異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第18話 朝食はトーストonチーズハム

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 就寝する前にセットしていたアラームを止めて目を覚ます。昨夜はいつもより遅い時間まで作業をしていたので、うまく眠気がとれておらずあくびが出てくる。

「ふぁぁ。……昨日は遅くまで作業をしすぎたな」

 ベッドから起きあがり軽く体を伸ばすことで眠気を取り払う。頭はまだぼんやりとしているがいつものように妹を起こしに部屋の前まで足を運ぶ。

「瑠璃~朝だぞ、起きろ~」

 扉をノックして部屋の中に声をかける。しかしこの行動で妹が起きたためしはないため、部屋の中から返事が返ってくることはない。

「……仕方ない、入るぞ~」

 妹を声だけでなく直接起こそうと部屋の扉に手をかけた時に、妹の友達であるすみれちゃんが泊っていたことを思い出す。

 家族ではない年頃の女の子の寝ている部屋に入り込むのは非常に不味い。一瞬で脳が覚醒した僕は、部屋に入る直前で思い出した自分を心の中で褒めたたえドアノブからそっと手を離す。

 妹たちを起こすのは母親に任せることにしよう。そう考えて朝食を食べにリビングへ向かうと、ちょうど両親が朝の準備を終えていたところであった。

「おはよう。父さん、母さん」

「おはよう。今日はちゃんと起きれたのね」

「昨日は目覚ましをセットし忘れてただけだって……。それはそうと瑠璃を起こしに行ってもらっていい?さすがに今日は部屋に入るわけにはいかなくて……」

「そういえばすみれちゃんがいたわね。あなたがそういう気遣いが出来てお母さんは助かっちゃうわ」

 両親と朝の挨拶をかわし、母親に妹たちのことを任せる。これで少ししたら妹たちはリビングに顔を出すであろう。

 自分の朝食として食パンにマーガリンを塗り、チーズとハムを乗せてトースターに入れて焼く。牛乳を飲みながら焼きあがるのを待っている間にこちらの様子を見ていた父親が声をかけてくる。

「なんか以前に比べて手際が良くなってるな。料理ができる男性はモテるらしいけども優人はどうなんだ?」

「それって料理の腕を披露する機会がないとダメじゃない?」

「確かにそうだな……。じゃあ今度はお前が女の子を家に招待して料理を振舞うしかないな。母さんに及ばないにしても昨日のカレーはうまかったぞ」

「そりゃどうも。そんな機会こそないと思うけどね」

 父親とこれからも起こりえないシチュエーションの話を冗談交じりに話す。そもそも家に招待できるほど仲が良い女友達を作る時点でハードルが高すぎる気がする。

「起こしてきたわよ。それじゃあ私たちはもう仕事に行くからあとはよろしくね」

「了解。行ってらっしゃい、気を付けてね」

 妹たちを起こしてきた母親と父親は鞄を持ちふたり仲良く仕事に出かける。玄関で見送り先ほど準備していた朝食を食べ、妹たちの分の朝食を準備してトースターの中に入れておく。

「……おにぃ。おはよう」

「おはようございます。おにいさん」

「ふたりともおはよう。トースターの中にトーストが入ってるから焼いて食べちゃって」

「ありがとうございます、いただきますね」

 いつもは元気いっぱいの妹であるが、朝に弱いので起きてからの数十分間はご覧のようにおとなしい。それとは対照的にすみれちゃんは身だしなみも整えていて、朝からいつも通りの様子である。

 朝食がトースターの中に入っているのを告げた後に自分の朝の準備を続ける。……準備と言っても歯を磨く、顔を洗う、着替えるだけの単純な作業なのでさほど時間はかからない。

 準備を終えた後は家を出る時間まで適当に本を読んで過ごす。朝食で使用した食器を洗い玄関に向かうと準備を終えた瑠璃たちが待っていた。どうやら今日も一緒に登校する気のようである。

「今日も一緒に登校するの?」

「当たり前でしょ!行き先が一緒なんだから!」

 いつもの元気な様子になった妹を見て、思春期に見られる反抗期が来るのはまだまだ先なのかなと思うのであった。



 3人で他愛のない話をしながら仲良く学園に登校する。他愛のない話をしながらといったが、僕は妹とすみれちゃんのふたりが話しているのに相槌をうっているだけであった。

 校門でふたりと別れ、自分の教室に向かい自分の席に座る。今日は授業を終えて放課後になったらダンジョン探索をするつもりであったので学園ダンジョンへの入場申請をしておこうとデバイスを操作する。

 入場申請にはパーティーメンバーを記載する欄があったので少し考えて申請を中断する。……もしかしたら放課後までにパーティーを組む機会があるかもしれない。

 無意識に霜月さんの席に視線を向けるが、彼女はまだ登校していないのか席は空席であった。

「ねえ、君は昨日霜月さんと一緒にいたよね?もしかして前からの知り合いなの?」

 霜月さんの席から視線を前に戻したタイミングでクラスメイトから声をかけられる。

「いいや、昨日の入学式で知り合ったばかりだけど……」

「ちっ、なんだよ……。紹介してもらおうかと思ったんだけどな」

 どうやら彼は僕ではなく霜月さんに用があるらしく、僕に声をかけたのは彼女にお近づきになる足がかりにしようとしているようであった。猫をかぶっていたのであろう、彼女と僕が以前からの知り合いではないと知った瞬間から態度が変わる。

「なあ、じゃあ彼女とはパーティーを組んでいないのか?」

「そういう話はしてないね」

「よし。じゃあ俺たちが彼女を誘うからお前は邪魔するなよ」

 そう言い残して彼は離れて様子を伺っていた仲間であろう二人組のもとに向かっていった。

「なんか、昨日知り合ったばっかで紹介できないらしいぞ」

「なんだよ、アイツつかえね~じゃん」

「でもパーティーも組んでないみたいだし、俺たちのほうでパーティーにとってやろうぜ」

 合流した三人組はこちらにも聞こえる声でこれからの行動予定を話し始める。確かに霜月さんは美少女なので男子としては仲良くなりたいのであろう。誰とパーティーを組むのかは自由なので、彼女の選択次第では彼らとパーティーを組むことになるであろう。

 僕も霜月さんをパーティーを組む候補として考えていたからか、もしくはクラスメイトに馬鹿にされたからかわからないが少し心にモヤついたものを感じていた。

 その感情をはっきりと認識する前に教室が少しざわつき始める。何かあったのかと教室の入口を見ると、昨日ダンジョンに入っていった3人組が教室に入ってきたところであった。おそらくざわつきの原因は、3人組のうちのひとりが腕と頭に包帯を巻いていたことだろう。

「おい、もしかして本当に昨日ダンジョンにいって怪我をしたのか?」

「……ああ、結果的にはそうだ。だけどみんなにはこの怪我を負った理由を話しておきたいんだ。どうだろう、聞いてくれないか?」

 怪我を負ったクラスメイトが深刻そうに話を切り出す。皆ダンジョンでモンスターに襲われ怪我をしただけだろうと高を括っていた。

 しかしその話は僕達外部生に向ける悪意が存在している事を証明するような内容であった。
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