異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

文字の大きさ
69 / 136

第69話 生徒会長からの呼び出し

しおりを挟む
「さて、今日はさっさと帰るとしようかな」

 本日の授業を全て終え、ダンジョン探索も含めて新しい予定は何も入らなかったため早々に帰宅準備を始める。

 明後日は妹とすみれちゃんそして霜月さんを含む4人でショッピングモールに出かける予定があるが、それまでは暇であるため今日明日で積んでいたラノベやゲームを少しでも消化するつもりである。

 久しぶりにまとまった時間が取れるためウキウキしながら帰り支度をしているとデバイスに連絡が入っていることに気が付く。画面を確認すると差出人には栗林の文字が表示されている。

(栗林さんから連絡なんて珍しいな……)

 栗林さんから連絡が来ることは滅多にないことなので少し身構えながらも内容を確認する。

『本日は予定がないと聞いたので兄君さえよければ私に少し時間を貰えないだろうか?』

 どうやら栗林さんは僕に用事があるようで時間を取ってほしいみたいだ。彼女には普段から世話になっていることもあり時間を割くのは構わないのだが、なぜ彼女は僕の予定を把握しているのだろうか。軽くホラーである。

『ちなみに5分以内に連絡がない場合は私が直接伺わせてもらうつもりだ』

 続く文章には今の僕にとっては死活問題になりそうな内容が書かれている。もし栗林さんが直接Fクラスを訪れ僕に用事があると言い出したとすると、昨日の訓練で感じたクラスメイトからの圧がより一層増してしまうに違いない。これ以上クラス内で浮くわけにはいかないため、彼女がこの場に来ることだけは何としても回避しなければいけないだろう。

 瞬時に判断した僕は急いで栗林さんにどこに向かえば良いのかを返信する。すると直ぐに彼女から学園の地図が届きとある部屋を指定される。この準備の良さを考えると僕がそちらに向かうことを初めから確信していたようで、彼女はFクラスに来るつもりはなかったのかもしれない。

(それにしても、どうやって僕の予定を把握してるんだろう?)

 荷物を持ち栗林さんが指定してきた場所に向かう途中で僕のプライベートを把握できる彼女の情報網のすごさに感嘆するのと同時に、これからどうやって僕のプライバシーを守っていけばよいのかを真剣に考えるのであった。



「栗林さんに指定された場所はここだよな?」

 先ほど受け取った地図に記載されている場所にたどり着いた僕は目の前にある部屋『生徒会室』を見ながらデバイスをしまう。これは目の前の生徒会室に入ればいいのであろうか。中等部の校舎に入るときも緊張をしたのだが、ここに入るのにも謎の緊張感を感じる。

「これは職員室に入るときと同じような感覚だな……。こうしていても仕方ないし、行きますか」

 緊張を誤魔化すように気合を入れた後に目の前の扉をノックする。少しすると部屋の中から栗林さんと思わしき人の声が返ってくる。

「兄君かな?入ってどうぞ」

「それじゃあ、失礼します」

 入室の許可をもらったので扉を開いて生徒会室にお邪魔する。部屋の中には栗林さん以外にも依然に学園ダンジョン前で見たことのある生徒会のメンバーと思わしき人たちがいた。栗林さん以外の3人はこちらに不躾で敵意のこもった視線を遠慮なく送ってきているので歓迎されているわけではなさそうだ。

(嫌われているというよりは……警戒されてる感じかな?)

 部屋に入るなり少しも隠すつもりもない敵意の視線を向けられ針の筵のような思いを味わうことになってしまったが、得体のしれない人物が自分たちのボスである生徒会長に近づいてくるとなるとこのような反応も納得できなくはない。……それでも少し過剰な気はするが。

「すまないね兄君。皆は少し過敏になっていて悪気があるわけではないんだよ」

「いや、別に気にしてないから問題ないよ。それで用事というのはなにかな?」

 栗林さんの態度を見た限りでは周りから向けられている視線は彼女の本意ではないようである。正直このような雰囲気のまま話をしたくはないのだが、この場の空気を改善するための案は何も思いつかないので話を促す。

「……あなた気分が悪くなったりはしていませんの?」

「え?全然そんなことはないけど。……ないですけど」

「別に普通に話してくださって構いませんわ。……やせ我慢をしているようにも見えませんわね」

 用事を早く済ませようと栗林さんに話を促したのだが、横から金髪ロングの少女が割り込んでくる。話し方が上品でありお嬢様らしさが醸し出されていたので敬語で話そうとしたが、不要だと断られる。お嬢様は何故か僕の体調を気にしてくるのだが特に身体に異常は感じられない。

「かいちょ~。この人は本当に外部生なんですか?」

「その通りだよ。冒険者見習い2週間の新人さ」

「それでワタクシたちの威圧を受けて何ともないとは……少々信じられませんわね」

「おにいさん名前はなんて言うの?あたしは奥井日葵おくいひまりだよ。ひまりって呼んでい~よ」

「ワタクシは鈴木朱音すずきあかねと申しますの。よろしくお願いしますわ」

 鈴木さんの反対側から奥井さんというボーイッシュな少女が声をかけてくる。鈴木さんの口から出ていた威圧という言葉が気になるが、今の彼女たちからは先ほどまで向けられていた敵意のこもった視線はすっかりとなくなっていたので無関係ではなさそうだ。

「僕は小鳥遊優人、高等部1年のFクラスに所属している外部生だよ。よろしくね、奥井さんと鈴木さん」

「たかなし……もしかして小鳥遊瑠璃さんのお兄様ですの?」

「そうだよ?鈴木さんは瑠璃の知り合いなのかな?」

「いえ、そういうわけでは……」

「あはは……小鳥遊さんは生徒会では有名だからね~」

 小鳥遊の名前を聞いたときにふたりの頭の中には妹の瑠璃が思い浮かんだようだ。妹は生徒会では有名らしいがふたりの含みのある言い方からするとあまり良い意味ではなさそうである。……瑠璃は中等部で何をやらかしたのだろうか。

「えっと瑠璃が何か迷惑を……」

 妹が中等部で有名である理由を詳しく尋ねようとしたところで、今まで一言も話さずにこちらを傍観していた最後の一人が声を上げる。

「おい!僕はまだ貴様を認めていないぞ!威圧が効かないからなんだ、直接勝負して化けの皮を剝がしてやる!」

「それは面白そうだね。どうだろう兄君、少し彼に付き合ってくれないかい?」

「え?嫌だけど……」

「よし、兄君の了承も得られたし一旦場所を移そうか」

 どうやら僕の意思は尊重されないようで栗林さんは席から立ち上がり生徒会室を退出する。こうなってしまったらどうにでもなれという気持ちになり、彼女を見失わないように急いで後を追いかけることにする。

「……あれ?今、断っていませんでしたか?」

 後ろでは僕の気持ちを代弁してくれるかのような鈴木さんのつぶやきが残されるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった

久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく! ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。 「あなた、一体何者なの…?」 クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!? 平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...