異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第67話 胎動する悪意

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 冒険者育成学園では成績優秀者つまり学内ランキングの上位者に様々な便宜を図っている。そうすることで生徒同士を競い合わせ、互いに切磋琢磨していくことで冒険者としての質を高めていくことが目的となっている。

 その便宜という名の報酬で学園内に個室を用意されるため、学内ランキング上位者は学園内に私室を有しており好きに使っている。執務室のような部屋の主である彼もまた、自らの欲望を満たすためにこの特権を利用しているのだ。

「……というわけで新しい地図なんてものが出たおかけで彼の作戦は失敗したみたいなんだよね」

「そうか。地図が出たごときで崩れるなど随分粗末な作戦だったのだな」

「まあそういわないであげてよ。君は学園ダンジョンに滅多にいかないからわからないだろうけど、1階層にあんな場所があったなんてそれこそ僕等ですら知らなかったんだぜ?」

 部屋の主である細身の青年が長らく学園ダンジョンに潜っていた自分たちですら気が付かなかった未知のエリアを予想することは難しいと、応接用のソファーに座っている恵体な男に対して弁護を入れる。

「ふむ。確かに一理あるな。その未知のエリアに目的のものはあったのか?」

「それはこれから秘密裏に調査するところだよ。作戦が失敗したこともあって外部生の処理に手こずりそうだからね」

「去年のようにはいかんということか」

「そうなるね。今年は去年と違って力をつけたあいつらがちょっとずつ邪魔をしてきて鬱陶しいのと、外部生に少し厄介そうなやつがいるらしんだよね」

「あいつらに関してはさっさと潰せばいいではないか」

「そんなことしたら3年生の彼らと敵対することになるからダメなんだってば。最低でも後1年は待たないと」

「ハァ……面倒なものだな。それで厄介そうなやつというのは?」

「外部生とは思えない実力を持っている男子と2時間ほど魔法を撃ち続けられるほど魔力のある女子だってさ」

「……強いのか?」

「直接見たわけじゃないから何とも。中等部生徒会長との模擬戦では負けたらしいからその程度だよ。でもこっちの支配下に置くには骨が折れそうって話」

「なんだ、それなら興味はないな。俺を呼んだのはこの話を聞かせたかっただけか?」

「まあまあ慌てないで。もう少しで来ると思うから」

 細身の青年がそう言い終えたタイミングでちょうど部屋の扉がノックされる。入室が許可されると先ほど話題に上がっていた人物が扉を開けて部屋に入ってくる。

「さて、それじゃあ早速だけど作戦を失敗した言い訳なんていいから、君はこれからどうするつもりなのかだけ報告をしてくれないかな?」

 部屋の主からの言葉を聞いた男子生徒は顔を青ざめさせ言葉を失ってしまったかのようにその場に固まってしまう。

「なんだ、自分の失敗を取り返す案を何も考えてなかったんだね。じゃあさっさと出て行ってくれないかな。僕の配下に無能はいらないんだよね」

「……っ!!……失礼します」

 部屋の主の言葉によってうまれた怒りの感情が言葉に出ないようになんとか抑えた男子生徒は部屋を退出していく。後に残されたふたりの沈黙を破ったのは客人である男のほうであった。

「良かったのか?あいつ、御子柴は有望株だったのではないのか?」

「勘違いしているボンボンってだけで実力はそうでもないよ。でもプライドが高いから怒りに任せて例の外部生やあいつらを巻き添えに退学してくれないかなって思って煽ってみたのさ」

「よくもそんなことを思いつくものだ……。ならば武力が必要になった時は俺を呼んでよいぞ。それが目的だったのだろう?」

「話が早くて助かるよ。彼が点ける火が大きくなることを祈っておいてよ」

「ふん……。外部生の掌握のほうはどうするのだ?」

「そっちのほうは既によさそうな駒を見つけてあるから問題ないさ」

「相変わらず手が早いのだな」

 部屋の主である青年の相変わらずの手回しの速さに舌を巻いた客人の男は、近いうちに起こるであろう闘争を心待ちにするのであった。



「くそくそくそ!!俺が無能だと!どいつもこいつも俺を舐めやがって!!」

 先ほど部屋を退出した御子柴はひとりでに怒りを口にしながら廊下を歩いていく。先ほどの部屋の主との取引で今回の作戦に成功すれば自分の学内ランキングは上位に食い込むはずであった。しかし昨年の事件から着想を得た自分の作戦は、突如現れた1階層の地図が約3年間誰も見つけることのなかった未知のエリアを暴いたことで失敗に終わってしまった。

 流石にあのようなことは想定することは出来なかったのでもう少し手心が加わると思っていたのだが、部屋の主から向けられたのは憐みと嘲りの視線であった。つまり自分を見下していたうえに期待をしていなかったということになる。彼の人一倍高い自尊心はその事実に耐えることは出来なかった。

「今回の件が上手くいけば上位陣に、いや十傑に入り込むことも夢ではなかったのに」

 学内ランキングの上位10名は十傑と呼ばれ学園からの便宜も格段に良くなっている。さらに企業からの直接の依頼などが届くこともあり、冒険者としての成功が約束されたようなものなのだ。

「いっそのこと決闘を挑んで俺の魔法で燃やし尽くしてやろうか……」

 頭の中に先ほどの青年と決闘する姿を想像するが、そこで冷静さを少し取り戻す。あくまで相手は自分より学内ランキングは上であり情報を秘匿しているため実力も未知数である。そのような相手と戦ったとして確実に勝てる自信はなかったのだ。

「どいつもこいつも……絶対に俺を認めさせてやる!」

 取引相手で会った細身の青年、外部生の連中、こちらに非協力的であった上位クラスのパーティー。憎たらしい人物を頭の中に思い浮かべながらどのように鼻を明かしてやるかを考えていると名案が思い浮かぶ。

「あいつは外部生を支配下に置きたいと言っていたよな……外部生が退学になったら困るんじゃないのか!!俺もあいつらに仕返しが出来るならちょうどいいじゃないか!!」

 こうして御子柴はFクラスを物理的に排除していく作戦を考えていく。それすらも先ほどの部屋の主の思惑通りであることに彼は気が付くことはなかった。
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