聖女を呼ぶ世界から

菜花

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多情な聖女

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 中村香織は毒親のもとに生まれた。具体的には子供を裏ビデオに出演させて金儲けするような毒親のもとに。
 けれど香織はそれが嫌ではなかった。だってどこに行っても嫌われる自分だけど、ビデオに出ている間は皆お姫様みたいに扱ってくれたから。
「香織ちゃんは聞き分けがいいから助かるよ」
 そう言っている監督も裏では頭が足りない女だからノリノリなんだと香織を馬鹿にしているのは知ってる。けれどそれが何だというんだろう。自分の幸せな時間は異性と戯れてる時間にだけあるのだ。将来はこれ系の女優になろうと思っていた。


 そう納得していた人生なのに、突如違う人生を生きろと言われて簡単に納得できるだろうか?

 ある日撮影待ちで一人休憩室にいたら、足元に魔法陣が現れて異世界に召喚された。
 あなたは聖女だ、世界を救う英雄だ、栄光の未来を約束するからどうか役目を果たしてくれ。

 ……は?

 何も答えられなかった。そのせいで向こうは最初口のきけない女なのかと思ったらしい。

 こんな汚れた女が聖女とか笑える。無理に決まってるでしょ。
 今更お綺麗な世界に生きろとか寒気がする。もうそういうの無理。アレルギーが出るのよ。遅すぎた。

 先代聖女がこういうパーティーが望ましいというからと整えられたパーティー。
 頭の固そうな男達にいかにも真面目に生きてきましたっていう感じの侍女。そういうの地雷です。ふざけてるの?
 頭の中ではイライラしてるけれど、心はどんどん死んでいくのが分かった。

 こうなると分かってたら、身体なんて売らなかったのに。今更こんな身体で聖女とか逆に酷い苛めだわ……。

 いつの間にか居た医者に「鬱状態なのでは」 と言われた。そうかも。
 周りからは世界を救ってくれと何度も言われるけど、そんなの知ったこっちゃないわよ。こっちは被害者なんだから。私に優しくない世界なんて向こうでもこっちでもどうでもいい。どうにでもなればいい。

 何も言わずにベッドに身体を投げ出して数か月。その日も息だけしていたら、若い男が忍び込んで来た。

「聖女様。心の病とは聞いておりますが、どうか世界を救ってください。妹が病気なのです」

 騎士団の若手らしかった。遊んでなさそうな様子に、いつのまにかこれをどうやったらとりこに出来るか考えていた。




「こんな、このようなこと、女神がお許しになりません」

 やることやったあとに何だよ。女々しい男だな、と香織は思う。

「私は代えの効かない聖女よ? 許されるに決まってるでしょ。ところで私のテクはどうだった?」
「……天国にいるような気分になりました」
「ふふふ。ありがとう。やっぱこれやってると安心するのよね。ライフワークだったもの」
「……」
「どうしたの? 見損なった?」
「いえ。ただ、その……そういえば聖女の過去は誰も知らないなと」
「知ってどうするのよ。人の地雷踏むなって概念はこっちにはないの? 遅れてるわね」
「も、申し訳ありません」
「謝るくらいなら、あんたのいる騎士団から若くて良い男厳選しておいて。そういう人達と一緒なら旅に出てもいいわ。あ、間違っても女はいれないで。惨めになる。自分のことくらい自分でどうにかするから私のパーティーに同性はいらない」

 
 二代目聖女のことは不自然なくらい記録に残されていない。残しておくと都合が悪い、と女神が判断したのだ。後代に「聖女は多情」 などと残ろうものなら風評被害もいいところだ。下手すれば女神の権威すら危うくなる。
 ただ市井の民話には逆ハーレムを実現した女王なる話が伝わっていて、それが香織のことだと偉い学者は思っているようだ。
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