異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第68話 情報の出処

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「ごめん……今日はダンジョンいけそうにない」

「それはいいけど……体調は大丈夫そう?」

「安静にしてれば……多分?」

 朝の教室でパーティーメンバーである霜月さんと今日のダンジョン探索の予定を打ち合わせようとしたのだが、彼女はダンジョン探索が出来そうにない体調であった。元々運動が苦手である彼女が昨日の訓練を全力で頑張った結果……筋肉痛になったようである。

 いつものように表情に変化は見られないが体を動かす際にギクシャクとした動きをしている。そのような姿を見ていると体を突っついてちょっかいをかけたくなる気持ちが湧き上がってきてしまうが、相手は女性であるためそのような行為をするわけにはいかずどうにか悪戯心を抑え込む。……女性と言えども妹の瑠璃相手であれば間違いなくちょっかいをかけていただろう。

「それじゃあ今日はお休みにしよう」

「……ごめんね」

「問題ないよ。たまには休みを取らないとね」

 流石にこのような状態の霜月さんをダンジョン探索に連れ出すわけにはいかないため、今日のダンジョン探索は休みということにする。ソロでダンジョンに潜るという手もあるのだが、地図を作成していた時のように急ぎの用事があるわけでもないので僕も休息を取らせてもらうことにしよう。

「小鳥遊君と霜月さん、ちょっといいかな?」

「どうしたの?大河君」

 霜月さんと放課後の予定を確認し終えたところにトラ君が声をかけてくる。真剣そうな表情を見る限りでは軽い雑談では終わらなそうである。

「君たちのパーティーが2階層に挑戦したって聞いたんだけど、僕たちでも探索が出来そうか君たちの所感を聞きたくて……」

「……1階層と違ってモンスターの数が多い上に好戦的だから、人数と装備をしっかりと揃えることが出来れば何とかなるんじゃないかな?」

「でも君たちはふたりで探索をしていたんじゃないのかい?」

「別にふたりでも複数のモンスター相手にうまく立ち回れるなら問題はないと思うよ。でもそれはまだ難しいだろうから人数を集めたほうが無難じゃないかな?」

 どうやらトラ君は何処からか僕らが2階層に挑戦した情報を手に入れたようで、自分たちでも2階層を探索できそうか意見を聞きに来たようだ。デバイスから得られる情報よりも実体験した僕たちに聞いたほうが手っ取り早いと判断したのかもしれない。

 その質問に対してモンスターの数に対応できる人数を揃えることが重要であることを伝える。僕たちのように少ない人数で探索するのは不可能だとは思うが、しっかりと頭数を揃えれば2階層のモンスターに対応することは今の彼らでも不可能ではないだろう。実際に前衛が2人以上いれば安定感は増すはずだし、火力が足りずに増援を呼ばれてしまった場合は逃げればよい。

「そうか、モンスターの数に対応できる人数が重要なんだね。ありがとう。クラスの皆にはそれとなく伝えておくとするよ」

「それなら僕からも一つクラスメイトに注意してほしいことがあるんだけど……」

 トラ君のいう僕たちというのはクラスメイト全員を指していたようだったので、先日ダンジョンで起きたAクラスの御子柴君とのいざこざをトラ君に話す。詳細は省いたが彼らが1階層の狩場を独占することを止めたらしい事と、こちらに魔法を放ってくるかもしれない可能性があることを伝える。ダンジョン内で上位クラスのパーティーに襲撃されるおそれがあるかもしれないと意識することで、クラスメイトには自衛の心構えを持ってもらわなければならない。

「わかった……。それもクラスの皆に伝えておくよ。人通りの少ない場所を探索するのは控えたほうがいいかもしれないね」

「ありがとう。よろしく頼むよ」

 トラ君は僕の話を聞いて快くクラスメイトへの注意喚起を引き受けてくれる。これでダンジョン内でのトラブルが未然に防ぐことが出来ればいいのだが。

(それにしても僕たちが2階層を探索した情報をどこで手に入れたんだろう?)

 先ほどのトラ君は僕たちが2階層を探索したことを確信しているような口振りであったが、僕たちがダンジョン探索をしていた際に彼らとは出会っておらず、彼が言っていたように誰かから情報を手に入れたのだろう。

 ここで思い当たる人物は2階層を探索する直前に出会った御子柴君達のパーティーの誰か、またはその時にすれ違ったフードで顔を隠していた人物である。しかしトラ君が彼らと関わりを持っているとは考えづらく、僕が気づいていないだけでたまたまクラスメイトの誰かに見られていたのかもしれない。

「……考え事?」

「ああ、大河君はどこで僕たちが2階層に行った情報を手に入れたのかと思って……」

「……多分、買取所だと思う」

 情報の出処を考えこんでいる僕に声をかけてきた霜月さんは、僕が見落としていた可能性を示してくれる。確かにあの日の買取所の担当は隠岐さんではなかった。普段であれば隠岐さんと交わした取引という名のサービスにより僕の情報が漏れないように徹底してくれているので、その可能性は頭から抜けていたのだ。

 霜月さんの言葉を聞き買取所の職員から情報を手に入れたと考えるのが一番しっくりくる。トラ君がどういった理由で僕たちの情報を手に入れたかは不明であるが、情報収集のために買取所の職員を利用すること自体は良いことであると思う。彼は情報の重要性を理解しているのだろう。

「確かに……そこは盲点だったな」

「……勝手に探られてるのは、いい気分じゃない」

「そうだね。でも僕たちがクラス内では一番探索が進んでるってことなんだと思うよ」

 トラ君が僕たちに直接話を聞きに来た時点でこちらの情報を探っていたことがバレることは覚悟していたはずである。それを差し引いてでも僕たちから直接情報を得ることで自分たちが2階層に挑戦できるのかを確認しておきたかったのだろう。

「……クラスメイトだから、聞いてくれればいいのに」

「それも……そうだね」

 霜月さんの言う通り同じクラスの仲間であるのだから裏で探らなくても直接聞いてくれれば素直に答えただろう。しかし僕には話せない情報もあるので話しても問題のない内容だけという制限はついてしまう。

 その事実が心に引っ掛かり歯切れの悪い返事をしながら、裏で僕らを探っているトラ君も僕たちに何かを隠しているのかもしれないと考えるのであった。
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