風呂に入った後は極力外に出かけない派の人間なので、逆に言うと外に出る予定がなくなったということはお風呂に入れるということだ。

「そうか、それじゃあ今日はゆっくりしていってね」

 洗った食器を水切りラックに並べた後に、次は自分を洗浄するためにお風呂に向かった。
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